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第13話 初めての雪
落葉松荘が、爽やかで甘い香りで満ちている。
その源は、土間に置いてある大きな木箱だ。ぎっしりと詰め込まれたおがくずの中に、林檎が沢山沈んでいる。水野が、ツタの家から運んできたものだ。
そもそもは、廣沢の風邪っ引きが原因だ。
ツタ曰く、治ったけれど冬を迎えるこれからの予防が肝心、なのだそうだ。
「それで、毎日林檎を?」
美味しいけれどどうして?と聞いたら、ツタは林檎を切る手を止めて胸を張って答えた。
「林檎は、体にいいんです。でも、毎日食べなきゃいけません。聞いた事ありません?林檎一日一個で、医者いらず」
「確かに」
納得したというよりは、気圧された気分で頷いていると、すぐ隣で丸ごと林檎にかぶりついていた水野が文句を言った。
「ばあちゃん。その、体にいいっていうの、やめてくんねぇか。折角の林檎がまずくなる」
「どこがよ。旨いものは、そう簡単にまずくなったりしねぇ。お前の心がけの問題だ」
勢いよく言い返すツタに、水野は口をへの字にして睨み返すしかない。
廣沢は、その論争に加わらずに、もう一つの疑問を口にした。
「それにしても、こんなに沢山。野菜と一緒にちゃんとお支払いしますから、代金を教えてくださいね」
木箱一箱分の林檎だ。東京で買ったら、それなりの値段がする。物によってはお歳暮にだってできる。ちゃんと教えてくれないと困ると真摯に問うと、ツタと水野はきょとんとした顔をしている。
「何か、まずかったかい?」
廣沢は、不安になって水野に問う。すると、四角い顔がふわっと笑った。
「いえ。心配いらないです。この林檎は、買ったんじゃなくてあちこちから集まってくるんです」
「集まってくる?」
よくわからないと首を傾げていると、ツタが説明してくれた。
辛夷沢の集落は広く、この辺りからは見えないが林檎農家の畑が広がっているのだそうだ。いくつもある農家が、小さな傷ではじいた林檎を格安で地元の店で売ったり自家用にとっておいた林檎を近所に配ったりする。そういう林檎が、ツタのところにも物々交換やお裾分けと称して集まってくるのだそうだ。
「なるほど」
もう、何度目かわからないけれど、廣沢はまた深く頷きつつ林檎を手にとる。
鼻を寄せて息を吸い込めば、爽やかな香りがふわりと喉を通っていく。これだけで満足してしまいそうになるが、食べるとその甘酸っぱい果汁に体が隅々まで潤う。
それは、今まで食べたことのない味だった。
☆
晩秋らしい木枯らしの拭く日の午後、廣沢は林檎ジャムを煮ることにした。
いくら旨い林檎でも、生のままでは一日二個か三個が限界だ。そうこうしているうちに、日が経って味が落ちて来てしまったのだ、
山盛りの林檎を片っ端から八つ割にして、ホーローの鍋の中に大量の砂糖と一緒にいれる。林檎全体に砂糖がまぶされるように大きくかき混ぜて、しばらく置く。水分がでてきたら、火にかけて木杓子で大きく混ぜながらぐつぐつと煮詰めていく。
生の林檎の爽やかな香りが、時間とともに濃厚な果物の甘い香りに変わり、硬かった実は半透明になって柔らかく溶けていく。仕上げにリキュールを垂らして香りをつける。
用意しておいたガラス瓶に、あつあつを流し込んできゅっと蓋をする。
そのまま、また数時間放っておいて熱が冷めたら完成だ。
廣沢は、あちこちに林檎の煮汁が飛んだ前掛けを外し、同じように飛んだ煮汁で赤くなった腕を水で冷やした。
そこへ、水野が寒空の下から戻って来た。
「ただいま戻りました」
「お帰り」
後片付けの手を止めて、廣沢は振り返った。すると、水野が、中瓶三本小瓶二本に収まったジャムを見つめて目を丸くしている。
「あれだけあった林檎が、たったこれだけですか?」
元の林檎の量からは、想像できないと言った面持ちだ。
「そうなんだよ。大鍋いっぱいあったんだけど、みるみるうちに沈んでこれだけさ。とは言え、二人で食べるには多い。そうだ、一本ツタさんに」
「いや。ばあちゃんは、もう自分で大量に仕込んでます。下手したら、今度は林檎ジャムを持ってきますよ」
「そうか。あ、じゃあお隣の教会にお裾分けしようかな」
「知り合い、でしたっけ?」
「外で会えば、会釈くらいはするようになったよ。夏が終わったら閉めるのかと思っていたけど、あそこは一年中開いているんだってね。神父さん、じゃなくて牧師さんが言ってたよ」
「ああ、あの」
「……?教会と、何かあったかい?」
「いえ。俺が勝手に嫌ってるだけです。ひろさんが気にすることじゃないです。でも、ジャムは俺が食べるんで、置いといてください」
水野の不機嫌の理由がわからない。廣沢は、困ったなと思いながら手はお茶の準備を始めている。
「折角だから、少し食べないか?休憩にしよう」
努めて明るく声をかけると、穏やかな返事が返ってきた。
強火にかけたヤカンの湯はすぐ沸くだろう。廣沢は、作ったばかりのジャムの小瓶と薄いクラッカーの箱を片手に、隣の和室に移動した。
☆
密封したばかりのジャムの瓶の蓋を、きゅっと力をいれてねじると、きゅぽんと空気のぬける音がして蓋が開く。
半透明なジャムは、皮の色を映してピンクに染まっている。
塩味のクラッカーの上に乗せて小皿に出すと、水野は小さく頭を下げた。
「今は仕事中だから、あまりこういう話は似つかわしくないと思うけど。念のため言うけど、私と牧師さんが特別親しいとか、そういうことはないんだよ?」
水野は、がばっと顔あげると、すぐに首を横に激しく振った。
「そんなつもりじゃ!あの、あの、すみません。ヤキモチとかその、いや、ひろさんのことを疑ったことはない、です。あの、そうじゃないんです」
「じゃあ、できたら教えてほしいな。教会はお隣なんだから、近所付き合いだってあるだろう?」
「はい」
申し訳ないと、水野がまた項垂れる。
廣沢は、お茶とクラッカーとジャムがあるので、のんびり待つことにした。
それからしばらく、静かな時間が流れた。二枚目のクラッカーにジャムを乗せ、渋くなった紅茶に蜂蜜を垂らそうかどうしようかと廣沢が考えていると、水野の頭が動いた。
「言いがかり、みたいな話なんですけど」
「うん」
それでもいいよ。言ってごらん。
廣沢が優しく返事をすると、水野がぽつぽつと話し始めた。
俺がちっさい子どもの頃、あの教会に行った事があるんです。
まだあんまり食糧事情も良くなくて、とにかく毎日腹が減ってて。あそこでお菓子がもらえるって聞いて、皆で走って行きました。
優しそうな大人が沢山いて、教会の中はあったかくてきれいでした。
さぁどうぞって言われて椅子に座ったら、紙芝居が始まったんです。
世界には、全知全能の神様がいて、人間は神様が作ったって。
アダムとイブの話とか、海を割った人が山のてっぺんで神様と何か約束をする話とか、少しのパンと水が、あっという間に増えた話とか、沢山聞きました。
でも、俺はそれがどれも嘘にしか思えなかった。
あんなの、全部人間が作った嘘の話だ。全知全能の神様がいるなら、戦争なんて起こらないって。
それから、なんとなく教会が苦手です。
暇な金持ちが集まって、神様ごっこをして、俺たちをばかにしてるような気がして。
そのくせ、お菓子はちゃんともらったんですけどね。
これだけど一気に話すと、水野は冷めた紅茶をがぶりと飲んだ。
「私も、あの神様の言うことは実はよくわからないんだ」
「え?」
「牧師、君が言う教会の先生になるということは、寺のお坊さんになるということだろう?だから、きっと先生は神様を信じていて修行もしてるんだよ。ただ、あの神様を信じるか?と聞かれたら、私も信じられないな。なんというか、ちょっと意地が悪い」
「意地が悪い?」
「うん。さっき話してくれたアダムとイブの話。あれさ、最初から人間に適切な知恵をちゃんとつけておいてくれても良さそうなものじゃないか。最初は知恵をつけないで、動物と同じにしてるんだ。それで、神様だけが全部わかってる。それで、イブが知恵の実を食べたら、罰するんだよ。私は、気に入らないな」
「アダムは後から食べるんですよね?俺も、イブに置いていかれて神様に支配されるくらいなら、食べると思います」
「同じ罪を背負うっていうこと?」
「いえ。俺は罪じゃないと思ってます。知恵はないよりある方がいい。アダムを作ったのは神様だけど、アダムの人生を神様の勝手にはさせたくない」
「そうか。罪じゃない、っていう考え方もできるね」
「はい。あの時見せてもらった絵では、アダムとイブはぼろぼろだったけど、本当は幸せだったと思います」
「そうだね」
「あの、ごめんなさい。教会に、ジャムを持っていく時、俺も一緒に行きます」
「分けてあげていいのかい?」
「はい。教会の先生が悪いんじゃないっていうのは、わかるんで。それに、近所づきあいは確かに大事です」
「ありがとう。ところで」
「はい」
廣沢は、クラッカーの上のジャムを指で救って、水野の口元に寄せた。
「ジャム。旨いよ?」
水野は、その指をそっとつまむと、唇を押し当ててジャムを舐めた。温かいジャムと暖かい舌が廣沢の指先で絡まって、背中を何かがぞくぞくと駆け上がる。
「おいしい、です」
「そう」
なら良かったと、廣沢はすっと手を引いた。
休憩は、そこで終わった。
☆
ツタが運んでくる林檎が、紅玉からフジになり、聞いた事のない品種になる頃にはそのペースも落ちてきた。もう、畑の木には林檎は一つも残っていない。
「そろそろ林檎も終わりですね」
「そうだねぇ。もうすぐ来るよ」
「冬、ですか?」
「雪さ」
ツタの声をどこかで聞いていたのか、翌日から秋の青空は曇天に変わった。
そして、外で落ち葉掻きを手伝っていた廣沢の頬や首筋に、冷たいものが降って来た。雨かと空を見上げたら、暗く冷たい空気の中を、真っ白い小さなものがヒラヒラと待っていた。
「雪?」
「山の雪が、風で舞ってるだけです。でも、一応初雪、かな」
これが。
廣沢は、雪というものは、必ず地面にぼたぼたと落ちてくると思っていた。今、降っている雪は、あまりに軽くて落ちてこない。頭の上を、空中を、風の吹くままにふわふわと漂うばかりで、そのうちにどこかに行ってしまう。ずいぶん頼りなく、気まぐれに見えた。
それからすぐに、カラマツは丸裸になり、ますます風が冷たくなった。そして、日陰に、昼になっても霜柱が立つようになった頃、雪が降り始めた。
ツタも水野も、町の人々も。皆一様に首をすくめて、襟元をきゅっと合わせて空を見上げている。
─── 今年も来たよ。嫌だね。雪かき、どのくらいすればいいかね。灯油や薪は足りてるかい?炭も荒物屋にあるから、いつでも余分に買っとくんだよ。廣沢君は、他所から来たから教えてあげるよ……
町の人々は、口々に冬の備えについて教えようとしてくれた。
そのほとんどは、水野から聞いて知っていたけれど、廣沢は、全てをありがたいと思いながら頷いていた。
こういう事を言われなくなる日が、きっと来る。そうなったら、自分はこの土地の人間になれるんだろう。それはとても嬉しくて、少し寂しい。
買い物からの帰り道、ツタが編んでくれた毛糸の帽子が、雪で半分白くなってきた。
肩に乗った雪はすぐにさらさらと落ちてしまうけれど、毛糸の上には積もってしまうらしい。廣沢は、一度帽子をぬいで雪をはらうと、雪の中家路を急いだ。
☆
紅葉の頃に心を交わした二人は、昼はきちんと働き、夜は唇を重ねて時々触れ合った。
作法がわからないと嘆く水野に、廣沢は特になにも教えずに、流れに身を任せていた。無理はしないと信じていると言えば聞こえはいいが、自分で切っ掛けを作るのが恥ずかしいだけだ。せっついているようで、みっともないじゃないか。
それでも、小さな変化は訪れる。
雪が静かに降る夜は、若い恋人たちにはお誂え向きだ。
水野は、もっともっと廣沢の体のすみずみまで指と舌で触れたいと思っている。部屋着の上から内腿や脊椎の終わりを指でたどっても、その体は離れていかない。でも、全部を許してはもらえていない気がする。
どこまでなら、大丈夫だろう。
その間合いを推し量りながら、部屋着の手繰って素肌を撫でて、背骨を伝って硬い尻のすきまを指でたどってみる。
すると、水野の肩にすがるように掴む手に力が入る。反らされた首や耳の縁が赤くなって、もういいんじゃないかと思うのに、俯いたきりで目を合わせてくれない。
何とか、この強張りをほどくことはできないだろうか。
考えた水野は、俯く顔を持ち上げて深く唇を重ねた。上衣の裾から手を入れて、背筋を撫でながら舌を差し込んで口蓋をこする。部屋着の腰からまた手を入れて、小さな尻を掴みながら舌で舌を巻きこんでちゅうと吸う。
すると、廣沢の手や肩から力が抜け始めた。水野は、唇を離すと、ぽってりとした唇の隙間に自分の指を差し込んだ。廣沢は、目を細めてその指をしゃぶってくれる。その感触に、また水野の熱が昂るけれど、まだまだ我慢が必要だ。
熱い吐息とともに、指が解放された。すぐその唇をふさぐと、濡れた指で尻の狭間にある入り口をくるりと撫でてみた。
「んんっ」
びくりと体を揺らして喉の奥を鳴らすけれど、腕をつっぱったりはしない。水野は、ゆるゆると指先で入り口をなでて、ほんの少しだけ縁をひろげるようにひっぱってみる。
「んっ、んっ、あ、あ、そんな」
「気もちいいとこ、教えてください」
「そんなの、知らないっ……よっ……んんっ」
「ここで、いいんですよね」
「だ、め、あ、」
まだ答えている最中だと言うのに、水野は人差し指の先を入り口に差し込んで、間接をひっかけるようにしてくにくにと動かす。
たったそれだけの事で、廣沢の背筋にはびりびりと電気が走って、すっかり立ち上がった塊の先はうるうると濡れてくる。
しかも、ぐいと太腿に押し付けられた水野の塊は、もう立派に堅く大きくなっている。
「あ、だ、め。そんな、にしない、で」
「うそ。可愛い」
「ぅんっ……!」
口をついて出てくる言葉は全部嘘で、廣沢の体は入り口をいじくる指を飲み込みたくなっている。その証拠に腰がゆれて、互いの熱がぶつかって、もう部屋着が邪魔でもどかしい。
廣沢が抱き着いていた腕をほどいて、水野の部屋着をたくし上げる。すると、意図を解した水野が、自分の上衣を引き抜いて、廣沢の部屋着をはぎ取る。
薄暗い部屋の中に白く浮かぶ廣沢の体に、水野の分厚い体が蔽い尽くすように重なると、濡れた先端が互いの腹を濡らす。あっと動けば、ずるりずるりとこすりつけるようになって、その感触にまた濡れる。
水野は、その潤みを手のひらにとって指をぬらして、入り口にをまたわずかに広げる。
「ん、ん、うん、まっ、て、ね」
廣沢が、体をよじりながら水野の腕をつかむ。
「だめ?ね、こんな、可愛いのに」
「うん、だから」
布団に腕をついて上半身を持ち上げると、廣沢は水野に耳打ちした。
─── あれがあそこにあるから。
水野は、言われた通りに引き出しをあけて、軟膏の瓶を持ってきた。
それから、やはり言われた通りに軟膏をたっぷり指にとると、廣沢の足を大きく広げた。
そこは、濡れてひくひくと息づいていて、まるで水野の指を待っているようだ。
「見て、ないで、ね、それ、そこに塗って、中にも塗って」
切なげにそう言うと、廣沢は自分の膝裏に手を入れて更に大きく広げて見せた。
水野の喉がごくりと鳴った。
自分の熱で、軟膏がとけてしまいそうだ。その指を、今度は狙い定めてぐっと入り口に差し込んだ。出して、入れて、ぐるりとまわして口を広げて、また軟膏をまとった指を入れる。
中にも塗れと言われたから、今度は付け根まで押し込んで、中をぐるりと指全体で撫でる。
その間も、水野はその指をくわえてうごめく入り口をじっと見つめている。時々頭の上から、甘やかな声が聞こえて、はふっはふっと細切れの吐息が宙に浮かぶ。
しつこく何度も指を出し入れしていたら、廣沢の指が水野の指をつまむ。
「もう、だめ?」
「違う。増やして」
「指を?」
「そう。入るだけ二本でも三本でも」
水野は、一度廣沢の唇にたっぷりキスをして、一本目の指に添わせるようにして二本目の指、三本目と入れていった。
大きく広がった入り口は、苦しいのか切ないのか、指を咥えて離さない。
奥まで届かないのももどかしくて、水野は内壁ばかりを指であちこち撫でたり押したりしてみる。
時々、高い声があがる事があって、硬く育ったままの塊からはたらたらと透明な液体がこぼれ続けている。
「ひろさん、ひろさん、もっと、奥まで行きたい」
「ほんとに?」
「はい、お願い、します」
水野は熱っぽい目で、廣沢をじっと見下ろした。
廣沢は、おずおずと水野の塊に手を伸ばす
「んっ、ひろ、さん」
「こんなに大きいの、入るかな。女の子じゃないのに」
「ひどい事、は、絶対しません、から」
「うん。政、入れて」
廣沢は、目を閉じると、改めて膝裏を抱えて大きく足を広げた。
晒された入り口は、ぽっかりと口を開けて水野を待っている。ならばと、熱く滾った塊を、入り口に何度もこすりつけてから濡れた先をあてがって、ゆっくりと押し入った。
「あ、ああ、あ、んん、んん」
「痛い、です、か?」
「平気、変な感じが、するだけ、平気だから」
だから、遠慮をするなということだろう。
「ひろさん」
ずずっと粘液の中を進んで、水野の塊はその根元まで差し込まれた。
「あ、あああ、あ、」
「ひろさん、ひろさん」
食い占めるように絡んだ内壁を緩めようと、水野は腰をわずかにゆする。廣沢も、はふっはふっと小刻みに呼吸を繰り返して、何とか体の力をぬこうと試みる。
「ひろさん、可愛い」
水野は、両手で廣沢の頬を包むと、額、瞼、鼻とキスを落として、深く唇を重ねた。
舌で柔らかく口内をなめると、廣沢の体の奥が緩んで、やわやわと水野の塊を包んだり緩めたりし始めた。
「あ、ああ、ひろさん、すっごい気持ちい、い、うっそ」
そう嘆息すると、思わず腰を引いて、奥までずんとついてしまった。
「あうっ、あ、あ、」
「ああ、ごめん、なさい。辛い?」
「ちが、ばかっ、あ、」
廣沢はぐっと腰に力を入れて、体を貫く塊を締め付ける。水野は、その腰を掴んで、リズミカルに動き始めた。
粘った液体のかき混ぜられる音と、衣擦れの音が、夜の空気の中に溶けて消えていく。
その隙間を埋めるように、廣沢の甘い声が水野の熱い息が満ちる。
雪が、世界の全てから二人を隠してしまうように、しんしんと降っていた。
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