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第51話 真実
久遠譲は元飛鳥井の家族が住んでいた家に住み始めた
家はリフォームされ新しく作り変えられていた
久遠達は1階と2階に住まい
3階の部屋は総て壁を取っ払い事務所にした
神威の弁護士事務所の弁護士ではなく裏方スタッフ専用の事務所となった
主な仕事は依頼人の調査をする班のスタッフの事務所にしてデスクを入れ、仮眠室を作った
出入り口は全く別の所に作り、3階は外からしか出入り出来なくした
志津子は玲香の部屋、義泰は清隆、久遠は瑛太が住んでた部屋にそれぞれ部屋を決め住み始めた
客間と応接間はそのままだが総代の部屋は洗濯室とされ、お天気の悪い日とか干せる様にしてあった
2階には神威が慎一の部屋 有栖、拓人と拓美も子供部屋を大きくして貰い
住んでいた
慎一の部屋だった部屋は2DK、他の部屋も総て壁をぶち破り1DKにされていた
栗栖は源右衛門の部屋だった部屋で生活をしていた
皆 快適な生活を始めた
掃除は飛鳥井の子を見習い、自分の部屋は自分で、そして廊下や階段やキッチン等などは当番制にしてやっていた
有栖は神威の部屋も掃除しちゃったりするから
拓人に「本人にやらせなよ!」と良く言われる
だがそんな事を言いつつも、手伝ってくれるのだった
食事も当番制、有栖は結構お料理が出来ていた
拓美に「上手だね!」と褒められ有栖は
「烈が教えてくれたんだよ!」と話す
「掃除も料理も片付けも全部、烈が教えてくれたんだよ!」
烈がマメなのは知っていた………
だが他の飛鳥井の子と比べ、拓美と拓人は烈とはあまり接点がないのだ
あの貫禄、あの風格、あの威厳、傍に簡単に近寄れない雰囲気がして…………
遠巻きに見ているだけだった
烈を身近に感じられるのは………テレビ画面の中だけだった
父は相変わらず忙しい………
祖父母も相変わらず忙しい
神威は相当忙しいのか?還るのもままならない日もある
栗栖は拓美と拓人に良く接してくれる
有栖と拓美と拓人の世話を焼いてくれる
お兄ちゃんみたいな存在だった
有栖はお人形みたいに美しい
その美しい顔に学園でも話題となる程に美しい
…………が、何か問題が起きそうになると烈が出て来るから…………有栖の穏やかなで静かな学園生活が脅かされる日はない
飛鳥井有栖に手を出せば………飛鳥井宗右衛門が敵に回る
そしてどう言う訳か?有栖院家も敵になるとの噂に…………桜林の保護者は絶対に失礼な事はしてはなりませんよ!と我が子に言いつける程だった
飛鳥井宗右衛門を敵に回したら痛くもない腹を探られ…………門倉一族を滅ぼした様に………
跡形もなく消し去れられるのは有名な話だった
それでなくとも前世の宗右衛門も、敵に回せば根っこさえも遺さず消し去られると有名な話だった
有栖には有栖の性格に良く似た、おっとりとした友達が出来ていた
ある日 学園長に拓人と拓美が呼び出しされ、学園長室に行くと………
腕を吊り痛々しい飛鳥井烈がソファーに座っていた
神楽四季は利き手が使えない烈の代わりに、世話を焼いていた
烈は呼ばれて来た拓美と拓人に
「あ、せんせーの子が来たわね!」と言った
拓美は「君が僕達を呼んだのかい?」と尋ねた
「そうよ、君達と話をしたくて待っていたのよ!」
拓人は「え?僕達と?どんな話なんだい?」と問い掛けた
烈は宗右衛門の声で
「主等は母親が自分達を捨てたと友達に言っているのだとか?」と問い掛けた
拓美はフンッと鼻で笑い「本当の事じゃないか!」と吐き捨てた
「クソ生意気な輩じゃな!
主等は飛鳥井を名乗るなれば、礼節を持って我と接するモノであろうて!
我は飛鳥井宗右衛門!
主等は一族の末端の者であろうが!分を弁えろ!」と吐き捨てた
拓人は「別に僕等は好きで飛鳥井名乗っている訳じゃないから!」と皮肉に言う
「儂に喧嘩を売ったな!
よし!その喧嘩を買ってやるとしようぞ!
何日持つかな?」
と宗右衛門は嗤った
身も凍る………嗤いに拓人と拓美は言葉もなかった
「その前に無知な主等に思い知らせねばならぬ!
紫雲、さぁ紡いだ想いをこの子等にぶち込んでやるのじゃ!」
宗右衛門が言うと菩提寺の陰陽師 紫雲龍騎が姿を現した
「本当に年寄りはせっかちでいかん!」とボヤき紡いだ想いを拓人と拓美の額に吸い込ませた
すると拓美と拓人は意識を手放し………倒れた
四季は「酷な事をしますね!宗右衛門は………」と言う
宗右衛門は「この者は親の思いを知らぬ故、不完全な成長をしてしまった
それ故、このまま大人になれば人の感情も解らぬ愚か者にしかなれぬ!
そんな輩が医者や弁護士になったら、それこそ恐ろしいわい!」と吐き捨てた
「久遠医者は不器用な父なのでしょうね………」
「母親もな………不器用な未熟者じゃった!
偶然か必然か………柘植の事務所に此奴らの母親がいたのじゃよ!
儂は真贋と違い果ては視えぬが、運命は詠める
運命を詠んだら………久遠も母親も後悔に苛まれ、全く進めてはおらぬからな!
ここいらで真実を教えて、思いを解らせる必要があるのじゃよ!
志津子にはもう言って許可を取ってある
志津子は宗右衛門の想いのままに!と申してくれてるからな、儂の好きにさせて貰うつもりじゃ!
此奴等の母親は名前を変えさせ、運命も正しい方向へと変えてやった!
本名も変えたからな、もう久遠が知るおなごではない!
まぁ未熟な男女が愛して結婚したが、未熟な母は育児ノイローゼになり、仕事ばかりして家庭を顧みなかった夫を責め……久遠は家に帰らなくなった
その頃、女優だった女の自殺未遂がニュースになり久遠は駄目な父親としてレッテルを貼られパッシングにあい国外へ逃げ出した
置き去りにされ母親は……幾度も自殺未遂を起こし……子は児童相談所装置にされ施設に送られた
母親は我が子を………手放す事で解放された…が…
罪に苛まれ母は絶望の中にいた
それが現実じゃ!
悪いのは母だけではない!
なのに何故かいつの間にか、悪いのは母だけとなった!
だから【真実】を視せてやるのじゃよ!
そしたら【真実】が解る
そこからは菩提寺に入れて叩き込んでやるつもりじゃ!」
四季は「………何が真実か……子は目の前の現実しか知りませんからね……」と言った
宗右衛門は「四季、今度儂とデートするのじゃ!
生涯忘れぬデートをさせてやろう!」と謂う
四季はそれは怖いよ宗右衛門………
と想いつつ、烈の誘いを断れない自分がいるのを知っていた
拓美と拓人は菩提寺からスタッフを呼び寄せ連れ出し、職員達が寝泊まりする宿舎へ運び込んだ
どうせ今夜は目が醒めないからだ
拓美と拓人は夢を見ていた………
愛し合う恋人同士は両親なの?………
二人は愛し合い………僕達を誕生させたの?
そう思える風景だった
女優をしている母は父を愛していた
そして結婚発表をし正式に結婚した
医者だった父は忙しく……母は一人で泣いていた
子が出来、僕達を孕んだ時の両親は幸せそうな顔をしていた
…………が、母は生まれて初めての育児に疲れ切っていた
眠れずに双子の世話をする
助けて欲しい時に夫はいない…………
「ねぇ、あなた………少しは子育てを手伝ってよ……私を助けてよ!」
眠れず子育てをする母は疲れ果て………父を責めた………
父は医者である事を理由に………帰らなかった
母は………総てに絶望して………手首を切った
精神状態が不安定だった事を気にして、事務所のスタッフが来た時には………血の海の中双子は泣いていた
この事が大々的にスキャンダルになり雑誌の記事になると、無関心だった父親が母を追い詰めた………とパッシングされ………父は弁護士に全財産と離婚届を託し…倭の国から出て行った……
絶望の中……心に血溜まりの花を咲かせた母は………廃人のようになり………生きる事を諦めていた
そんな母を生かしたのは飛鳥井康太だった
彼は母を生かし、時々子供の写真を送っていた
母はずっと悔いて、贖罪の日々を送る
僕達が祖父母に愛され生活している時…………
母は苦しみに耐えていた
これが現実?
僕達は母に捨てられたんじゃないの?
親権を巡り裁判をした
真贋は子の未来は既に困っている
あの子等は飛鳥井の礎に組み込まれ、すでに決められた未来を歩く
だから諦めよ………と言われ涙していた
こんな現実は知らない…………
不器用な父と未熟な母が出逢い恋をして愛し合った
だが不器用な父は育児に疲れる母を目にして……何をしてやってたら良いか……解らなかった
眠れず双子の世話をする母は逃げ道のない育児に日々追い詰められて行った……
施設に預けられた頃には……脳裏には何時も疲れて泣いている母の顔があった…………
どうして忘れていたのか?
どうして忘れて…………母だけ悪者に出来たのか………
父は何故逃げ出したのだろうか?
父は愛人の子として生を成した
生まれた頃から父には母親しかいない生活をしていた
そんな自分が異質だと………理解した頃から父は………周りと距離を取り………人と関わらない様に生活していた
そんな父が母と出会い恋に落ち………愛し合い僕等を授かった
だが父は………自分が親になる事が怖かったのだ………
愛人の子として日陰の世界にいた者が………家族を持ち………幸せな家庭なんて…想像すら出来ない………
我が子を愛している
だが育児に追われて日々窶れて行く妻に何と言葉をかけて良いか……解らなかった
怖い……怖い………怖い………
だから逃げ出した
自分がいない方が……良い子に育てられる……と思ってしまった
顔を見れば責める妻に言葉なんてなかった……
どんな言葉をかければ……君は微笑んでくれるんだろ?
久遠には解らなかった………
自分なんかが家庭を持つべきじゃなかった………
自殺未遂を起こしたと……一報が入った時…………
身動き取れずにいた
君の傍から消えよう………
それしか君を………護る方法は見つからない
不器用な男は何一つ弁解する事なく……倭の国から消えた
そして悲惨な戦地に医師として立ち…………任期が明けて帰って来た……
我が子は幾つになった?
妻は我が子を思う
父も我が子を思う
その想いはあまりにも不器用で……脆い
拓美と拓人は泣いていた
母だけ悪者にしないと……
誰かを憎まなきゃ………いられなかった
施設での生活は………モノクロの味気ない世界だった
唯一 その中で母は僕等を捨てた
その憎しみだけが唯一 人としての感情だった
施設を出て志津子に引き取られ生活を始めたが………いつまた捨てられるのか?
不安で一杯だった
捨てられない為に良い子にしていた
勉強が出来て、志津子達が望む子になれば……
【僕達は捨てられないんだ】
拓美と拓人は何時だって想っていた
こんな僕らを見たら………
母は哀しむかな?
もう逢えない人だけど………
母さん………僕等はやっと貴方の姿が見えた気がします………
二人は寝ながら泣いていた
泣いて………泣いて……涙が止まらなかった………
翌朝 起きたら、知らない天井が広がっていた
拓美は「え?ここ何処?………」と呟いた
拓人は「………え?知らない………」と呟いた
城之内が様子を見に来て「此処は飛鳥井の菩提寺 楽巌寺の宿舎だ!」と教えた
拓人は「え?何故僕達………そんな場所に?」と問い掛けた
城之内は嗤い「宗右衛門に喧嘩吹きかけたんだって?良くもまぁ命があったな!お前等!」と言った
拓美は「え?宗右衛門に逆らったらこの世から消されてしまうんですか?」と問い掛けた
「簡単だろ?あの御人なれば人の一人や二人消し去る事など朝飯前であろう!
お前等も飛鳥井を名乗るならば、宗右衛門は敵に回すのは辞めろ!
あの御人は敵に回すべき存在じゃない!
我等は飛鳥井宗右衛門には敬意を持って接する!
それが理解し難いならば、早々に飛鳥井から出られる事をお勧めする!
飛鳥井で生きる、それは末端の者でさえ理解している事だ!」
「あの子は……そんなに偉いの?」
拓美は問い掛けた
「飛鳥井の一族なれば、宗右衛門の言葉は絶対だ
例えば、お前等を菩提寺で教育しろ!と言われればお前等の祖父母は畏まり、それに従う!
飛鳥井の絶対的な存在
表の真贋、裏の宗右衛門、と言われる方だ
宗右衛門の言葉は真贋と同列!
宗右衛門のやる事なれば、真贋でさえ止める事は出来はしない!
お前等は今日、この時より菩提寺で暮らし、菩提寺から学園に通う事となった
寺の手伝いをして貰うから、良く見ておくように!」
城之内は容赦なく現実を突きつけた
拓人は「え………僕達……今日から此処で暮らすの?」と問い掛けた
城之内はギロッと睨むと
「お前達は馬鹿なのか?説明は一回で理解してくれ!」と容赦なく謂う
拓美は「何故………」と呟いた
「そりゃお前等が宗右衛門に喧嘩を売ったからだろうが!
でもこの程度にして貰えてるんだ、有り難がたく想っておけ!」
拓人は「昨夜の夢は………現実ですか?」と問い掛けた
「あぁ、あれは現実だ!夢と謂うカタチでお前達の意識の中へ流し込んだ【現実】なんだよ!」
拓美は「そんな事………出来るのですか?」と信じられないと口にした
「真実か?真実でないかは?お前達が昨夜見た夢の通りだ!
我が寺が誇る陰陽師 紫雲龍騎がお前等の両親から想いを紡いで来たんだからな!
真実じゃねぇ訳はねぇだろ?
お前等は考えねぇとならねぇ!
この先生きて行くならば人の痛みも知らない医者と弁護士は脅威だからな!
人として生きれるまで、お前等は此処からは出られねぇんだよ!」
と告げた
「おばぁちゃんやおじいちゃんは…………」
「了解したの………?」
二人は信じられなくて……口にする
「了解するしかねぇんだよ!
飛鳥井宗右衛門に逆らう奴なんか、飛鳥井の一族の中には誰ひとりいねぇんだよ!」
その言葉に此れは現実で夢なのではないと知る………
その日から飛鳥井拓美、拓人の兄弟は飛鳥井の菩提寺の寮に入り下働きをしながら学園へ通う生活をスタートさせた………
朝 5時に起きて寺の掃除を始める
寺には拓美と拓人達より小さな子が朝のお勤めをしていた
そんな子等に寺の仕事を教えて貰う
朝のお勤めを終えると、朝食前に本堂で坐禅を組み精神統一をする
【良い子】を装う二人はその良い子の仮面を被り生活を始める
何処で生活をしようと………同じだよ
僕達は変わらない…………
そんな気持ちの中で生活をする
今 菩提寺で生活する子供が一番多い時期だから………親元を離れて暮らすのならば、共に生活させた方が良いと判断して生活を始めさせたのだ
皆テキパキ 自分の持ち回りの仕事をやる
拓人と拓美も持ち回りの仕事を与えられ、菩提寺の本殿の長い廊下の雑巾がけをする
最初はぎこちなかった生活も、一ヶ月も経てば慣れて来て廊下に一列に並び、雑巾がけ競争なんかしちゃったりして仲良く、切磋琢磨して生活していた
装う日々を脱ぎ捨て、自然体になり生活する
そう出来てると信じて1日でも早く………此処を出る為にそうしていた
七生に「君達さ、良い子でいなくちゃ駄目とか思って生活しすぎだよ
行動の一つ一つが計算しながらやってるな、この子……って解り過ぎ……」と言われ………
自分達はそんなにあざとい内面が漏れ出ていたのか?と驚いた
尊が「別に良い子じゃくても良いと宗右衛門なら謂うだろうさ!
良い子の仮面着けたままの方が怖い、そんな自分を装って生きて行くのならば、君達は其処までの存在にしかなれないと言われるよ!」とキツい言葉を放つ
拓美は「良い子でいなくちゃ捨てられる………」と本音を吐露する
すると環は笑った
「良い子でいなくちゃっちゃ捨てられるならば、こっちから捨ててやれ!
烈ならそう言うぞ!」
龍星も「良い子って定義がそもそも狂ってるって言われるよ!」と謂う
昇(のぼる) 陵(りく) 海(かい)は頷いた
七生は「そんな苦しい生き方………するなよ!
お前等は………どんな未来も………自由に選べるんじゃないのか?」と謂う
拓人は「………君達は自由に選べないのかい?」と問い掛けた
龍星は「僕等は………この世に生を成した瞬間から………既に果ては決まっている!
その為に僕等は………生きて逝かねばならいんだからね…」と謂う
昇は「聖神だってそうだろ!あの方は……子どもでいるさえ捨て去り果てを生きている……」と謂うと
陵も「あぁ……あの人の様には………生きられないからさ、僕等は僕等のやらねばならない事を見失わない様に生きてるのさ!」と呟く
海は「僕等は生まれた瞬間から………果てが決まっている
だけど僕等は違うだろ?
今は未熟故に学ぶ為に此処にいるけど……可能性に満ちた果てを手にする事だって出来る
違うのかい?」と謂う
尊は「君達は自分を決め付け過ぎなんだよ!
もっと自分を信じて、自分を好きになりなよ!」と謂う
そんな事出来るのかな?…………
拓人と拓美は言葉もなく、その言葉を聞いていた
菩提寺の寮生達との生活を始まったばかりだった
菩提寺の家族寮には尊、龍星、が母と暮らしていて、単身者用の寮に環、七生、海、陵、昇が暮らしていた
尊の母 華絵と龍星の母 夏海は菩提寺の保養施設の一階で働いていた
そんな中に入り………拓美と拓人も生活を始めたのだった
最初は良い子を全面に出していた拓美と拓人も………
皆と色々と話すうちに………決め付けて生きて来た自分達が馬鹿馬鹿しく思えて来る様になった
そして菩提寺で生活していれば、烈の立場が良く見えて来たのだった
兄達と修行に来る時は皆フレンドリーに話し掛けるが、宗右衛門の着物を着た烈には一族の者総てが敬い賢まり跪く
時々………寺で下働きしている拓美と拓人と出会す時があるが、烈はその視界にすら入れてないのか………視もしない
かと想えば視線を感じて振り返れば、烈が二人を視ていたり………
最初はそれさえ気にしていたが、今はそんな事気にならない様になっていた
菩提寺にはそんな下働きの子達を全面に世話を見る飛鳥井悠斗と謂う子が住み込みで住んでいた
悠斗は烈の姿を見ると「烈!!」と駆け寄り抱き着き親しげだった
彼は前世からの宗右衛門に仕える者だったらしい………
時折、飛鳥井の兄達に飛鳥井の一族の成り立ちを教えて貰う
烈は時として兄達にも辛辣な言葉を投げ掛ける
兄達は宗右衛門の時の烈には謝罪してやり直すチャンスを下さい!と頼む
「チャンスは一度、次にしくじれば後はない!」
「はい!それでも此処で断念するのは嫌に御座います!」
兄弟なのに…………
弟の絶対的な存在に………誰も近寄れずに見守るしかない
「竜胆、主が指導してやるがよい!」
「了解した宗右衛門!
兄さん達は優し過ぎが難点なんだよな!
其処は遺したいが…それだと進めない!
クソ!宗右衛門は俺に無理難題押し付けやがるぜ!」とボヤく
宗右衛門は笑って
「此れより果ては翔達は代わり代わりに主達と共に転生する事となる!
今 最大限の恩と実績を積むがよい!」
「あ~そう言う星回りか!了解した!
恩を売りつけ、尚且つ絶対揺るがねぇ信頼を築くとするわ!」
竜胆はヤケクソになり言う
宗右衛門はニャッと嗤うと
「竜胆、其処の未熟者達も鍛え上げてやってくれ!」と謂う
竜胆は眉を顰めて
「何処ら辺までやって良いのよ?」と問い掛けた
「己が世界で一番不幸だと、不幸の大バーゲンしておる奴等じゃ!
そして外側は良い子の面を着け、裏側は世を捨てた母を恨んでいる
まるでチグハグ、アンバランスな心と体では………
この先 苦労する故、此処らへんで徹底的に叩き直してやるがよい!」
竜胆はニャッと嗤うと「了解した!」と答えた
流生は「あ~!竜胆着けちゃった!もう後に引き返す道さえなくなっちゃったわ!」と叫んだ
音弥も「本当に馬鹿な子ね……宗右衛門怒らせるなんて………」と同情の目を向ける
太陽は「よゐこなんて、裏を返せば腹黒だもんね!」と謂うと兄弟達から【それ自分の事?】と言われちゃった
大空は「宗右衛門の言葉は絶対!その宗右衛門に喧嘩売れば当たり前だよね?」と榊原と同じ顔して冷徹な事を謂う
翔は「飛鳥井宗右衛門を馬鹿にすると謂う事は、飛鳥井一族を馬鹿にしたも同然だと想うが良い!
我等は誇り高き飛鳥井の一族だと想い知るが良い!」と言葉にした
その言葉の重さに……拓美と拓人は言葉もなかった
だが真実を知った今
拓美と拓人は何も見てこなかった真実を受け止め、生きると決めた
【後日談】
久遠は志津子に「拓美と拓人は宗右衛門に喧嘩を売ったそうです!
それ故に……今日から菩提寺で暮らす事になりました!」と謂う話を事後報告で聞かされた
久遠は志津子に「それは覆りはしない現実の話ですか?」と問い掛けた
志津子は「命があるだけマシだと想いなさい!
宗右衛門なれば、その気になればわっぱの一人や二人消し去るのに………己の手を汚す事なく処理されてしまうのですよ………」と謂われ………久遠は言葉もなかった
もう自分が何を言っても覆りはしないのだと知る
でも………黙ってられなくて……
仕事を終えて四時過ぎに診察に来た烈に
「お手柔らかに………頼む………」と我が子の事を匂わせ頼んだ
烈は鼻で笑い「それは無理ね!」と吐き捨て
「良い子の仮面を着け、体裁だけ整え生きている【今】が正常だと想うならば………親を名乗るべきではないわね!」と辛辣な事を謂われた
「…………そんな事…………言われなくても……自分が一番良く解ってるさ!
俺は……あの時………あの人に目を向けず………見殺しにしたんだ……」
「あぁ、やっと理解した?
紫雲にあの人の想いを紡ぎに行かせ、母親を悪く謂う頭の悪い兄弟に見せたついでに、貴方にも見せたのよ!
貴方はさ、愛した人を悪者にして………親にもなれないでいる……ある意味、卑怯者よ!
目を逸らした方が楽だから?
そろそろ動き出しなさい!
でないと…………辛い思いに囚われて身動きすら取れてないじゃない…………」
かなりキツい一撃を喰らわされ………久遠は言葉もなかった
「烈…………俺はどうしたら良かったんだ?
あの時の俺は…………逃げるしか………あの人を救えないと想っていた…………」
「逃げずに共に生きてやれば良かったのよ!
そんな簡単な事さえ……解らない程に貴方は愛人の子だと謂う罪を己に課しすぎたのよ!
この世に愛人の子として生きて来た子だっているわよ………その子は全員不幸なの?
違うわよね…………其処が解ってないのよ………」
「烈…………」
「親は選べない……そんな想いをした兄弟を今から呼ぶわね!
だからせんせーは後少しで診察の時間は終わるから、後は義泰に頼んでボクと一緒に来ると良いのよ!」
烈に言われ久遠は後の事は義泰とスタッフに任せ、烈と共に飛鳥井の家へ向かった
応接間のソファーに久遠を座らせ、烈はラインで誰かに連絡を取っていた
暫くして一生が「烈、何か用か?」と応接間にやって来て
少し遅れて慎一が「烈、何か用なんですか?」と応接間に入って来た
そして応接間に久遠が座ってるから一生も慎一も驚いていた
「せんせー、此方は元、皆川慎一きゅんと緑川一生です!」
烈は敢えて皆川と慎一を紹介した
が久遠は「慎一兄弟だろ?よーく知ってるよ!」と答えた
「慎一きゅんは正妻の妻の子で、カズは愛人の子だったのよ!」
烈が謂うと久遠は驚いた顔をした
酷似した兄弟は同じ緑川を名乗っているから、同じ親を持つ兄弟なのだと想っていた
一生は「あ~!そう言う事か…………」と納得した
慎一は「俺の星を詠みましたか?」と尋ねた
烈は笑って「ボクは飛鳥井にいる者の運命は占う事にしてるのよ!何処に危険が迫ってるか?解らないからね!
その時、同じ親を持つ貴方達の運命を詠んだ
まぁ貴方達はもう達観しちゃってるからさ、此処の未熟者にさ、一晩掛けて話をして欲しいのよ」と言う
一生は「具体的にどんな話を所望してる?」と問い掛けた
「愛人の子は幸せになるのも駄目なのか、だとか?
愛人の子は何処までも卑屈で愚か者で我が子を顧みちゃ駄目なのか?………とか?そこら辺よ!」
慎一は「それは俺等ほど適任はいないじゃないてすか!」と嗤う
そして「俺はクソ親父の我儘に振り回され、施設へ行った過去を持ちます!
なので貴方の子の想いはそれはそれは解りますとも!」と言う
一生は「俺は愛人の子だったから卑屈でどうしょうもない想いを抱えていたさ!
それもこれもクソ親父に振り回され、人を人として見ない過去を持つからなぁ………
康太にはお前のそう言う所が大嫌いだと謂われたとも!
ならば、とことん、話そうぜ!久遠!」と謂う
久遠は言葉もなかった
烈は「ホテルニューグランドに部屋を取ったわ!
ケント呼ぶからさ乗せて行って貰うと良いわよ!
お酒買い込んで、一晩掛けてせんせーの頑なな心を、せめて人並みに叩き込んでね!
我が子だけ修行させて、親が何も動かないなんて、あまりにも哀れじゃない!」と言う
慎一は烈の頭を撫で
「烈は優しいな………俺も学園で見かける拓美と拓人は善人過ぎて胡散臭いと思っていたんだよ
このまま年を取れば、何でも上手くは熟せるだろうが…………人の痛みすら解らない存在になるんじゃないかって…………想っていた」と現状を憂いでいた事を伝えた
一生も「だな、翔達も学園で見かける拓美と拓人は………全ての話が客観的で、そこに自分の考えも主観もない………ってボヤいていたからな
あ、そうだ、翔達ミッション失敗したんだって?
めちゃくそ悄気て落ち込んでいたから……
許してやれとは言わねぇけど、チャンスは与えてやってくれないか?」と頼む
烈は「あぁ、その件は竜胆預かりとなったから、ボクは関与しないのよ!」と謂う
「え?見捨てたのよかよ?」
「違うわよね!カズ!
今後、飛鳥井の5人兄弟は飛鳥井の礎の轍に組み込まれし子として、幾度も転生するわ!
まぁ赤龍として鱗艶に磨きが掛かる年齢までは人の世で修練を積ませるのよ!
竜胆は後 数度の転生となるか解らないけど、血を入れ替え、定めを入れ替え、運命を入れ替え、飛鳥井は果てへと繋げて逝くが定めなのよ!
もう組み込まれた定めは覆りはしない!
ならば顔見世の今世に重きを置いて、切磋琢磨し果てへと繋げば良い!
だからこその竜胆預かりなのよ!」
其処まで考えての果なのだと痛感する
「赤いの、ボクの骨折が治る頃……と言いたいけど無理だから、今月末に魔界へ逝くわよ!
予定 入れておいてね!
その予定は絶対に覆りはしない果てだから!」
「了解した!」
「ならばせんせーの事お願いね!」
「「了解した」」
一生と慎一は答えた
ケントが迎えに来て久遠は一生と慎一と共に飛鳥井の家を出て行った
クーは様子を黙って見ていた
「あれで何とかなれば良いんだけどな………」とボヤいた
「本当にね、でも人の心って中々変化は期待出来ないからね…………どうなるやら………なのよね」
「でも想いを知ったならば踏み出せるさ!」
「そうかしら?」
「そうじゃなきゃ、今も久遠の運命を変えちゃったんじゃないかって心配してる志津子が哀れじゃねぇかよ!」
「何かね、登紀子と志津子は良く似てるのよ
想いは心の奥深くへ押し込んて、本音を飲み込んで……」
「烈、真実は何時も一つだ!」
「それ、コナンの名台詞よ!」
クーは笑いながら「それでも揺るがない真実は一つじゃねぇかよ!」と言う
「そうよね、真実を知り、運命に流されるんじゃなく、今を生きられたら、それはそれで意味がある明日に繋がるのよね…」
「だから大丈夫だ!お前が信じねぇと明日は揺らぐぞ!」
「ボクね、根っこの部分が疑り深い復讐しか考えてなかった暗い過去があるからね………」
クーはポコンっと烈の頭を叩いた
応接間の外では兄達と両親がクーと烈のやり取りを…………黙って見守っていた
康太はそっと兄弟の背を押し、着替えに行かせる
康太と榊原も着替えに行き
康太は「やっぱ久遠は親になりきれてなかったか…………」と呟いた
榊原は「君は拓美と拓人の事、気付いていたのですか?」と問い掛けた
「四季が少し前に拓美と拓人の事を危惧して話をしていたかんな!
あの二人は友人達に、母親は自分達を捨てたロクデナシだと言ってると話してくれた
良い子で、誰も文句のつけようのない良い子なんだけど、何処まで行っても、其処までの存在にしかなれない……ともな
宗右衛門は二人を視て、此処で叩かねばと思ったんだろう
でねぇと取り返しが付かない領域に入られたら……手が打てねぇかんな!」
其処まで……行っていたのか……と改めて想う
榊原は「久遠は慎一と一生で大丈夫なのですかね?」と心配して問い掛けた
「あれ以上の人選はねぇだろ?
良い所をチョイスしたとオレは想ってる!」
「ならば頑張って貰わねばなりませんね!」
「そう言えば久遠の愛した女……柘植の事務所に………いたんだった
オレは今は二人の写真を送ってねぇかんな忘れていたのな!」
「君にしては珍しいですね」
「相賀が彼女を元気付ける為にって、定期的に写真をって言って来てたんだよ
オレは頼まれて写真を送っていたんだよ!
今は柘植に代替わりして………言われてねぇからスッカリ忘れていたんだよ!」
「烈はその人の…………運命も見たのですかね?」
「一応、柘植の事務所の売れ筋ならば視るだろうさ!
そして知る……かな?とは想っていた
だから敢えて気にはしなかった
烈ならば正しい道に軌道修正掛けてくれるんじゃねぇかって………思っていたからな………」
宗右衛門なれば視るだろうと想っていた
そして視たならば動いてくれるかも?とは想っていた
この流れの悪い想いの行き先を変えてくれるんじゃないか?
……と一縷の想いを抱いていた
そうか………宗右衛門が正してくれたんだ
康太は烈の想いが嬉しくて堪らなかった
「なぁ伊織、烈の好きな鍋やろうぜ!
そしたら烈がまた大好きな奴等呼ぶだろうし……」
「それは良いですね!
一生と慎一が頑張って久遠先生のどうしょうもないコンプレックス叩き壊してくれるのを期待して、彼等にも慰労の思いを込めて作ります!」
「その前に伊織、慎一不在だから夕飯作らねぇとな!」
「あ、そうでした!」
榊原は着替えてキッチンへ急いだ
が、客間で楽しげな声が響くから覗くと、甘い祖父母と叔父が腹減りな我が子の為にデリバリーを頼んてしまっていた
そしてどう言う訳か、真矢と清四郎も来ていて、楽しげにデリバリーを食べていた
清隆は榊原を見付けると
「あぁ、伊織、烈がお腹減ったと清四郎さんに泣き付いたので、デリバリー頼みました!
私達も後から頼んだので、さぁ君達も此処へ来て一緒に食べましょう!」と謂う
榊原は後ろを歩いて来た康太に「腹減りは祖父母を召喚していました!」と伝えた
康太は笑って「腹減り烈は危険だからな!」と謂う
その夜は皆で楽しく食事をし、大人はお酒を飲んだ
康太はコップを高く掲げ「久遠に乾杯!」と言った
榊原は「最近の一生と慎一は烈の為ならば、地球の裏側だって喜んで逝く猛者になってるのですね………」とボヤいた
すると聡一郎は「それは僕も同じだよ!」と謂う
隼人も「それはオレ様も同じなのだ!」と謂う
飛鳥井の夜は………楽しく更けて行った
何が真実か?
たった一つの真実は、貴方の心の中で一番光っている大切な大切な想いに溶け込んでいるから、見失わないで………
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