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第38話 リフォーム ①

飛鳥井の家は今、リフォームの真っ只中だった 子供達が小学2年に進級したのを期に、子供部屋のリフォームに踏み切ったのだった 今までは兄弟は同じ部屋にベッドを並べて生活していた だがこれからは個室へと移動させ自分の空間を持たせるつもりだった 子供部屋はベッドと勉強机とクローゼットを備え、完全な個室を作り上げる 勉強机は大人になっても使えるセパレート型の勉強机を用意する予定だ そしてその子の個性に合わせた部屋を作る予定だ 翔と大空は本を読む事が好きだから壁に備え付けの本棚を 音弥は歌が好きだから防音の部屋に 流生は花が大好きだから窓の横には観葉植物を置ける棚を 太陽は絵を描くのが好きだから沢山絵を描ける様に明るいパステル調を基調にした壁紙に 烈は和室か好きだから畳と和室に合う家具をと思っていた そして子供部屋の前の空間は大振りの観葉植物や椅子を置き、洗濯室とバス・トイレ付きの洗面所も併設させた ガラーンとした空間は機能的な空間へとなる予定だった 子供部屋が出来上がるまでは子供達は1階の客間に布団を敷いて寝ていた 康太の子供達の部屋を作るに当たって、康太は慎一や一生、総一郎の子の部屋も用意する事にした 2階にはまだ手付かずのまま空いたままの空間があった そこへ慎一や一生、総一郎の子の部屋を設ける事にした 瑛太の部屋にも瑛智と柚の部屋を作る工事を入れる事にした 子供部屋は元々用意してあったが、子供の成長に合わせて部屋を用意するつもりだった 7月に入り直ぐに工事が入った 騒がしい日々が続く中、子供達は夏休みを迎えた 夏休みに入ると直ぐに、子供達は白馬へと向かわせた 一生と総一郎と隼人が源右衛門の邸宅の方で面倒を見てくれる事となった 一生や慎一の経営する横浜の方の牧場は子供達の夏休みに合わせて夏季休暇に突入させた 調教師と馬は白馬に来て調整をする事となった 事務員達は業務が再開するまでの間、飛鳥井建設へ出向し業務をする事になっていた 康太と榊原は平日は会社で仕事をし、リフォームの工程をチェックしつつ、子供部屋の家具を選んだりと忙しく過ごしていた そしてリフォームの工事の休みの週末に子供達に逢いに白馬に行き、子供達と過ごしていた 子供達は朝倉や藍崎、夏生の手助けもあって連日虫取りや乗馬に精を出して日に焼けて健康的だった 虫嫌いの大空も恐る恐る蝉やクワガタやカブトを目にして兄弟と仲良く楽しんでいた 源右衛門の邸宅の裏側にプールも作ったから、子供達は暇があればプールを楽しんでいた 夏を満喫して過ごしている子供達を見て、康太と榊原はホッと胸を撫で下ろしていた 本当なら沖縄の水族館を見に行く予定だったが、今回も長距離の旅行は見送った 流生は裏が表が解らない程に日に焼けていた 母の姿を見付けると飛んできて 「母さん、ボクね、かだい全部終わらせたよ」と嬉しそうに話し掛けてきた 「おっ!すげぇな流生」 母を見上げる顔は、嬉しそうに満面の笑顔だった 音弥も両親を見付けて駆けて来る その足取りはもう走れなかった頃の面影はなかった 「母さん、今夜はバーベキューだってラインで父さんが言ってたよ!」 「おっ、それは鱈腹食わねぇとな!」 太陽が画材を持って康太の傍に駆け寄って来た 「母さん!絵、描いたよ」 そう言って見せてくれた絵は大人顔負けのタッチで描かれていた 太陽が描いた絵は源右衛門の邸宅に在る茶室の絵だった 源右衛門が座って笑って茶を点てていた 「じぃちゃん……」 康太はその絵を見て何も言えなくなってしまった 車から荷物を下ろしてやって来た榊原が、康太が手にしている絵を覗き込み 「凄いですね……源右衛門がそこに居て笑っていたのですね……」 何時だって家族を愛していた男は、何時だってこの場所で家族を見守っているのだろう…… 榊原は太陽に「この絵は宿題ですか?」と尋ねた 太陽は笑って 「違うよ、描きたかったから描いただけだよ」と答えた 「ならば応接間にこの絵を飾りましょう きっと皆……喜んでくれるでしょうから……」 榊原は大切にその絵を康太から渡して貰って謂った 翔が「父さん、この荷物中へ入れるの?」と聞いて来た 「ええ、重いのは父が運ぶので軽いのをお願いします」 榊原がそう謂うと子供達は荷物を持って源右衛門の邸宅の中へ荷物を持って入って行った 榊原は外に出て来た慎一に太陽の絵を渡して車を駐車場に戻しに行った 康太は邸宅へ入って応接間へと向かうと、ソファーにドサッと座った 大空は冷えた麦茶を康太の前に置くと、横に座った 「かな、体調はどうよ?」 大空は「大丈夫だよ、辛くないよ」と笑って答えた 大空は体調を崩していた 風邪の様な症状が2週間以上続いていたから、この時期だから白馬に逝く前に久遠の所で色々と検査した 新型コロナではなかったが、検査の結果 風邪ではなく初期の結核と判断された 生まれ持って大空は結核菌を保有していて、ゆっくりと進行して行き、今回の発見に繋がったのだろう、と久遠が言った だが結核はもう死の病気ではない 治療も確立され完治する病気だと謂われ安堵したのは謂うまでもない 康太と榊原は久遠の言葉を信じて前向きだったが、大空の病気を聞いた真矢が言葉を失って狼狽していた そして「私のせいだわ……」と自分を責めていた 康太と榊原は真矢を連れて久遠の所まで行き、治療法の説明をして貰った程だった 真矢は泣きながら 「10代の頃…結核を患ってサナトリウムにいた事があるのよ…… 」 と語り始めた 当時、結核は死の病気とまで謂われなくなっていて、完治不能の病気として隔離されたりしていた サナトリウムと言えば保養所の様なイメージはあるかも知れないが、当時のサナトリウムは僻地の隔離施設に近い場所に建てられていた 村人さえ近寄らない寂しい場所で10代を過ごした 元々家族の縁はないに等しかった そんな真矢を常に支えていたのは役者になってお金を稼いでいた清四郎だった 康太と榊原は真矢がサナトリウムにいた事実に驚いていたが、真矢を慰めた 「義母さん、今は治る病気ですから、気にしないで大丈夫です」 康太が言うと榊原も 「母さん、僕の大空が病に負ける訳ないじゃないですか!」と母に声を掛けた 少し気弱に語気を強めて言葉にした だから真矢は子供達が夏休みに入ると直ぐに夏休みをもぎ取って白馬に同行していた 応接間にいると奥から真矢が顔を出した 「ご苦労さま、暑かったでしょう?」 真矢は嬉しそうに康太と榊原の前に、座った 「どう?リフォームは進んでる?」 ニコニコ真矢が問い掛ける その問いに康太が口を開いた 「ええ、義母さんがカタログでチェックして下さった家具を伊織と見に行ったんですよ!」 「どうだった? 子供達の成長に合わせてカスタマイズ出来て良いでしょ?」 「ええ、凄くしっくり来ました で、義母さんに烈の部屋の家具を考えて貰いたいのですが?」 「良いわよ、烈は和風ティストだったわよね?」 「中々しっくり来なくて……」 「この前ね、臥龍岡(ながおか)監督のお宅にお邪魔した時に、息子さんのお部屋を拝見させて貰ったのよ その部屋を写真撮っても良いかしら?とお聞きしたら快く承諾下さったのよ」 真矢はそう謂いスマホで撮影した写真を康太に差し出した 康太と榊原はスマホを受け取り覗き込んだ 畳敷きの部屋に畳のベッド、文机、文机の前には古風な柄の座布団が敷いてあった 床の間があり、本物なのが一目で解る掛け軸が飾ってあった 床の間には日本刀が飾ってあり、生花が生けてあった どこから見ても立派な和室だった 康太は「すげぇな目指してみるか?伊織?」と問い掛けた 「喜びますね烈 でも何処で手に入りますかね?」 「日本刀は五通夜の時に出した剣でも飾れば良いさ 掛け軸は我が一族も結構有名なモノを持っているからな 蔵から出して来れば良いかんな!」 草薙剣を飾る……榊原は何だか恐れ多い気がしたが、何も謂わなかった 真矢は「烈、和風でないと駄目なのですか?」と問い掛けた それに答えのは榊原だった 「洋風でも大丈夫なのですが、烈は康太の跡を継いで、お茶やお花をやる事が決まっているので、常日頃から和室に親しみ正座をする必要があるのです」 その言葉に真矢は康太がお茶やお花、踊りも免許皆伝だと思い出した 「烈がお茶とお花を継ぐの?」 「ええ、踊りは太陽が継ぎます」 「そう……もう決まってるのね」 寂しそうに言う真矢に康太は 「オレはお茶とお花と踊りを修行の一環として免許皆伝までやらされた 瑛兄は経営学を蒼兄は経理全般を恵兄は製図を、それぞれ決められて極めさせられ生きて行くしかなかった オレの子も避けては通れねぇ道なんだよ 翔が次代の真贋ならば、流生は総代を引き継ぐ 音弥は桜林学園の理事長となり 大空は副社長となる 太陽は経理全般を管理し 烈は監査を引き継ぎ 瑛兄のとこの瑛智は飛鳥井建設の社長を継ぐ 柚は女性の強みを押し出した製図を引く事となる もう既に配置は終わってるんだよ 違えられねぇ未来へ逝くしかねぇんだよ」 「どの子も…配置されているのね……」 「それが飛鳥井の家に生まれた者の死命だかんな……」 「ならば、何処へ出しても恥ずかしくない目を養わないとね……私も頑張って烈の部屋作りを協力するわ」 「ありがとう義母さん」 「ねぇ康太、笙の子は……匠以外の子は? もう定めが決まってるの?」 「匠以外の子の未来は決まっちゃいねぇよ この先望みさえすれば、どんな自分になれるだろう……何の柵もなく好きな道を逝けば良い 己の道は己で切り開いて逝ける…… だからオレの子は美智留が羨ましいんだろうな……」 言葉もなかった 先が決まった道を逝く子と、好きな道に逝ける子…… 他になれない自分のないモノを持つ子が羨ましくない訳がないだろう…… 榊原が真矢に「好きな道に逝けと謂われてもそれはそれでプレッシャーがあるのですよ康太……」と宥める様に口にした 「だな、でも美智留は道を違えねぇ 二人分の人生をきっと謳歌するだろうさ」 康太が謂うと榊原も真矢も頷いた その夜は庭でバーベキューを楽しんだ 子供達の成長に併せて、庭でバーベキューをしよう!と揃えて源右衛門の邸宅に運び込んでいたアイテムがやっと日の目を見る機会を得たのだった きっとこれから毎年夏は庭でバーベキューが出来る事だろう 子供達が大人になったら我が子の為に受け継がれ、楽しい夏の物語を増やして逝ってくれる事となるだろう…… お盆前には飛鳥井の家族も夏休みに突入して、白馬へとやって来た 清隆や玲香は日に焼けて元気に過ごしているであろう孫の姿に安堵した 縁側で家族全員で西瓜を食べていると清隆が 「白馬は年々暑くなりますね……昔は夏でも寒い位だったのに……」 と、都内と然程変わらぬ暑さに辟易して口にした 康太は西瓜をガツガツ食べながら 「だな、最近は何処へ逝っても暑いかんな…」とボヤいた キンキンに冷えた部屋でデローンと自堕落に寝そべって過ごしていた学生時代 だが今は榊原がキンキンに冷えた部屋は体に悪い!とあんまし涼しくない 愛する男の謂う事ならば……と思ってみても暑いもんは暑いのだ 時々隠れて温度を下げて、榊原は黙って温度を上げていた 笙が「今夜は花火を上げるよ」と元気に子供達に謂った 子供達は大喜びだった 康太は笙に「線香花火用意してある?」と問い掛けた 両親と共に悠太も白馬にやって来ていたからだ 笙は「沢山用意してるよ、悠太が好きな線香花火を欠かす訳ないでしょ!」と謂い笑った 悠太は嬉しそうに笑っていた 流生は悠太に「ボク達も線香花火やるからね!」とお膝を撫でながら謂う すると他の子も悠太に甘える様に抱き着き頷いていた 面倒見の良い悠太を、子供達は大好きだった 力哉が悠太の膝にブランケットを掛けると、子供達は冷えない様に撫でていた 悠太は兄と同じ陽の匂いのする子供達が大好きだった 聡一郎は「何か人気者だね悠太」と皮肉交じりに謂うと和希が「拗ねないのよ聡ちゃん」と謂い西瓜を手渡した 和真がお塩を手渡し 「そうだよ、聡ちゃん 僕達は皆、聡ちゃんの事大好きだからね」と慰めた 北斗も「聡ちゃんあのね、ニキビが出来ちゃったのよ、潰すと痕が残るから何か良い方法ない?」と相談した 聡一郎は拗ねてる事そっちのけで、北斗の顔を覗き込んだ 馬の世話や家事のお手伝いを率先してる北斗は自分の事を後回しにする傾向があった 聡一郎は「お肌荒れてるよ北斗、今時男でもスキンケアはする時代だよ!」と謂うと北斗は 「ええぇぇ!男でもスキンケアする時代なの? ならば康太君達もしてるの?」と問い掛けた 康太は「オレはしてねぇけど、寝る時に伊織が何か塗ってくれてるかんな」と面倒臭がり丸出しの返答をした 康太らしくて皆は笑った 瑛太が珍しく口を開き 「男たる者身嗜みを整えずしてどうしますか? 今はメンズ用の商品も多いから、聡一郎に教えて貰い自分のケアもせねば駄目ですよ 北斗は皆の事に気配りする癖に、自分の事は御座なりにしてますからね……」とアドバイスを謂った 北斗はついポロッと謂ってしまって後悔していた 自分の事を構わないのは本当だけどさ……といじけた 聡一郎は優しい瞳を北斗に向け 「一緒にスキンケアの商品を見に行こうよ! そしたらニキビなんて出来ない顔になれるよ! もぉ北斗の可愛い顔にニキビなんてあっちゃ駄目なんだからね」と諭す様に言葉にした 北斗は嬉しそうに笑っていた 和真と永遠は流生達と西瓜を食べていた 誰が一番遠くに種を飛ばせるか?と縁側を陣取ってやっていた そんな穏やかな光景を玲香と真矢は見守る様に見詰めていた 夜になると笙と一生と慎一が花火を上げる準備をした 縁側には大量の線香花火が置かれていた 縁側の近くに椅子を置き悠太を座らせると、子供達が世話を焼いていた 流生が「ゆーちゃん、足には気を付けるのよ」と 音弥が「ボク達も一緒だからね!」と悠太の横に立つと線香花火を手にしていた 太陽が「ゆーちゃん バケツあるからね!」と声を掛けた 大空が「ボク達静かにしてるからね!」と悠太を気遣った 烈は大きな煎餅を食べていた 一日一枚しか食べられない煎餅を美味しそうに食べていた 悠太は「烈はやらないの?」と声を掛けた 烈は気不味い顔をして 「おちちゅきないきゃら……」と答えた 永遠が「烈、おいで!」と楽しそうに大きな花火が見える方に連れて行った 大空が「母さんが烈は落ち着きないから怪我するって……」と答えた 良く見てないと足にポタッと火の玉が落ちる事もある 康太と良く似た気質の烈には線香花火は無理だった 悠太は「そっか……可哀想な事しちゃったね」と答えた そんな悠太に聡一郎は 「見てみなよ、烈は大好きなじぃちゃん達と手を繋いでご満悦だよ」と指さした 永遠と烈は清隆と清四郎に構われて嬉しそうに笑っていた 美智留は瑛太に手を繋がれて楽しそうだった 匠と結子と柚は京香と明日菜と共にいた だが柚は明日菜の横を嫌い、直ぐに離れて烈の所に来てしまっていた 烈が柚を抱き締めると、柚は安心した様に笑った 明日菜は「柚は私の事が嫌いなのだな……」とボソっと呟いた 京香は「あの子は烈から離れなぬのじゃ、お主を嫌ってなどおりはせぬ、気にせずともよい」と慰めた 「姉さん……」 「太陽と大空と烈も……本能なのであろうな 真矢の傍に逝くのを頑なに拒んだ時期もある…… 子は…肌で何かを感じでいるのであろう だが今は太陽と大空も烈も自然と傍にいるであろう? 柚もきっとそうなるであろう 気にせずとも良いのじゃ明日菜 子には子の考えがあるのであろうて! だがそれをちゃんと乗り越えて、あの子達はおるのじゃ……」 「姉さん……ありがとう」 京香は明日菜を抱き寄せ 「だが見るがよい明日菜 烈は猫を背中に乗せて柚に抱き着かれてモテモテではないか!」と笑った 「あの猫……何時も思うんだけど離れないの?」 「烈に惚れて貴史の所から来たらしいからな あの猫は強者なのじゃ、出逢った瞬間に飼い主を選び傍にいる事を決めたのだからな」 虎の様な猫は何時だって烈に引っ付いて傍にいた その場所こそが自分の場所だと譲る気の無い猫は、烈と共にいた 明日菜はそんな光景を見て 「暑そうね……」と口にした 京香は笑って 「それは暑いと文句を言っておったわい 汗疹も出来て久遠から背中に乗せるなと謂れておるが、離れぬからな 烈の汗疹も治りはせぬのじゃ」と答えた 明日菜は飛鳥井のペットはそんなに強者揃いなのか……と言葉をなくしていた 花火を見上げる犬もいる ラブラブな犬二匹と猫を背中に乗せて楽しそうな短足犬も烈の傍に居た 明日菜は本当に飛鳥井はペットも個性的だと想った だがどの子も幸せそうに笑っていて どのペットも幸せそうな優しい表情をしていた 清隆が烈の肩の上にいるトイガーを離す様に持ち上げた 「虎之助、烈のあせぼが治らないでしょ?」と謂うとバツの悪い顔をして清隆に抱かれていた 康太と榊原は縁側で手を繋いで、そんな家族の光景を見ていた 「今年も見れたな花火」 「ええ、生ある限り共に見ましょうと誓ったじゃありませんか……」 榊原は康太の手を強く握り締めた 一生がやって来て「爺むさく、あんで縁側でラブラブしてんだよ」とボヤいた 康太は笑って 「此処だと皆が見えるじゃねぇかよ?」と答えた 一生は「皆が待ってんぜ!」と謂い康太の手を取った ズンズン歩いて行く一生に連れて行かれる康太を追って、榊原も後を追った 頭上にはパァァァァーンと大きな音を立てて、夜空に大きな花を描いた花火が上がっていた ホテルの客は窓から花火を堪能していた 毎年恒例になりつつある花火を目的に、宿泊を取る者も少なくはなかった 派手な花火はないが、都会の夜空とは違った花火を楽しむには充分だった 子供達は母が来ると、傍に近寄り手を繋いだ 康太は清隆に抱かれている虎之助を見ると、受け取り猫を抱っこした 「トラは烈が大好きだな」 康太が言うと虎之助は「にゃぁー」と答える様に鳴いた 榊原が柚を抱っこした 柚は嬉しそうに榊原に抱き着いた 柚は父に良く似た榊原が大好きだった ガルも負けずと榊原の足元に擦り寄った 「ガルも夏休みを楽しみなさい」 そう謂うとガルが「ワン!」とお返事する様に鳴いた 一時間ちょいの花火が終わりを告げると、屋敷に戻って宴会に突入した 慎一と力哉と聡一郎はせっせと宴会の準備をしていた 慎一は子供達に「手を洗ってらっしゃい!」と謂うと、子供達は手を洗いに向かった 虎之助は烈を待って座布団の上に座っていた 一生はワン達の足を拭いて家の中へ入れた ワン達を部屋に入れると、ワンとニャン食事の用意をした ガルはシナモンを床に下ろして、良い子して御飯の時間を待っていた 一生は白馬にもワン達やシナモン達の食器を揃えていた 家族の食事の準備が出来る頃、ワンやニャン達の食事の準備も整い、皆で食事を始めた お腹が減っていた子供達は、料理をお皿に取り分けて貰い美味しそうに食べていた お酒も進み夜は更ける頃、皆の顔が笑顔に染まった とても気持ちの良い時間だった また今年も皆で迎えられたお盆だった お盆の間を白馬で過し、休日が終わると家族達は横浜へと還って行った 康太と榊原も平日は横浜へと還り、週末に白馬に逝く日々となる 子供達は寂しかったが………それを口にする事はなかった 夏休みも終る頃、飛鳥井の家のリフォームが終わった 玲香は和希、和真、永遠の部屋の家具を見繕うと申し出てくれ、リフォームが終わると家具選びをする日々は楽しそうだった 清隆と暇を見つけては家具を見に行き、その子に合わせた家具を探す 時には京香も玲香と共に自分の子の部屋のアドバイスを求め、あれこれ探しに出かけていた 康太と榊原は真矢と清四郎と共に、子供部屋の家具を本格的に決めてどの位置に設置させるかを話し合っていた 真矢と清四郎は嬉しそうに子供部屋を作り上げて行く過程を楽しんでいた 一通り家具選びが終わると、搬送してくれる日を選び家具を入れる準備に入った 細かい詳細を詰めたのは慎一だった 連日こんなこんなハードな日々を送り、家に帰るとクタクタになり応接間で休んでいた 真矢は「家具選びって大変なのね……自分ちの家具選びよりも迷ったし苦労しちゃったわよ」と少し疲れた顔で、でも満足した笑みを浮かべて謂った 清四郎も「子供達が過す部屋ですからね、手が抜けませんでした 家具とかは真矢に任せっぱなしでしたから……こんなにあれこれ迷う事になろうとは……」と困った顔で妻を見て口にした 康太は「本当にありがとうございました オレらだけだとまだ決まってませんでした  オレに関しては自分の服すら買った事がねぇからな……何かを選んで買いに行くって事が至極困難なんですよ……」と礼を言いつつボヤいた 康太の事は総て榊原がやっていた その昔は玲香と瑛太が総てやっていて、消しゴム一つ自分で買いに行った事はないと聞いた事があった 真矢は微笑んで 「私達が出来る事なれば、頼ってくれて構わないのよ 私達も嬉しいんだからね」と気にするなと謂った 康太は真矢に向き直ると深々と頭を下げた 真矢は「康太、突然何なんですか?」と慌てた 康太は頭を上げると 「感謝の気持ちを伝えようと…」と笑った 「止めてよね康太 こうして孫の為に何か出来るのが嬉しいのだから、ね!」 「義母さん……頼みがあります」 真摯な瞳を向けられて真矢は背筋を正して康太を見た 「何かしら?聞ける事なら、頼まれるわよ!」 「烈位の子を育ててはくれませんか?」 「え?………」 真矢は驚いた顔をして康太を見た 「まだ詳細は話せませんが、近いうちに必ず巡り合うので、その時は飛鳥井の一族であもある清四郎さんと真矢さん夫妻に預けたいと考えています」 飛鳥井の歯車になる者は、飛鳥井の一族の者が必ずや育てねばならない 飛鳥井の名のなき者が関わる事は許されてはいなかった 真矢は清四郎を見た 清四郎は「私達に子育ては無理だよ……」と体力的に孫の世話が大変な年になりつつあると感じていたのだ だが康太は引かず 「乳飲み子ではないので、そこまでの世話は要りません」 と謂う 真矢は「明日菜では駄目なのですか?」と口にした 「飛鳥井の者でなくば傍に近付く事も許されはせぬ! ですので、源右衛門の息子であられる清四郎さんと真矢さんに、預けたいと考えているのです まだ時は迫ってはいません……考えておいてくれませんか? 多分、その子を見れば………貴方達は【答え】を出すと想います その時まで……頭の隅にでも入れておいて下さい」 真矢は「解ったわ、その日が来るまで…考えておくわ」と謂った 清四郎も「あぁ、解ったよ、その日が来るまで私達は夫婦で何度も話し合いたいと想う」と返答した 康太はもう何も謂わなかった 榊原は何も謂わず康太の横に座っていた 真矢は想っていた 康太の子は既に配置を終えていた 飛鳥井の子も既に配置を終えていた その中へ入り込む事は許されてはいなかった 此れより飛鳥井の家の中で子を成すならば、その子は外へと出さねばならないと昔康太は謂っていた だから、あの家では引き取れないと謂う事なのだろう……と理解はしていた 清四郎も飛鳥井と謂う名の元に生きる一族の掟を身を以て感じていた 配置せざるを得ない子ならば、清四郎と真矢が既に配された存在なのだと想った 飛鳥井の家に子供達の家具が運び込まれたのは夏休みも終わりを告げた頃だった 慎一はどの部屋にどの家具を順番に運び込むか、業者と入念なチェックをしていた 慎一の指揮の元、テキパキと業者が総出で家具の運び込むをする 運び込まれた家具は組み立てスタッフの手により、手際よく組み立てられ配置された 一人一人配置する家具は違う 小さなミスで総て最初からやり直しとなる為、確認は入念にされた ベッドが入れられると、袋を被ったまま圧縮されたマットレスが運び込まれた 寝具もその上に大雑把に置かれて逝く 康太と榊原は真空されたマットレスを破いて設置して行った 真矢と清四郎がマットレスの上に寝具を敷いてシーツを掛けて行った 真新しい寝具の匂いが部屋中に広まった 子供達は一人の部屋の大きさが6畳取ってあり、広めに作ってあった 一生は子供の部屋のドアに漢字で書かれたプレートを掛けて行った 子供達の名前のプレートは少し大きく読みやすく書かれていた 隼人と聡一郎は慎一の子や一生、聡一郎の子の部屋の手伝いをしていた 和希と和真は今、自分達の部屋はあるが父親と同じ部屋になっていた 子供部屋が出来たら今ある部屋は慎一の部屋になる予定だった その為に子供部屋があった部屋に大き目のベッドを入れて、もう一つの部屋に家電を置いて大きなソファーを入れた 慎一は自分の部屋は良いと遠慮したが、ついでだ!と康太が引かず工事に突入した感じだった 瑛太、京香夫婦の部屋に作った子供部屋の手伝いに向かったのは玲香だった  その日は会社を休んでの手伝いと、気合を入れていた 康太達の子供部屋に家具が運び終わると、次は慎一、一生、聡一郎の子の部屋に家具が運び込まれる事となった 慎一の指揮の元、着実にその子に合った家具が運び込まれて行った 北斗の部屋は翔や大空同様、壁に本棚を誂えさせ作らせた大きな本棚がメインの部屋となっていた 和希も和真は良くPCを使うからPCデスクと併用させていた 永遠の部屋のベッドパイプベッドにした ベッドの下に収納ケースを置いて パイプベッドの前にラグを敷きソファー置いた テレビ台を置いてテレビを置いた ワンルームならではの暖かさのある部屋だった どの子も成長期真っ盛りの為、大き目のクローゼットとベッドを用意した 此処でも一人一人違う家具の為、慎一は慎重に一つ一つ確かめて指示を出していた 康太の子の部屋が整うと、康太と榊原と真矢も手伝いに来た テキパキとベッドにマットレスを敷いて布団を敷いて逝く 康太は少しヘロヘロになっていた   引っ越しばりの作業にどっと疲れていた だがそれもあと少し 慎一は瑛太の子の部屋へと出向くと瑛智の部屋の家具を運び込ませた 柚の部屋の家具も運び込ませる 瑛智は社長になる男だった 故に学ばねばならぬ事は沢山あるし、読まねばならぬ書物も文献も沢山ある 子供部屋にと取っておいたスペースの半分以上が瑛智の部屋となる 壁にはスライド式の本棚が備え付けられていた 床にはフカフカのカーペットを敷かれ、その上に書斎に置いてある様な重厚感のある机が配置され、それに似合った椅子が置かれた 一目で他の子達と違う部屋が出来上がった 康太が一階に降り瑛太と京香の部屋を覗くと、京香は 「何か凄くないか?」と問い掛けた その問いに康太は 「社長になる男だからな、目を養い、教養をつけねぇとならねぇかんな 書斎を意識して作らせたんだよ」と答えた 明らかに他の子達の部屋の完成図とと違う 康太と榊原は唖然とする京香をそのままに寝具の配置をしていた 柚の部屋はメルヘンチックな女の子の部屋らしく仕上がっていた 康太は「京香、柚のベッドを仕上げてゴミを外に出しといてくれ! でないと服を入れたり、やる事はまだ残っているんだぞ?」とボヤいた 我に返った京香は「済まなかった」と言い柚の部屋に入り寝具を出した 慎一が顔を出すと「子供達の服、運び込ませても大丈夫ですか?」と問い掛けた 康太は「おー!大丈夫だ、一生と聡一郎と隼人に声を掛けて名前の部屋に入れといてくれ!」と頼んだ ベッドを整えると、ビニールゴミや段ボールを手にして玄関前に持って行った そこには段ボールとビニールと弁別して、段ボールを纏めている隼人がいた 隼人は康太が持って来た段ボールとビニールゴミを目にして 「キリがないのだ……」とボヤいた 康太は「だな…」と謂いつつ、隼人を手伝い段ボールを揃えて纏めた ビニールゴミは袋に一つに纏め、せっせと片付ける そこへ子供達のクローゼットに入れる服が運び込まれた ゴミをすみに追いやり、段ボールが積み上げられて逝く 子供達の服は着るもの数枚だけ手元に置いて、後は段ボールに梱包して、リフォームの間は倉庫に一時預けた それを戻しクローゼットの中へ収納して逝く クローゼットの中には下着や上着を収納出来る様に引き出しも組み込まれていた 服の段ボールを総て下ろすと、榊原は「少し休みましょう!」と謂った 康太は応接間のドアを開けて、ソファー目掛けてダイブした 榊原は皆に休憩の声を掛けた 慎一と一生はお茶の用意をしにキッチンに向かった 真矢と玲香と京香も応接間にやって来ると、疲れた顔をしてソファーに座った 玲香は「お疲れさまでしたね」と皆に声を掛けた 京香は玲香に「瑛智の部屋はあんなに凄くて大丈夫なのだろうか?」と心配した声で問い掛けた 玲香は「真贋の決めた事じゃ、誰も異論など唱えたりはせぬ」と答えた 真矢は「そんなに凄いのですか?」とまさかと想い口にした 京香は「凄いのじゃ……真矢さんどうぞ見てくだされ」と言い立ち上がった 真矢は京香に連れられ瑛智の部屋へ向かった そしてその文豪の書斎ばりの空間に言葉を失った 子供部屋じゃないわ……これは………と想った 真矢は息が詰まるんじゃない?この部屋……… とは想ったが口には出さなかった 応接間に戻ると真矢は「本当に凄い部屋だったわ!」と笑ってソファーに座った 康太は笑って 「あれは瑛兄の書斎を似せて作らせたんだよ」と謂った 瑛太夫妻の部屋の横には瑛太の書斎が在った だが、その部屋は誰も足を踏み入れた事が無い空間だった 妻の京香でさえ、瑛太の書斎には足を踏み入れた事がなかった 書斎の掃除は慎一が定期的に入ってやっていた 許された者しか入れぬ部屋だった 真矢は「瑛太には書斎があるのですか?」と初耳だとばかりに問い掛けた 「基本瑛兄は会社での仕事は会社で片付ける だが飛鳥井の一族の総代でもあるかんな 一族で必要な決済やら事案やらあるんだよ それを書斎でせっせと片付けてるんだよ まぁ慎一と伊織が手伝って片付けてる時も多いんだけどな……」 一族総代の仕事までしていたとは…… 総代とは聞いた事があるが、具体的には聞いた事がないから解らなかった 康太は真矢の疑問は解りつつ言葉を続けた 「その瑛兄の書斎のミニチュア版が瑛智の部屋って事だ アイツは此れより目を養い、教養を身に着け、経営学を学ぶ 一族のNBA習得者が瑛智に経営学を教える そしてハーバード大クラスの大学へ留学してMBAを習得して会社へ凱旋しねぇとならねぇかんな 次代の社長が瑛兄より劣る訳にはいかねぇかんな 必要投資でもあるんだよ」 もう言葉にもならなかった 飛鳥井瑛太と謂う存在の偉大さが伺えられる 玲香は我が子をより理解しているから、頷いていた 京香も夫の大変さを身を以て知っているから、今更ながらに大変さを噛み締めていた 康太は話題を変える様に、我が子の事を口にした 「なぁ伊織、洗濯機を使わせるのは、まだ早えぇよな?」と心配そうに謂う 榊原は「一つ一つ教えて行けば良いのですよ!」と我が子を信じて言葉にした 康太はバツの悪い顔をして 「オレ……高校の寮に入るまで蒼兄にやって貰ってた……」 【康太】と書いた洗濯袋に洗濯物を沢山詰めて、洗濯機に放り込んでおけば、蒼太が洗濯を終えた洗濯物を干して畳んで部屋に置いておいてくれたのだ 蒼太は康太が桜林の寮に入るその日まで、そうして弟のサポートをしていてくれたのだ 榊原は優しく康太を抱き締め 「それは黙ってましょうね! 子供達にはなるべく自分の事は自分で!をモットーにして行って貰わねばなりませんからね!」 と謂いニコッと笑って隠蔽確実な発言をした 康太は幸せそうに笑って頷いていた 一生が話題を変えるように 「そう言えば烈の部屋のドアの猫用出入り口の点検したのかよ?」と問い掛けた 「おー!それな!」 康太はそう謂い慎一を見た 慎一は「大丈夫でしたよ、既に虎之助が入って陣取っていましたからね ですので猫用のトイレを配置して来ました 夕飯は応接間で食べるので水とトイレだけで大丈夫なので、揃えて来ました」と説明した 飼い主から離れない猫を考慮して、猫用のドアを作った 一生は「虎之助もう入ってたのかよ?」とボヤいた 慎一は「離れませんからね!」と半ば諦めつつ謂った 康太は「烈の部屋畳だかんな、爪研ぎさせねぇようにしねぇとな……」と定期的に爪切りしに行っているが、如何せん猫の爪は時として狂気にもなるのだ その爪で畳や壁を爪研ぎされたら溜まったものではない 慎一はニコッと爽やかに笑い 「虎之助にはこの部屋で粗相したら兵藤の家に返しますからね!と言っておきましたから大丈夫です!」としれっと謂った その瞳は笑ってなどおらず、背筋が寒くなったのは謂うまでもない 兵藤の家に突き返されたくない虎之助は、ビビってチビリそうになりながらも堪えたんだろうな……と想いつつも康太は笑った 紅茶をズズッと啜りつつ康太は楽しそうだった 一休みして子供達の服をクローゼットへ片付ける為に、それぞれ部屋へと戻った 玲香は隼人と共に慎一の子の部屋へ向かった 一生と聡一郎は我が子の部屋へ向かい 康太と榊原と慎一は3階の子供部屋に向かった 榊原がテキパキと指示して康太を動かす 康太はハンガーに吊るす服をせっせと担当し 榊原は引き出しの繊細な収納を担当した 慎一は烈の部屋に行き、掛け軸や剣を床の間に飾り整え始めた 部屋の外に片付けられた段ボールがポンポンと出される 慎一は烈の部屋のクローゼットに服を片付けると、康太と榊原を手助けして片付けを始めた 総てが終わると、子供達の帰宅の時間になっていた この日は帰ったら応接間で呼びに行くまで待ってるのですよ!と榊原が子供達に言っていたから多分応接間で良い子して待っているのだろう 総てが終わると康太は「もう駄目……」と疲れ果てて椅子に座った 榊原は笑って手を差し出すと 「今宵は子供達の部屋の完成披露の席を設けてあります まだ弱っていては駄目ですよ?」と謂った 康太は愛する夫の手を取ると、立ち上がった 康太は子供部屋の外からグルッと当たりを見渡し 「やっとだな……」と口にした 慎一は子供部屋の前に設置した洗濯室に設置されたドラム式洗濯機と乾燥機を確認し 段ボールとビニールゴミを手にすると、片付けて下へと下りて行った 榊原も感慨極まった声で 「この空間にやっと子供部屋が出来ましたね どうですか?この空間は君が描いていた場所に仕上がってますか?」と問い掛けた 「あぁ、オレが描いていた通りの光景だ……」 「此処からがスタートみたいなモノですからね 気は抜けませんよ康太」 「あぁ、解ってんよ伊織」 「では子供達を呼んで来て貰いますか?」   「おう!」 榊原は1階に戻ったであろう慎一に電話して、子供達がいるなら3階に連れて来る様に頼んだ 暫くして子供達が3階にやって来た リフォームが始まって以来、子供達は白馬へ行っていたり、客間で寝起きしていたから3階に来る事は滅多となかった 屋上の流生の花達は慎一がちゃんと見守っていた 3階に子供達がやって来ると、見た事のない光景に驚いた様な顔をしていた 康太は「翔!」と名を呼んだ すると翔が母の傍にやって来た 「おめぇの部屋から行くぞ!」 「はい!」 「部屋のドアには【名前】入のプレートがあるかんな、それを確かめてから入れ! 翔、おめぇの部屋から行くぞ!」 康太はそう謂い翔の部屋のドアを開けた 几帳面な翔の性格が出た部屋に、翔は瞳を輝かせていた ワンルームの部屋の壁はクリーム色の壁紙と、淡いパステル調の水色のシーツの掛けられたベッドと落ち着いた雰囲気の勉強机があった 壁に備え付けられたクローゼットはウオークインクローゼットに近い広さで、整頓がしやすく設計されていた 大きめの窓の横には壁にそって本棚が在った 康太は「気に入ったか?」と尋ねた 翔は「はい!気に入りました!」と嬉しそうに答えた 自分だけの空間が出来た瞬間だった 康太は机の上に置かれた段ボールを指差し 「机の整頓はお前がやれ! あの段ボールの中にお前の教科書とか入ってるかんな」 「はい、解りました!」 翔が返事すると康太は部屋の外へと出た そして「流生!」と言い流生の部屋のドアを開けた お花が好きな流生の部屋の壁紙はパステルグリーンで窓から射し込む陽の光に癒やしの空間がゆらゆら揺れていた 窓の横には観葉植物が置ける花台を設置して、翔達程じゃないが本棚も壁に備え付けられいた 流生は目を輝かせ「ボクの部屋?」と問い掛けた 「おう!流生の部屋だ!」 「ステキね」 「好きなお花を置くと良い お前も段ボールの中に教科書や使っていたモノが入ってるかんな ちゃんと片付けするんだぞ!」 「はい!母さん」 流生は嬉しそうにベッドに座り足をバタバタとさせていた 康太は部屋の外に出ると「音弥!」と声を掛けて、音弥の部屋のドアを開けた 音弥の部屋は軽めの防音になっていた 最近の音弥は楽器を弾いたりもしていたので、音漏れを気遣って防音を施した 音弥は部屋に入ると淡いパステルピンクの壁に目を輝かせていた 音弥の部屋はキーボードが置かれ、楽器が収納されるべく壁に備え付けられた棚になっていた 音弥は早速キーボードの椅子に座り弾いていた 康太は「気に入ったか?」と問い掛けた 「母さん、めちゃくそ気に入ったよ!」 「それは良かった 机の上に段ボールがあるかんな お前の教科書や使っていたモノが入ってるから片付けするんだぞ!」 「解ったよ母さん」 「ちゃんとやらねぇと翔の雷が落ちるかんな!」 康太が言うと音弥は首を竦め、キーボードから手を離し椅子から下りた 「解ってるよ母さん 今すぐやるよ!」 音弥が答えると康太は笑って部屋を出て行った 「太陽!」 康太はそう謂い太陽の部屋のドアを開けた 太陽は康太に着いて部屋に入って行った 太陽の部屋は多趣味で絵も描くから本棚と机は皆と同じだが、部屋の半分が油絵の具でも拭けば取れる塗料の入った壁紙と拭きやすい床になっていた 勉強机とは反対の部分にはイーゼルも置かれていた 絵の具や画材が置ける棚も作られていた 康太は「この床の色の違う方で絵を描くんだぞ! この床や壁紙は綺麗に拭ける様に細工がしてあるかんな 好きな様に絵を描いて良い!」と説明した 太陽は瞳を輝かせ 「母さん嬉しい」と謂った 康太は太陽の頭を撫でて 「お前の感性は人に癒やしを齎す 優しい絵を沢山描くんだぞ!」と謂った 「母さん、沢山描くよ」 「お前も机の上に段ボールが置いてあるかんな 自分の使いやすい様に片付け頑張るんだぞ!」 「はい!母さん」 康太は部屋の外に出ると「大空!」と名を呼び、大空の部屋のドアを開けた 大空は母の横に並び、部屋の中へと入って行った 淡いパステルブルーの色調で整えられた部屋は几帳面な大空らしい部屋だった 本が好きな大空もやはり壁に本棚が備え付けられていた 実験や観察が好きな大空の為に、本棚には既に図鑑や百科事典が並べてあった その本は瑛太が子供の頃使っていた本だった 弟の為に色んな図鑑を見せてあげた 色んな事を調べる為に百科事典を揃えた その本は大空にプレゼントしたいと瑛太が言ったのだ 大空は瞳を輝かせ図鑑の背表紙をなぞった 「お前も机の上に段ボールが置いてあるかんな 自分の好きな様に片付けるんだぞ!」 「はい、母さん!」 楽しそうに本を見ている大空を置いて、康太は部屋の外へ出た 「うし!次は烈の部屋だ!」 烈はやっとこさ呼ばれて母の傍に行った 烈の部屋のドアを開けるとい草の匂いがした 畳敷きの部屋には床の間が在った 床の間には五通夜の時に出した剣が飾られ、見るからに本物だろ?これ?的な掛け軸が掛けられていた 和畳のベッドと文机、和をベースに作られた部屋は昔ながらの温もりに包まれていた トイガーの猫は既に自分のスペースの寝床に丸くなり寝ていた 「どうだ?烈」 「ちゅごいね、おちちゅくね!」 「それは良かった お茶とお花の師範代が来てくれるからな ちゃんと習って免許皆伝まで頑張るんだぞ!」 「ぼちぼち、ね」 烈の言い草に康太は笑った 「ぼちぼちで良い 倍速で駆け抜けても良い事なんかねぇからな! どうするよ?おめぇは? 部屋に残るか?」 「かあちゃといくよ!」 と謂うと烈は康太と共に部屋を出た 榊原は烈を抱き上げると 「どうでした?部屋は?」と尋ねた 「おちちゅく へやよ!」 「それは良かったです」 「かけじゅく ほくしゃいなら もっといいのにね」 「解りました、康太が変えてくれると想いますよ」 榊原はそう謂い烈を下ろした 康太は「伊織、次は和希達の部屋に行く!」と謂うと、榊原は慎一に電話して和希達を2階に連れて来てくれと頼んだ 2階に下りて行くと北斗が烈を見付けて近寄って来た 「烈!」 「ほくちょ!」 二人は仲良く笑顔で名を呼びあった 康太は「んじゃ北斗から行くぞ!」と言い、北斗の部屋を開けた 壁一面に本棚が備え付けられ、本が並べられたら、ちょっとした図書館ばりの空間となる クローゼットは康太の子達と変わらないが、机は大人向けの機能重視した机と疲れないゲーミングチェアとなっていた そして部屋の中央に本を読みながら寛げる様にと、ロッキングチェアが置かれていた 北斗は瞳を輝かせ「素敵!」と感嘆の溜息を漏らした 「気に入ったか?」 康太が尋ねると北斗は「はい!とても素敵です!」と答えた 「おめぇも私物を片付けたり、自分の使い勝手の良いように整頓するんだぞ? それとお前の部屋の横には掃除機や塵取りや箒、ハタキやワイパーモップも入ってるから、自分で掃除するんだぞ! 皆にも教えてやってくれ!」 「解りました ありがとう康太君」 康太は笑って部屋の外に出た 「次は和希」 名を呼ばれると和希はワクワクした足取りで康太の横に立った ドアを開けるとクローゼットやベッド、机と椅子は北斗と同じ配置だが、寝そべってゴロゴロしたがりの和希の好みに合わせて、部屋の中央ににはラグが敷かれ、クッションやぬいぐるみが置かれていた 「気に入ったか?」 「凄いよ!康太君! ありがとう、僕好みの部屋で凄く嬉しいよ!」と笑顔で答えた 「PCは和真の部屋か父さんの部屋で使うと良い」 「僕はあんまし調べ物したりしないから、和真に頼むから構わないよ」 「なら片付け頑張れ!」 和希は机の横に立った無造作に積み上げられた段ボールを見て、早速片付け始めた 和希の部屋を出ると「次は和真だな」と謂った 和真は静かに康太の傍へと立った この男はますます慎一に似て寡黙になって来た 和真の部屋は相場師の飛鳥井蓮のアドバイスを受け、蓮の事務所で使っているPCを運び込ませちょっとしたPCルームばりの設備が整っていた 大きな事務机ばりの机の上にはPCのモデムと大型テレビが置かれていた その横に何台ものPCが置かれていた 「蓮の事務所の技術屋が後でセッティングに来るかんな、お前は向こうの勉強机に教科書とか並べて片付けしてろ!」 「蓮さんはやっぱり遊ばせてはくれないんですね」 部屋を見て和真はボヤいた 「まぁ蓮だからな、お前はアイツの弟子だかんな!」 「日々サボりながら精進します!」 康太は和真の頭をクシャッと撫でて「それで良い!」と謂い笑った 「お前も片付け頑張るんだぞ!」 と謂い段ボールを指さした 和真は「解ってます!早く片付けたら流生達のお部屋のお手伝いに行きます!)と謂った 康太と榊原は「永遠」と名を呼ぶと永遠の部屋のドアを開けた 永遠は「僕の部屋も……あって嬉しいです」と嬉しそうに言った 康太は永遠の頭を撫でて 「当たり前じゃねぇかよ お前は人の顔ばかり見て遠慮ばかりしてる それが心配だと和希と和真は何時もお前を気にしている お前が幸せじゃねぇとお前をこの世に生み出してくれた人も幸せになれねぇんだぜ?」 と言った 永遠は康太を見上げ瞳を潤ませた 「お前を母から離したのはオレだ お前にはお前の逝かねばならない道があったからだが……お前を孤独にさせ不幸にさせる為に連れて来た訳じゃねぇ! だから胸を張れ!永遠 お前の逝く道は巌しくとも、お前は一人じゃねぇって覚えておけ! 飛鳥井の家族がいる 榊原の家族がいる そしてお前を大切に想う存在がいるって!」 永遠は頷いた 康太は永遠の背を押して部屋の中へと迎え入れた 永遠の部屋は何処か懐かしい感じのする部屋だった 永遠は康太を見上げ「康太君……この部屋……」と問い掛けた 永遠の部屋は乳飲み子の頃母と呼ばれた人と住んでた部屋に似ていた だが確かな記憶はない 遥かな幼少期に幸せだった記憶として永遠の脳裏に焼き付けられた光景として残ったのだ 何処なのか? 誰といたのか? そんな事は解らない だが優しい手に抱かれて過ごした光景として蘇り……永遠は泣いていた 康太は永遠を抱き締めた 「この部屋はお前が幸せだった時を脳裏に刻んだ残像だ お前は母と過ごした日々を…その脳裏に焼き付け…焦がれていた あの人に……逢わせてやる事は出来ない…… だがお前が焦がれた残像なら……再現出来ない事もない だから作ったんだよ 聡一郎はあの人の事は何一つ知らない お前に一切関与させなかったからな……だからこの部屋は聡一郎が目にしたとしても解らねぇだろう だが感の鋭いアイツは多分…お前の部屋には来ないだろう…… だから敢えて作ったんだよ もう良いんだよ永遠 誰かの顔色を見て生活するのは止めろ お前はお前の好きな様に生きれば良い 好きに生きたって最終的に四宮興産の社長になりさせすれば良い! どの過程を辿ったとしても、行き着く先さえ同じなら、お前は寄り道しようとも良いんだよ」 「康太君……」 康太は永遠を離すとポンポンと頭を撫でて 「早く片付けないと和希と和真が世話を焼きに来るぜ?」と謂い笑った 永遠は涙を拭うと「大変だ」と謂い嬉しそうに笑って机へと向かった 康太は榊原と手を繋ぐと「頑張れよ!永遠!」と謂い部屋を出て行った 階段を下りて1階に向かうと瑛智が康太に近寄って来た 「おっ!待ってたのか?瑛智」 瑛智は頷いた 康太は瑛智と手を繋ぐと瑛智の部屋へと向かった 子供部屋は瑛太夫妻の部屋の中にあったが、リフォームして孤立して作られていた だから瑛太夫妻の部屋を通らずとも、瑛智の部屋へと行ける作りになっていた 女の子の柚の部屋は瑛太夫妻の部屋の中から行ける作りにしてあった 康太は瑛智の部屋のドアを開けた 榊原と手を繋いでやって来た烈が「ちゅごいね!」と目を輝かせて呟いた 康太は瑛智に「お前は飛鳥井建設の社長を継ぐ男だ!此れよりお前は経営学を学び、社交界のマナーを学ぶ、そして語学を学び、飛鳥井瑛太の跡を継ぐべく日々を送る事となる」と告げた 瑛智は「はい、わかりした!」とその顔を引き締めて答えた 榊原は瑛智に「気軽に行きましょう!そんなに気張らなくても、君をサポートする人間は沢山いるんですからね!」とポンポンと瑛智の肩を叩いた 康太は「部屋はこんなに堅苦しいけど、性格まで堅苦しくならなくて良いかんな! でねぇと飛鳥井の奴等は息苦しい奴しかいねぇのかよ?って謂われちまうかんな!」と謂い笑った 榊原は冗談にならないから困った顔をして烈を見た 烈は笑っていた そして烈と共に瑛智の部屋を出た 康太は「机の上を片付けて部屋に慣れておけ!」と謂い部屋を出た 応接間とドアを開けると、物凄い勢いで猫が走って来て烈の背中に飛び乗った 応接間の中へ入ると玲香と真矢と清四郎がソファーに座っていた  康太は「母ちゃん、義母さんと義父さん、お疲れ様!」と謂いソファーに座った 玲香は「他の子は片付け?」と問い掛けた 「おー!学校で使うのは自分で片付けた方が解りやすいかんな! 烈はまだ幼稚舎だかんな、片付けるモノがねぇから一緒にいたんだよ」 真矢は「そうよね、まだ年中さんだもんね」と呟いた そして「年中さんの烈が一人で部屋で寝るの……大丈夫?」と問い掛けた 年長さんの美智留はまだ両親と共に寝ているのに…… 「寂しかったら兄の部屋に行くだろうし 慎一に一緒に寝てとか言いそうたけどな オレ達だって烈が一緒に寝てと謂うなら寝るしな でもな…烈はきっとオレとは寝たくねぇだろうけどな!」 そう謂い康太は笑った 真矢は「どうして?烈は母さんっ子なのに?」と問い返した すると烈が「かぁちゃとねりゅと……どすっとかばきっとか……いたいきゃらね」とボヤいた 真矢は康太の寝相を思い出した 清四郎は身を以て実体験したから笑っていた 片付けを終えた子達が応接間にやって来ると、慎一はジュースとお菓子をテーブルに並べた 翔と烈は熱々の緑茶にヘルシーな糖質制限された羊羹を二切れ茶器に乗せて置いた 流生と音弥は食事制限の掛かった兄弟に胸を痛めていた 分けてあげられるなら分けてあげたい でも食べたら鬼の久遠先生に怒られるのは翔と烈なのだ 太陽と大空も羊羹二切れしか食べられない兄弟の為に、おやつをあまり食べない様にしていた 出されたお菓子にも手を付けない兄弟を見て真矢は 「どうしたの?疲れたの?」と問い掛けた すると慎一が「翔と烈が食事制限中なので、兄弟も我慢しているのですよ」と答えた 烈は二切れの羊羹を慎一に更に細かくして貰い、味わう様にモクモクと食べていた 翔もチビチビと羊羹を食べていた そこへ和希と和真と北斗と永遠がやって来た 和希は「ほらほら!おやつ食べるよ!翔と烈も食べてるんだよ!君達が食べなきゃ逆効果だってわかってる?」と子供達に謂い聞かせた 和真は寡黙にお菓子を流生に握らせた 北斗は「一緒に食べるから美味しいんだって言ったよね?」と静かに怒っていた 子供達は慌てておやつを食べ始めた 永遠は日頃大人しい奴が静かに切れると怖いのを身を以て解る事となった 玲香と真矢と清四郎はそんな子達を優しく見守る様に見ていた 康太は我が子に「今夜から自分の部屋で生活する事になるけど、どうだ?大丈夫そうか?」と問い掛けた すると音弥が「烈……大丈夫なの?」と弟を心配して言葉にした 烈の年の時、自分達は何時だって兄弟と共にいた 康太は烈を見た 「どうよ?烈」 「らいじょうびよ、さみちかったらにーにーのへやにいくから!」と謂いニコッと笑った 音弥は烈を抱き締めた 「何時でも来て良いからね!」と甘い兄は何時だって弟を想うのだった 虎之助が邪魔をするように烈の顔を舐めて甘えるから、音弥は虎之助を押し退けようとした だが負けて悔しそうにしてる音弥を兄弟は慰める様に肩をポンポンとした 皆 個性が出て来た

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