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第55話 良い子の仮面を外したら…… ❶
飛鳥井拓美、拓人兄弟は、宗右衛門に喧嘩を売って菩提寺に押し込められた過ごしていた
最初の頃は直ぐに祖父母や父が助け出してくれる!
そう思っていた
だが現実はそんなに甘くは無かった
いつの間にか………携帯は没収されていた
弱音すら吐けない
寺の住職に「あの携帯はどうなったんですか?」と尋ねた
すると城之内は絶対に住職には似つかわしくない鋭い瞳で二人を見て「返した!菩提寺には携帯は不要だからな!」と言った
拓美は「何でそんな勝手な事をするですか?
そんな事するならば、祖父母や父が黙ってませんよ!」と言った
城之内は「おー!そうか、ならば、今夜祖父母とお前の親父呼んでやるよ!」と謂う
そして「さぁ働け!寺で過ごすならば、働いて自分の生活費は稼げ!」と謂う
楽しみもない辛いばかりの日々………
寺の寮は…ヒーターなんかない
ストーブもない
寒さに震えて寝るしかなかったのだ
その夜、菩提寺の保養施設3階に拓美と拓人の祖父母と父がやって来た
その場には烈も同席していた
烈は黙って座っていた
拓美と拓人は「「帰りたいよ!おばぁちゃま!おじぃちゃま!」とまずは祖父母に訴えてみる
甘い祖父母ならば助けてくれないか?を探る
だが志津子は微動だにせずに孫は見なかった
義泰も同じく、存在さえない様に座っていた
久遠は……どうしたものか?と何も言わなかった
拓美は「何故………何も言ってくれないの!」と悲しんだ
拓人も「僕達は携帯さえ取り上げられて連絡さえ付かないんだよ?」と謂う
志津子は「貴方達は宗右衛門に喧嘩を売った!
飛鳥井の一族に身を置くなれば、それは万死に値すると知りなさい!」と吐き捨てた
溺愛する孫だが、一族の理や誇りまでは捨ててはいない
飛鳥井で生きるならば、宗右衛門は絶対!
宗右衛門は「【良い子】の仮面を付け生きて来たならば、どんな末路が待ち構えているか?
夢に見せたが、小奴らは変わる事はない!
前日、その夢は志津子や義泰、久遠に視せた夢だ
このまま年を重ねればよりずる賢くなり、身を滅ぼす!もういっそこんなヤツなど消し去った方が身のためでは?」と謂う
志津子は「ならば………宗右衛門の想いのままに………」と謂う
義泰も頷いていた
拓人は「あれは夢じゃなく………未来に起こる夢だと謂うのか?」と呟いた
やけに生々しい夢だった………
宗右衛門は「飛鳥井が誇る陰陽師 紫雲龍騎が未来に飛び、落ちぶれるまでを見届けで投影した未来であるからな!
このままなれば確実に、主等は落ちぶれ誰からも見向きもされず生涯を終える!
だから、こその、チャンスじゃったのじゃよ!」と告げた
久遠は「俺も飛鳥井の病院を預かる者として、表面しか取り繕わないお前達に………病院を預けるのは不安だから宗右衛門に他の誰かに継がせる様にお願いするつもりだ!」と謂う
双子は信じられない瞳を父親に向けた
宗右衛門は「父を恨むは御門違いじゃ!久遠は飛鳥井記念病院の院長であり、人の命を預かる医者で有るから、至極真っ当な判断だと言おう!
ならば問おう、主は名医に診られたいか?
それとも表面だけしか取り繕わぬ軽薄な奴に診られたいか?どっちじゃ?
答えは一目瞭然、人の命を預かる医者としての責任を感じてる医者に診られたいに決まってる!
弁護士だとて同じじゃよ!
嫌、弁護士の方がもっとシビアかも知れぬな!
人の人生を掛けた闘いをしてやるのだ
まずは信頼を築こうとする
その信用に足らぬ存在など、その場で切られる
それが現実なのじゃよ!」
打ちのめされ……言葉もなくす
「七生は変わったのにな………」
宗右衛門は敢えてボヤいた
七生は夢を見せた日から変わった
常に自然体で感情を表に出して、他の子や飛鳥井の兄達ともより親しくなっていた
「何も持たぬ、何の価値もない、生きるのも大変な世界へ逝くが良い!
明日を迎えるのも大変な世界へ逝け!
主等は……其処まで堕ちねば解らぬのならば逝くがよい!
今 此処に姿を現せ我が祖父 素戔嗚尊よ!」
久遠は顔色を変えた
素戔嗚尊………何度も怪我して病院に入った患者だったからだ
志津子と義泰は【素戔嗚尊】嘘………あの本とかで読んだ、あの???
言葉もなく唖然としてると、素戔嗚尊が姿を現した
「呼んだか?我が孫 聖神よ!」と問う
「あのね、この二人、貴教と同じ所へ連れて行ってくれない?
それと敦之どう?少しはマシになった?」
あれから三木繁雄から託された手紙を、烈は渡され敦之の所へ届けたのだった
敦之は何度も何度もその手紙を読んで………涙した
傲慢で、回りを見下して………長男である兄まで見下していた
自分は特別な存在なんだと想っていた
だが父と母からの手紙には厳しい現実が書き記されていた
【 敦之へ!
この手紙は父である三木繁雄と、母である智美と、話し合い想いを綴り書きしたためました
ハッキリ言って敦之、何も変わらぬのならば…
帰って来なくともよいと思っています!
政治家になど、ならなくともよい!
今のままの傲慢なお前が政治家になる事は、在ってはならぬと想います
政治家は、自分の為に一票を投じてくれた人の想いを知らねばなれぬ!
政治家と謂う存在は、そんな国民の代表者でなくてはならない!
未熟な儘のお前ならば政治家になど、なれはしない!
だから政治家になどならずともよい!
また帰るならば、お前は家族の中では一番下の存在!
兄や姉を敬える人間になりなさい!
自分が勝っている事なんて何一つない!
お前の兄の三木竜馬は、 我が父 三木敦夫の想いを託した存在!
りゅーまと呼ばせる名は我が父 敦夫が共に政治家になり、世の中を変えよう!と誓いあった従兄弟の名前!
真贋が我が父に予言された
『お前の長男は夢半ばで消えた、敦夫の従兄弟の転生者だ!』と謂われたから、その名を着けた
お前より劣る存在ではない!
また顔は我が父 三木敦夫が愛した妻 五代雪乃にソックリで、祖母似の竜馬こそが、お前よりは存在感も血も誇れる存在なのだよ
何処でどう間違えた?
今 お前は今苦しい現状に立たされている事だろう!
宗右衛門は甘くはない
私も今回………宗右衛門の怖さを思い知らされた
お前が変わり、スタートラインに立つならば、私も智美もスタートラインに立とう!
その日から始めて行こうじゃないか敦之
だから歯を食い縛り耐えなさい!
私も智美もお前が帰って来る日を待っているよ!
でもこの手紙を読んでも変わらぬのならば、還らずともよいです!
お前は死んだ……と想いましょう!
もし許され帰ったとしても、お前は政治家にならすともよい!
お前の未来は宗右衛門が決められる!
これが私達の想いで覚悟です!
お前の父と母より】
と書かれていた
それを読んで敦之は泣いた
傲慢な自分が…………道化師だったみたいに思えた
何て傲慢だったんだ…………
その日から、少しずつ現実に目を向けた
貴教とは口も聞いた事が無かったが…………
一人で黙々と仕事をしていると、休憩時間に話し掛けられた
信じられないでいると
「宜しくね、君は三木繁雄議員の御子息だね
僕は………安曇勝也の息子の貴教、宜しくね!」と話し掛けられた
「……あ、宜しく………」
初めて優しい言葉に敦之は涙が止まらなかった
その日からは二人は切磋琢磨して来たのだった
其処へこの傲慢なお子様を預けよう!と謂うのが烈の目論見だった
素戔嗚尊は「前よりは己は見えておるな!」と謂う
「ならさ、彼等にコイツ等預けちゃって!」
「承知した!その前に茶でも出ないのか?此処は!」
と烈と同じ事を謂うのだった
慌てて志津子が茶を淹れに行き、茶菓子と共に茶を差し出した
ズズッと茶を啜る姿は見覚えがあった
志津子は「神威………」と呟いた
義泰も「神威年取らせたら、こうなる御方だな!」と謂う
烈は「だって神威は此人の倅だから似て当たり前なのよ!ボクとは似ても似つかないけどね!」と笑う
久遠は「いやいや、並べたら同じだろ!」と言った
志津子も義泰も頷いていた
素戔嗚尊は「んとに、良い子の仮面ばかり着けたヤツばかりが地獄へ堕ちて来やがるんじゃな!
人の世は何処で間違えてしまったのじゃ?」と嘆いた
「モノが溢れ過ぎて飽和状態だから、価値さえ知らずにいるのが増えすぎているのよ!
人の命がリセットボタン押したら生き返る……なんて思ってるのもいる位、リアルが仮想世界と同化しちゃった世界だからね
でもこのモノに溢れ返った日常がなくなったら?
人はどうするのかしら?
まぁ其処から始めさせたい気もするのよ!
そして良い子の仮面を外したら………
何が残ってるのか?知りたいのよ!」
「承知した!近い内に魔界へ来いと、閻魔が送ってやるから伝えておいてくれ!と申しておった!」
「なら、閻魔大魔王様が呼んだら神の道通って逝くわ!と伝えといて!」
「ならば逝くとするかのぉ〜!」
と言い立ち上がると両脇に拓美と拓人を抱えて…………姿を消した
其処へ七生がやって来て「地獄へ落とされましたか?」と問い掛けた
「仕方ないわよ!変わらないんじゃね!」
「…………人も龍も………変わるのは至難の業に御座います………」
「まぁね、ボクだって宗右衛門として転生して、幾度も幾度も甘くて裏切られたり、謀れたりして………今の原型になったのは最近だもの!
中々変わらないものよ!
でも日々鍛錬、弱い心には悪意が入り込む余地を残すからね!
で、呼びに来たんでしょ?何?」
「レイがずっと呪文唱えそうで、凛と椋と兄様達だけでは荷が重いので……」
「あら大変、行かなきゃ!」と烈は飛び出して行った
七生は「あ!しまった!お客様が来てるのに伝えるの忘れた!!烈ぅ!森 紅緒さんがお越しです!」と言い走って行った
其処へ城之内がやって来て
「あ~烈はいねぇのか………、でもまぁ、そのうち来るだろ?客人だ!
その為に保養施設3階に呼んだんだからな!」と謂う
城之内は客人を3人の前に連れて来た
久遠は唖然として………言葉をなくした
志津子も義泰は何となく、その人が誰かを知る
森 紅緒と呼ばれた美しい女優は、城之内に座布団を出して貰うと座った
「あら?烈は?いませんの?」
志津子は「今 少し席を外しています!」と言い義泰に「あなた、呼びに行きなさい!」と謂う
義泰は席を立つと烈を呼びに向かった
「私は森 紅緒と申します!
烈に助けられ、名も変え………プロデュースされ再デビューした女優に御座います!」と自己紹介した
久遠は………「元気だったか………」と問い掛けた
「つい最近まで乳癌を患っておりました
柘植の事務所の健康診断で見付かり、烈の知り合いの医師、総合病院の白石真紀医師に執刀して貰い早期の状態で取り敢えず治癒しました!
なのでまぁ元気だと言えるかは解りませんけどね!」と笑った
其処へ義泰がレイを抱っこして、烈を連れてやって来た
義泰はレイを座布団の上に座らせると
「んとに、やんちゃなお子じゃ……」とボヤいた
レイは紅緒に抱き着き甘えた
紅緒は嬉しそうに優しい笑みを浮かべ、レイを抱き締め頭を撫でた
烈は「紅緒悪かったわね!少し席を外していたわ!で、話ししたかしら?」と問い掛けた
「自己紹介して健康状態をお伝えしていました!」
「何それ?主治医が患者に聞くみたいな感じ?」
「はい、それです!」と笑う
「彼女は森 紅緒、本名も名前も森 紅緒
過去を捨てた女優さんよ!
で、何故今日合わせたかと謂うとね
志津子、彼女は久遠せんせーの元奥さんよ!
そして拓美と拓人の母親ね!」と話した
何となく解っていた志津子は
「やはり……そうなのですね!」と言葉にした
紅緒の白い美しい手は…………幾度も幾度切り刻まれた痕を遺していた
「彼女は少し前に乳癌患っててね
取り敢えず、退院したのよ
まぁ今後は転移気にして定期検診は受けないと駄目なのよ!
柘植の事務所、と謂うか三社共同事務所の定期検診はせんせーの所で受けてるじゃない!
彼女だけ総合病院へやるのも気引けるからね
此処ら辺で大掛かりなテコ入れしたいのよ!
紅緒はもう貴方に対して恨みや想いはないわ
今静かに女優道を真っしぐらなのよ!」
志津子はその穏やかな顔に「その様ですね!」と言葉にした
「ねぇ、志津ちゃん、彼女の手見れば解るでしょ?貴方の息子の様に………死しか見えなかった過去が見えるでしょ?」
「……はい………」
「だからさ、志津ちゃん、友達になっちゃってよ!」
「え?CMに引っ張りだこの女優さんですよ?
アカデミー取った女優さんですよ?」
「あぁ、あれね、ばぁたんが悔しがってたわ
でもあれだけの演技されれば仕方ないわ!
私はもっと凄い演技してみせるからね!烈!
と、ばぁたん大変だったのよ!
まぁばぁたんも大女優よ、きっと頑張るのよ!
で、ばぁたんも紅緒も女優だけど、同じ女優じゃない気にしないのよ!」
「ならば、友達になりたいです!」
「なってあげて!紅緒良かったわね!
義泰は時々、志津子と共に美味しいもの奢っちゃったりしてくれないかしら?」
「こんな老いぼれで良ければ応援させて戴きます!」
「そうしてね!でないとボク、外堀埋められないじゃない!」
久遠は「え!外堀埋めてどうする気だ?」と戦々恐々で問い掛けた
「親の責任は片方だけじゃ駄目なのよ!
両方で作った責任取らないとね!
せんせーも親として向き合う時なのよ!
勿論 紅緒にも親として向き直らせるわ!
あ、再婚とか狙ってる訳じゃないから!
親としての責任だけ二人で取れと言ってるだけよ!再婚しろとか、子供作れとか言ってないから!」
志津子は笑って「解ってますよ!」と謂う
「紅緒はね……今年初めに両親を亡くされたのよ、その上の闘病生活だったから柘植にプロジェクトチームを作らせてサポートさせた程なのよ
だから志津ちゃんが気が向いた時でいいから茶飲み友達になって欲しかったのよ」
義泰は「失礼ですが、ご両親は………病で?」と尋ねた
「今年始めに、高齢者ドライバーが逆走して正面衝突して、ぶつけられた方の車の運転手と助手席に座っていた女性は車とガードレールに挟まれて即死した事件知らないかしら?」
あの痛ましい事故…………ならば記憶に残っていた
「あの事故で原型ない程に潰されて亡くなったのは、紅緒のご両親よ!
まぁご両親は娘の幸せだけ願っていた
そして今も……娘の幸せだけを願っているわ!
だから誰よりも幸せにならないとならないのよ
姉と妹は北海道と沖縄と謂う両極端に住んでるから、本当に身内いないも同然なのよ!」
紅緒は「私には心配してくれるスタッフがいます!社長も会長もいます!烈もいてくれますから!」と話す
「まぁ茶飲み友達は沢山いても困らないじゃない!」
「はい……ありがとう烈………」
伏し目がちに笑う顔には…どこか寂しが滲み出ていて……
志津子は「私は社交辞令は言いません!是非、茶飲み友達になりましょう!」と申し出て携帯を取り出しラインの交換をした
義泰も「よし、儂も志津子とディナー楽しむ時とか誘っても良いか?」と問い掛けた
「はい、それは楽しい時が増えて幸せです!」
久遠はずっと固まっていた
烈は「別にせんせーは茶飲み友達じゃなくても良いわよ!双子の親として責任とって生きてくれるならね!
今は森 紅緒は押しも押されぬ大女優だからね
吹けば飛ぶようなスキャンダルは出ないわ!
此れだけは約束して上げる!
まぁパパラッチに追い掛けられたなら即座に蒼佑使って黙らせてやるわよ!
でもまぁ飛鳥井宗右衛門が再デビューさせた女優だからね、藪を突っ突いて宗右衛門出したくないから、スキャンダルにすらならないわよ!」と笑い飛ばした
久遠は「アイツ等に追いかけられたのはトラウマだけど、そんな心配してねぇよ!」と言った
「なら顔合わせは成功ね!
紅緒には其の内、良い伴侶選んであげるからね!待ってるのよ!」
烈はそう言い久遠を見た
久遠は少し苦しげに顔を歪めた
烈は「ならば、宴会ね!志津ちゃん会費取って紅緒と買い出しよ!」と謂う
義泰は「儂はどうしようかのぉ〜」と謂う
「カズ拾うから待ってて!」
そう言い烈は「カズ今夜は宴会よ!義泰連れてお酒買いに行って!」と謂う
直ぐ様一生から『義泰何処にいるのよ?』とラインが来る
「菩提寺、駐車場で待ってるように謂うわね?」
『了解!』
烈は「せんせーも行ってお酒買って来るのよ!
会費は一人五千円、義泰は、せんせーのポケットの中の一万円で大丈夫よ!」と謂う
義泰は「譲、ポケットから一万出しなさい!」と謂うと一万出した
そして「何で知ってるんだ?」とボヤく
「さっき村松さんが『久遠先生はレクリエーション全て不参加だったから、積立金の返金渡したけど一万円落とさないかしら?
あの人財布を持たないから、時々ボロボロ小銭とか札落としてるのよねぇ〜』と心配して言ってたからね、落としてないならポッケにあるのよ!」と謂う
義泰は「財布を持ちなさい!」と謂う
「もう数十年………財布なんか持ってねぇな………」
「義泰ぅ〜買い与えなさいよ!」
義泰は「了解した!」と言い駐車場へ向かった
駐車場へ逝くと丁度一生が車を停めた所だった
義泰はさっさと久遠を押し込め、自分も乗り込む
烈はケントの車で自宅へと戻った
途中、神野と須賀と柘植と相賀のグループラインに「宴会よ!志津子は今頃慎一捕まえて買物中よ!」と送る
『一人幾らの会費なんだ?』問い掛けた
「五千円よ、まぁ義泰と志津子が買い物に出てるから払わなくても大丈夫なんだせど!」
『いえいえ、払うって!
そして遠慮なく飲みまくってやる!
だからキッチリ五千円持って慎一に連絡取るよ!』と楽しそうだった
烈は祖父と叔父のグループラインに
「今夜は宴会開いちゃおうかな?
胃の調子はどう?
まぁ調子悪いなら主治医呼んだし大丈夫だから!」と送る
清隆は『宴会!私は胃の調子は大丈夫なので宴会楽しみます!』と返って来た
瑛太は『私も大丈夫です!胃が痛かったのは烈が免震構造システムを取り入れたマンションの建設の発表記者会見しろって!言ったからじゃないですか!
それも成功して安心したので大丈夫です!』と返って来た
「えーちゃん ごめんね!」
『私も人の子なので緊張もしますし、胃も痛くなるのですよ!』
「父しゃんと同じ鬼なのにね!」
『いえいえ!伊織は鬼ですか、私は人の子ですから!』
と返って来て烈は笑った
「飛鳥井の家族は皆、優しいし、思いやりあるのね………ボクは、家族が大好きよ!
えーちゃんが大好きよ!」
『烈!今日は早めに帰りますね!』
と優しい叔父は謂うのだった
その夜、家族は楽しく宴会に突入した
康太は紅緒を見て「恐ろしいわ……オレの子は……」とボヤいた
榊原は苦笑して「我が家の子はどの子も恐ろしいですよ!」とボヤいた
烈は宴会の間中も、ずっとPCと睨めっこしていた
康太は「宴会開いたのはお前だろ?」とボヤいた
烈はマウスを操作しつつ
「そうなんだけどね……何か気になって………ね」と謂う
「久遠か?」
「違うわよ、もう采は投げられたのよ!
だから今更見たりしないわよ!」
「……………それって人が変わった様に大人しくなったヤツか?」
「あ、やっぱり気付いたのね、母しゃん………」
「そりゃ気づくやろが!何時からあんな調子なのよ?」
「ボクが世紀の挙式から帰宅して会社に顔を出した時にはあんな風だったわ」
「少し探ってみるか?」
「…………そうね、ならば暦也に調べる様に依頼しとくわ!」
「其れより良い子はどうしたのよ?」
「あんな未来見せたのに………変わらないから貴教と敦之預かりにしてやったわ!」
「敦之………どうなったよ?」
「やっとスタートラインね!
何とか立ってくれたから、今後は鍛えて鍛えて鍛え上げなきゃ!
まぁ来年中は魔界で過ごせば良いのよ!
あの子達の時間はまだまだ此れから続くんだからね!」
「まぁスタートラインに立ったならば、覚悟を決めた繁雄と智美も報われるもんだろ!」
「そうね、繁ちゃん虐めちゃったからなぁ………
恨まれてなきゃ良いんだけどね!」
「恨んだりしてねぇよ!
感謝してたぜ、夫婦でやっとスタートラインに立てた!ってな!」
「まぁスタートラインに立てれば、歩き出せるからね!
スタートラインにすら立たずの体たらくでは話にならないからね!」
康太は笑って烈から離れた
久遠は元妻に意識しまくりだった
元妻はそんな事は気にも止めずに玲香や京香と仲良く話していた
ラインの交換してお茶に逝く約束して、紅緒は幸せそうに笑っていた
そんな親とは裏腹に……
魔界へ連れて来られた拓美と拓人は、貴教と敦之の元へと向かった
素戔嗚尊を見ると二人は元気よく「「こんにちは!」」と挨拶をする
鬼達にも今はちゃんと挨拶が出来ていた
素戔嗚尊は「烈から二人に預けたい!と預かって来た!頼めるか?」と謂う
貴教は「寮で過ごすんですか?」と問い掛けた
「そうじゃ、小奴ら二人は空いてる部屋に放り込み働かせてくれ!
人を馬鹿にして、見下して、良い子の仮面を貼り付けてる愚か者だ!頼めるか?」
素戔嗚尊が言うと貴教と敦之は凄く嫌な顔をした
貴教は「それって少し前の………自分達だよな?」と謂う
敦之も「だね………こうしてあからさまに見せ付けられるんだね!
人の振り見て我が振りなおせ!って事?」とボヤいた
素戔嗚尊は貴教と敦之の頭を撫でると
「主等はもう愚かな儘ではない!
人は気づいた瞬間、違う自分になり生きられると、烈は常に言っておる!
じゃから歩き出した主等は人を教えられる存在になったと謂う訳じゃ!
何かあったら毎日様子を見に来る鬼のタロウ兄弟に謂うが良い!
そしたら即座にタロウ兄弟は儂の所へ知らせに来るからな!」
「「解りました!!」」
「では頼むとする!」
二人は深々と頭を下げて素戔嗚尊を見送った
そして拓美と拓人を見た
貴教は「この世界は働かない奴は飯さえ食えない!だから働きなよ!」と謂う
敦之も「キツいけど慣れだから!」と言い仕事を教えた
教えるのは一度限り
後はやらなきゃ何も食べられはしない!
それは二人は身を持って体験した事だった
この日から拓美と拓人の魔界生活が始まった
拓美は「………あはははっ………僕達って本当に馬鹿で愚かだな………こんな所まで落ちちゃった………」と嘆いた
あの夢で………改心しておけは、こんな事にはならなかったのに………
拓人も「何処かで祖父母や父さんが助けてくれる…………って思っていたんだ
だけど、宗右衛門に平伏す存在が…………救ってなんでくれないんだって突きつけられたな………
あはははっ………こんなにも愚かで馬鹿な双子なんて………世界で僕達だけだろうね………」と自虐的に笑う
見るもの総て始めての体験だった
何もない世界は、己の力で這い上がらなくてはならない世界だった
仕事をしなければ夕飯はない
働くから夕飯は食べられる
そして仕事量によって夕飯は決まる
テレビも携帯も何もない世界
人間じゃないモノが…………死者に鞭打ち働かせている世界………
此処は地獄………物語か何かで見た世界よりも殺風景で色のない世界だった
良い子の仮面を外したら?
どんな世界が其処に広がっているのかは?
まだ解らない…………
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