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第56話 良い子の仮面を外したら……❷
魔界で暮らし始めて何日経ったのだろう?
何ヶ月過ぎた?
何年過ぎた……………?
此処は1日がやたらと長く……
時間の感覚がなくなる………
朝起きて、只管働く
働いて、働いて、少し休憩して、働いて………
フラフラのクラクラになる………
そんな頃 烈が魔界にやって来た
烈は先ずは高難度の仕事まで手伝える様になった貴也の所を尋ねた
「貴ちゃん、元気してる?」と烈が明るくやって来る
烈がちゃん付で名前を呼ぶのは、相当気を許している存在だと謂うのが解る
貴也は嬉しそうな顔をして「烈!」と名を呼んだ
烈は貴也をマジマジと視て「大分、身体が出来て来たわね!
なら次のステージに移行しましょうか?」と言った
貴也は信じられない顔をして………え?と呟いた
「当面は菩提寺に入って貰い働いて貰うわ!
貴ちゃん、原付の免許有るかしら?」
「はい!車と原付の免許なら持ってます!
免許は多分……家にあると思います」
「あ~、安曇の家のは持って来られないのよ!
貴方が毒吐き過ぎて………闇に染めたからね
ご両親も今は別の場に住んでるのよ
でも免許は紛失って事で再交付して、免許が出来たら原付買ってあげるから、菩提寺に住みつつ原付で鷹司の教室に通いなさい!
そして鷹司の教室で叩き込まれた後、貴方は【近衛】家の養子になりなさい!」
「近衛………と申しますと………摂家 五家の由緒正しいお家柄なのでは?」
「あら、知っていたのね!
摂家 清華家 大臣家 羽林家 名家 半家と分かれた中で一番上の摂家 五家ね
近衛家は血を尊び過ぎて濁って破滅へと向かうしかなかったのよ!
それがね摂家 五家に名を連ねる鷹司の獅童を継がれた方からの意向でね
新しい【血】を入れたいと申し入れがあったのよ
だからボクは貴方を魔界へ落とし、やり直すチャンスを与えた
近衛は政治家の見張り役的な役割で、立派な家と繋がりや役割があるのよ!
貴方は近衛の養子に入り、近衛家の全ての権力を手中に収め役割を果たすべく政治家になってね!
絶対に不正は許さない政界のバランスを取ってね
それが摂家 五家 近衛の役割だから!
貴方にピッタリの役回りでしょ?」
「荷が重いですよ………僕では…………」
「あら?どうして?貴方は正義感の強い子なのよ
本来の気質は、それだったんだからピッタリでしょ?」
「貴方がなれと謂うのならば、貴方の望む果てへと逝きます!」
「それは違うわよ!貴ちゃん!
ボクがなれと言ってなる
それは自分の人生を他人に委ねているだけじゃない!
それはあまりにも怖い事だと思わなきゃ!
貴方の為の人生だから、悔いなく………ね!
誰かの変わり、誰かの想いの身代わり………なんてのはもうしなくても大丈夫なのよ!
貴方は貴方の思い通り生きれば良いのよ!
貴方の養父母になる方はね、お子がいないのよ
それで滅ぶ事が口惜しいと常に言われていたのよ!登紀子とは違うおっとりとした女性だけどね、貴方を子に持つならば、関係性は築いて行きたいと申されてるのよ!
その上で決めれば良いと申されてるから、この先の事は貴方が決めて良いのよ!
ボクはレールを敷いて、こんな道もあるのよ!と教えるだけ!
そのレールの上を走るのも、辞めるのも、決めるのも貴方次第なのよ!だからキッチリと見極めるのよ!」
「解りました!」
「なら逝きましょうか?」
「もうですか?」
「そうよ、貴方さ、人の世の時間と、この魔界の時間の流れは違うのよ!
このままゆっくりいたら、人の世に戻ったらジィさんよ!
浦島太郎になっちゃうわよ!」
「それは困るので逝きます!」
「その前に、貴方の弟見たくない?」
「………怖いな………」
弟の事は気になるが………眼にするのは怖かった
烈は何も言わず軽作業の働き場に顔を出した
必死に仕事をする弟の姿があった
我儘で気まぐれで………それでも弟だった
貴教は兄の視線に気付くと深々と頭を下げた
そして何も言わず、黙々と作業を熟していく
「貴教は若いから、此処からスタートしても何度だってやり直す時間も力もあるから大丈夫よ!
そんな気にしなくても、貴教は鷹司の家に住み込みで修行して学校に行き、学ぶ時間を送る事になるわ!進むべく道は違えど、貴方達は兄弟なのよ
だから今生の別れなんてする必要なんてないのよ
離れれば、兄弟でいる意味も絆も解る時が来るわ
それが今じゃないって謂うだけよ!」
「…………はい!」
烈は貴也の返事を聞きながら、敦之を見た
敦之も貴教と同じく黙々と仕事をしていた
烈は「もう少しムキムキにならないとな………」とボヤいた
黙々と仕事していた貴教は「それ僕にはハードル高いってば!」と弱音を吐いた
敦之も「吹けば飛ぶ様な………今を乗り越えねばって事なんだね!」と自分に発破を掛けた
烈は拓美と拓人の事は視界にすら入れずに、その場を去った
貴教は「兄さんあんなにムキムキだったかな?
ひょっとして、ボク等もああならないと次のステージには進めないって事なんだね!」と言い気合を入れた
敦之も頷き、気合を入れた
父さん………母さん………貴方達を苦しめてばかりでごめん………
今思えば僕は裸の王様だったんだなって思う…………
兄さん……ごめん………許して貰えないかもだけど、謝ろう!
そして其処から兄弟として生きていこうと心に誓った
拓美と拓人はキツい日々に…何度も何度も逃げ出そうとした
だけど、何処へ行こうとも……此処は人の世じゃなく……地獄だった
魑魅魍魎が蠢き、死者が罪の分だけ働いていた
罪の重さは等価で、幼い子供だろうが………償う為に日々自分の出来る事をして働いていた
輪廻転生する為に…
次は……親不孝な子供じゃない様に……願い償う
そんな横で拓美と拓人は鬼達と共に働く
死者の方じゃなく、鬼側の仕事をする
烈は地獄を出ようと歩いていると「烈?」と名を呼ばれた
振り返ると元門倉、現在 一陽が立っていた
「いおたん、じぃさんの手伝いかしら?」
「そうです、貴方は?」
「貴也を人の世に連れて行くのよ!
貴方もあと少し魔界にいてね
そしたら海外の戸籍買ってボクの会社で働いて貰うから!
その前に綺麗の研究所へ連れて行き顔を変えないとなのね………」
「顔………ですか?」
「そのままだと門倉だって解っちゃうからね
別の戸籍、別の顔、全く違う人間になり生きて行くのよ!」
「そんな事………可能なのですか?」
「いおたんの他に3人、別人となり社会復帰したわ!
二人は戸籍があったけど一人は死亡していたから、記憶喪失と謂う事で新たに戸籍取って顔も変えたのよ!
そして今は別人となって生きているわ!
その人達もね、根っこは同じ人間に操れ脳を弄られ操られる様に生きて来たのよ!
いおたんを苦しめた従兄弟も根っこは同じ奴に操られてるのよ!
そんな話を今度して上げるわ!
貴方は今後はボクの為に働きなさい!」
「ええ、貴方の為に働きます!」
「ならね、今夜からいおたんは1人になるけど、じぃさん助けて働いてね!
次に来る時は、貴方の受け入れ準備が整った時ね!ならね、いおたん!」
そう言い、烈は貴也を連れて神の道を開き姿を消した
一陽はそれを見送り素戔嗚尊の元へと急いだ
そして拓美と拓人は…………明日をも知れぬ作業に明け暮れていた
仕事は山のようにあるのだ!
寮に入り、初めて………自分の力で生活をする
最初は腐ってイヤイヤやっていたが、仕事量で食事が決まるのだ
死活問題だから、今は真摯に与えられた仕事をしていた!
最初はカレンダーを手作りで作っていた
が、今は一日が終わるのがやっとで、それさえやらなくなった
フラフラのクラクラの仕事だったが、最近は出来る事も増えて来た
あんなに家に帰りたかったが、今はまだ帰れないとさえ思っている!
この何も無い地で、己を見直す…………
そして落とされた意味を考える
その時 初めて、良い子の仮面を外した先が視えるのかも知れない………
拓美と拓人は怖いけど鬼達とも話をした
外見は怖いけど鬼達は心優しき存在だった
何時も二人を気にかけて、然りげ無くサポートしてくれる………
そんな事にも気付けなかったなんて…………
貴教と敦之とも話をする
そして烈の持って来るレポートを片付け
宿題を片付ける
此れだけが………人の世と繋がる絆みたいで、皆必死に勉強していた
解らない所は得意分野を活かして、四人で話をして解いて行く
ある日突然 帝都大学 オックスフォード大学
ハーバード大学 京都大学 ケンブリッジ大学の入試問題全集と謂う分厚いテキストが配られた
参考書とテキストと山の様なノート
テキストに書き込んだら他の子の迷惑になるから、ノートに書けと謂う事なんだろう………
貴教は大学をスキップしまくりだったから、ある程度の事ならば他の子にも教えられた
敦之も国文科ならば得意分野で、貴教は理数系だった
拓美は医者を目指していたから理数系は得意で、拓人は弁護士を目指していたから、国文科系は得意だった
四人は日々勉強をした
働いて、仕事終わりのご飯が凄く美味しかった
時々 差し入れされるフルーツは凄く甘く
その差し入れは烈がしてくれるのだと、鬼達から聞いた
そんな魔界の生活が日常になって来つつあった
テレビも携帯もないけど、時間の使い方は自分次第で何とでもなるのを知る
良い子の仮面なんて、もう何処かへ吹き飛んで無くなっていた
もう、そんなの着けてられる余裕すらない
自分の目で見た世界を感じ
自分の考えて動く
大地を踏みしめ、踏ん張り
僕らは自分の為の時間を送る
何者にも囚われない
その為に今は只管 働いた
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