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第14話 クリスマスってなあに?

 津田は、クリスマスを祝ったことがない。 波多野は、子どもの頃の思い出として、クリスマスを覚えている。戦争が始まってからは勿論、復員した後も祝っていない。 廣沢は、早川の家に入ってからクリスマスを知った。だから、クリスマスの準備ならできる。プレゼントの包みを作り、もみの木を飾る。パーティが開かれて、忙しく立ち働く。そして、早川の主人は、よく働いた使用人たちに一粒ずつチョコレートを配ってくれた。 水野にとってのクリスマスは、小学校でのお芝居だ。 町の公民館に集落の子どもが全員集まって、5、6年生の演じる芝居を見る。毎年同じ内容で、赤ん坊は人形だ。その赤ん坊は特別な子で、だから誕生祝いに偉い人がプレゼントをくれるのだと思っていた。余談だが、マリアやヨセフより、天使の役の方がずっと人気があった。 「それが、クリスマスか?」 波多野は、不思議そうに首を傾げている。 「はい……何か、変ですか?」 「いや。家では、どうしてたんだい?」 「家で……?」 水野は、波多野の質問の意図がわからずに廣沢を見る。そうだろうねと小さく頷いて、廣沢は助け船を出した。 「家で、家族でご馳走を食べたり、親御さんからプレゼントをもらったりしただろう?と聞いていらっしゃるんだよ」 「え?」 「え?」 「だから、そんなのあんただけだよ」 廣沢の解説を聞いて、水野はまるで予想していなかったと驚きの声をあげ、その声にまた驚いた波多野にやっぱりなと津田が皮肉な声を上げる。まるで、三重奏だ。 「あの、申し訳ありません」 まずかったかと謝る水野に、波多野は慌てて打ち消すように手を振る。 「いやいや。私の聞き方が悪かった。この辺りは教会も多いし、小さな頃から馴染みがあるのかと思ったんだ」 悪かったねと丁寧に話す波多野に、水野は納得したという顔で、深く頷いた。  そもそも、どうしてクリスマスの話題になったのか。  話は少し遡る。 12月初旬、波多野から「20日頃から辛夷沢に行く」と電報が届いた。いつまでいるのかと続きを読むと、年明け5日までいるという。 廣沢は、その電報を握りしめてすぐに津田の下に走った。 何か事情を知っているなら教えてほしい。特別な準備はいるだろうか。他にお客様はいらっしゃるだろうか。 まぁ落ち着けと言われて、事情を聞かせてもらうと、全て杞憂だとわかった。 波多野は、12月21日に辛夷沢で商談があるのだ。 辛夷沢に別荘を買ったことを知った同業者が、こちらに別荘を持つ客を紹介したのだ。そもそも日本美術専門の彼には、輸入品の取り扱いは自信がない。その上、真冬の辛夷沢には行きたくない。そういうわけで、波多野は仕事をしに落葉松荘に帰ってくる事になったのだそうだ。 廣沢が胸をなでおろしていると、津田はもっと大事なことを教えてくれた。 「25日からは休みなんだとよ。俺も店を閉めてそっちに寄らせてもらうから、よろしく頼むぜ?」 「はい。お待ちいたしております。では、お部屋の用意をしておきますね?」 「ああ、部屋なぁ。なぁ廣沢」 「はい」 なんでしょうと首を傾げると、津田はにやりと笑った。 「俺たちが部屋に引っ込んだ後でちょっと妙な物音がしても、うっちゃって置いてくれよ?まぁ、お前たちも忙しいかもしれないがな」 廣沢は、頬をポっと赤くしたけれど、余計な事は言うまいと口を一文字に引き結んで神妙に頷いた。  そういう次第で、波多野は冬の落葉松荘に到着した。 12月の落葉松荘は、寒い。水野はしっかり暖炉をあたためて、廣沢は熱いお茶を用意した。そこで、お茶請けに出した林檎のジャムを食べた波多野が、興味を示した。問われるままに、廣沢は、ジャムを作ったいきさつや隣の教会にお裾分けしに行きつつ挨拶をしたことを話して聞かせた。 そこで、教会と聞いた波多野が、「そういえば、もうクリスマスの季節だ。懐かしいな」と何の気なしに口に出したというわけだ。 言い出した本人も、まさかこれほど予想外の答えが返ってくるとは思っていなかったのだけれど。 「あの、それで、クリスマスって何をするんでしょう?」 水野は、恐る恐る波多野に聞いてみた。 波多野は、破顔すると穏やかに話し始めた。 「そうだね。あれは、本当は何なんだろうなぁ。一般的なクリスマスは、こんな風かな。家の中に置ける、大人の肩くらいの高さのもみの木を用意して、天辺に星の飾りをつける。もっと色々飾をつけてもいいし、つけなくてもいい。なぜか、キラキラ光る飾りが多いから、きっとあれは全部星なんだろう。それから、子どもにプレゼントを用意する。信心をしている人は、教会に行って神父の説教を聞いて、25日の朝に家族全員でご馳走を食べる。そんなところだね。なぜかケーキと鶏肉を焼いたものを食べることが多いよ」 話す様子から、楽しい家庭行事だということは伝わってくるが、水野にその様子は思い描けない。 「確かに、芝居で見た空には、大きな星が一つ光ってたような気がします。ひろさん。隣の教会は、牧師さんでしたよね?」 「そうだね。お隣は、牧師さんだ」 「なんだよ。神父も牧師も一緒じゃねぇのか?」 津田が、無頓着に疑問を呈すと、波多野がしばし唸ってから解説を試みる。 「どうやら、違うらしい。多分、禅宗と浄土宗みたいな感じで作法が違うんだ。坊主の偉い人も、貫主とか法主とか色々呼び名があるだろう」 「なるほど」 水野には、それが上手いたとえなのかどうかはわからない。ただ、廣沢が頷き、質問をした津田が納得しているようなので、黙っていた。 「で、別荘の主人としては、クリスマスの飾りとか豪勢な飯とか、そういうものが欲しいってのか?」 揶揄うように津田が横やりを入れると、波多野は噴き出すように笑って違う違うと手を振った。 「そうじゃないよ。俺が今更そんなことをしてどうなる。廣沢君と水野君が気兼ねをしていないかと思っただけさ。君たちがやりたいならやればいい。必要なければ、何もしなくていい。どうする?」 そう問われて二人は顔を見合わせた。 そんな事、考えたこともなかった。二人それぞれに、クリスマスとは縁遠い。 「あの、お気持ちは有難いのですが、どうしていいかわかりません。それに、もうすぐお正月の支度も始まります。なぁ?」 波多野の問いに答えつつ、最後は水野の意思も確認した。すると、水野も大事なことだと言い募る。 「はい。あの、俺としてはクリスマスよりも、正月のしめ縄と門松の方が重要です」 「しめ縄と門松?」 波多野は、きょとんとした顔をして水野を見た。 「この家の玄関に、門松をたてるのかい?」 「立てないんですか?」 どちらも、思いもしなかったと目を丸くして、顔を見合った。 津田と廣沢は、その様が面白くてたまらずニヤニヤと頬がゆるむ。 「そ、そんなに、妙なことを言ったでしょうか。ここらじゃ、大きなお屋敷は皆門松を立てます。それに、ゴボウ締めだって何尺にするか」 「ん?ゴボウ?しめ飾りだろう?」 今度は、波多野が問い返す。しめ飾りの話をしていたはずが、ゴボウとは? 「はい。しめ縄です」 またしても、お互いによくわからないと首を傾げる。 今度は、津田が間に入る。 「水野、東京じゃここらみたいなゴボウみてぇなしめ縄を飾ったりしねぇんだよ」 「え?」 「へぇ」 水野は、今度こそ信じられないと驚きの声をあげ、波多野は目からうろこが落ちたといわんばかりに、晴れやかに驚いている。 「そうなのかい?」 波多野は、廣沢に問いかける。 廣沢は、自信なげに頷く。 「どうやら、そうらしいんです。しめ飾りを売る露店が出始めているんですが、まっすぐのものしかなくて。もう少ししたら、普通のしめ飾りが売り出されるのかと思っていましたが。……ああいうのしか、ないの?」 言葉の最後を、水野に向ける。すると、当然だと大きく頷く。 「なるほど。クリスマスはなくても困らないが、正月の飾りは大問題だ。そっちは水野君にまかせよう。そうしたら、クリスマスは……」 しばらく思案した波多野は、いいことを思いついたとにやりと笑う。 「津田」 「ん?」 「俺がこっちにいる間、つきあってくれるんだろう?」 「もちろん。何なりと」 「なら、決まりだ。廣沢君と水野君は、12月24日の夕方6時から25日の昼まで、臨時の休暇だ」 「え?」 驚く二人を後目に、津田は賛成だと口笛をぴゅうと吹き鳴らす。 「その晩、俺たち二人が外食をして遅くなる。玄関も、鍵を持って出るから気にしなくていい。翌朝の朝食も用意しないでくれ。なぁ、良い思いつきだろう?」 そういって津田を見やれば、大賛成と力強く頷いている。 突然の休暇に廣沢と水野が呆然としているうちに、大人二人はジャム付きクラッカーを平らげて、紅茶のお替りを頼んだ。津田がラム酒もと頼むと、廣沢は瞬時に執事の顔を取り戻して、「ではカップを交換いたしましょう」と台所に消えていった。 ☆  12月24日。 世の中はクリスマスイブというのだそうだ。朝からラジオではクリスマスソングが流れている。ジャズも流行歌も、英語も日本語も混ぜこぜにして、とにかく陽気だ。外は、降り積もった雪で真っ白だが、まぶしいような晴天だ。日向のつららがとけて、凍った表面をつぅっと流れた滴がぽたぽた落ちている。 波多野は昨夜遅くに帰宅していたが、午前中は自室で仕事をしていた。海外への手紙や作っておきたい書類を、年内にやっつけてしまいたかったのだそうだ。 昼もかなりすぎた頃に居間に降りてきた時には、晴れやかというよりもゆったりした空気をまとっていた。 「温かいうちにどうぞ」 廣沢の用意した昼食は、暖かな粥と甘口の塩鮭だ。粥に焼いた味噌と生姜を足しながら、かりっと焼けた鮭の甘さを楽しみという趣向だ。 蓮華で掬って一口食べると、波多野はふうと大きく息を吐いた。 「ああ。旨いな。ところで、廣沢君」 「はい」 何でしょうと半歩前に進みでると、食事の後で風呂を使いたいと言う。そういう事なら、食後一時間くらいで入れるように、仕度をいたしますと廣沢は請け合った。 「悪いな。少し身支度をしたくてね」 「しっかり髪を乾かさないと。風邪を引いては大変です」 「そうだな。ここの風呂も、新しくする予定だ。もう少し待っててくれ」 「私どもでしたら、慣れておりますので。でも、便所を新しくしていただいたのはとてもありがたかったので、きっと風呂も最新式のガス釜になったら、便利になるでしょうね」 「だろう?いつもここで暮らしている君たちから、もっと色々教わりたいね。じゃあよろしく頼むよ」 楽し気に笑う波多野に、廣沢もにっこりと笑顔で答えた。  それから数時間後。全身、すっきりと身支度を終えた波多野は、迎えのタクシーに乗って出かけていった。 残された水野と廣沢は、玄関の鍵を閉めた後の静かな空間の中で、少々気まずい気持ちで突っ立っていた。 「ひろさん、あの、風呂が」 「風呂?」 風呂がどうしたんだろう。廣沢は、どうした?と首を傾げる。 「あの。今から、お休みですよね。少し早いですけど、風呂、使ってください」 「今から!?」 廣沢は、心驚いて、目をまん丸に見開いている。 「はい。門も玄関も締めました。夕飯の心配もないですし、ばあちゃんも来ません。少しゆっくりして、日ごろの疲れを取ってもらえたらと」 「あ、ああ、そうか。そうだね。ありがとう。なら、後から政も風呂でよくあったまるといいよ。毎日雪かきで腕や腰が辛いだろ?」 そう言う事ならと、廣沢は安心して笑顔を返した。すると、水野は照れくさそうに目を逸らして、後からいただきますと小さく呟いた。  冬の風呂は、中と外では大違いだ。 中は、熱い湯に体をひたす極楽だ。その湯を沸かすには、外で薪をくべたり火の加減を見る人間が必要だ。 廣沢が湯船につかると、少し熱い位で水を足す。 窓を細く開けて斜め下をのぞき込むと、水野の頭が見える。 「政、いい湯加減だよ。もう、いいよ。寒いから、中に入って」 水野が、その声に振り仰いで、細い目をゆるく撓ませて微笑んだ。 「はい。あと少しです」 湯から出ている肩が冷えてきて、廣沢は手をひらひらと振って答えの代わりをして、首まで湯につかった。 もうもうと上がる湯気が天井にはりついて、水滴になって湯に落ちる。ぽちゃんと水が跳ねる音だけが響く。 ─── 恥ずかしいことは、沢山してきたんだ。もう一つくらい増えても、構やしない。 廣沢は、一度湯を両手で掬って顔をぶるりと撫でると、もう一度小窓を開けた。 「政、おいでよ」 「はい?」 「こっちに、来ないかいって誘ってるんだ」 「あ、ああ、あの、すぐ!」 ざっと立ち上がった水野は、火のついた薪をかき混ぜて残りの薪を放り込むと、すぐに土間に向かった。  風呂の戸の向こうで、がたがたと音がしている。 廣沢は、自分の言い出したことに憶するような気持ちが湧くけれど、したことがない事をする期待に胸が高鳴るのを抑えられない。 がたりと引き戸が開いて、湯気の向こうに見慣れた人影が立った。 「政」 呼びかけに答えはないけれど、手桶を掴んだ手がにゅっと目の前に現れる。その先を見れば、恥ずかしそうに口を引き結んだ水野がいる。 「急に妙なことを言って、すまない」 「いえ」 言葉少なに、二度三度と湯をかぶって、水野はまた立ち上がる。 湯船に手をかけたので、廣沢は立ち上がった。 「ひろさん……?」 「狭いから、一度立たないと入れないだろ。政が中に入ってから、一緒にしゃがめばうまくいくはずだから」 水野は、廣沢の頬に手を添えて、よくしゃべる唇を親指で撫でた。 「ほら、早く。冷えるじゃないか」 「はい」 そう急かされて、水野は湯に足を入れた。それから、目の前の廣沢を背中から抱き寄せて、二人でゆっくり湯に沈む。ざばぁと湯が溢れて、少し勿体ない。 うーと唸るような声が、水野の喉奥から漏れて、廣沢はその分厚い胸にぴったり添うように背中を預ける。 「暖かいです」 「そうだね」 風呂が暖かいのは当たり前なのに。なぜか風呂に入ると、人の心と体は緩んで素直な心が音になる。 「ひろさん」 「ん?」 「ひろさん」 「何だい?そんなに何度も。目の前にいるじゃないか」 「はい。あの」 「したいように、していいんだよ?」 廣沢は、少し体をひねって、横顔を水野に向ける。少しだけ、腰の位置をずらして、尻を太腿に押し付ける。 はしたないという事は、わかっている。 それでも、いつだって水野に欲してもらいたい。 「ひ、ひろ、さん……」 水野の手が、熱い湯の中で腰から腹、胸に向かって撫で上げてくる。 それが、気持ちいい。 つい胸を反らせるようにしてしまうと、大きな手がその胸をゆるく撫でて、乳首をつまむ。 「ん、ぅんん」 鼻にかかった甘えた声が、小さく漏れる。 水野の、鼓動がばくんと跳ねたのが、皮膚越しに伝わる。つままれた乳首がじんじんして、恥ずかしくて気持ちいい。 「んん、んん」 その刺激が腰に集まって、廣沢の中心は熱くなり始める。 「ま、さ、そこばっかりじゃ、や、だよ」 「はい」 くるりと廣沢の向きを変えて、水野は深く唇を重ねる。すぐに舌が歯列を割って、上あごをずるりとなめ上げる。 ずくんと刺激が背中を走って、廣沢は厚い舌を追いかけて、自分の舌を伸ばす。 ちゅっちゅっと繰り返される水音と、ちゃぷちゃぷと湯の跳ねる音が、二人をぐるりと囲んでいる。 その熱い湯の中では、熱く硬くなった二つの塊がぶつかりあって絡まれなくて、もどかしいと揺れている。 「ひろさん、ああ、かわいい、んん」 「政、政、あ、このまま、は、だめ、だよ」 「はい。あ、ああでも、少し、だけ」 水野は、廣沢が期待したとおりに、欲に負ける。 この先を予見してむずむずする入り口を、人差し指と中指で、緩くなでたり押したりする。二本の指で押し開くようにしたりもする。 「だ、めだよ、お湯が、入っちゃう」 「俺が、全部きれいにしますから」 「んんん」 太い指の先だけを入れて、入り口の縁をぐるりぐるりと撫でては広げていく。 少し力をかけて、少しだけ無理をする。そうすることで、廣沢の体はどんどん熱く緩んでくることを、水野はもう知っていた。 「いつも、あんなにちゃんとしてるのに、こんなことされてるひろさん、めちゃくちゃ可愛い。ほら、こっちも」 空いている方の手で、また乳首をつまんで軽くひっぱる。 廣沢は、その様を見て、更に発情する。 あんなことを、されている。 こんなことも、されている。 そして私は、ひどく興奮している。 もっと見せたら、どんな事をしてくれるだろう。 廣沢は、水野の顔をじっと見ながら、両手を後ろに回した。 「政、政の、ね?」 頭を水野の胸に預けて腰を持ち上げ、自分の両手で尻をぐいと左右に開く。ゆっくりと腰を下ろせば、差し込まれていた指がずるりと中まで潜り込む。飲み込まれた指は、たまらず中をこすりあげる。 「あ、あああ、それ、いい」 水野の喉がごくりと鳴って、指が増える。ぐいぐいと出し入れされて、中を押し広げられていく。動きに合わせるように、湯がまた跳ねて、廣沢の顔を濡らす。 「ひろさん、もう、出ましょう。続きは、部屋で」 「ここじゃ、ダメかい?」 「じきに、湯が冷めます。さ」 ずるりと指が抜かれて、入り口がもじもじと恥じらうように閉じていく。 あまり力の入らない廣沢を、水野が助け起こすように立ち上がると、二人の中心はしっかりと上を向いていた。 水野の先を指でするりと撫でて、廣沢は満足気に笑う。 「何で、こんなに嬉しいんだろう」 「これが?ですか?」 「こうなってるのがさ。私で、だろう?」 「他に、いませんよ」 ざぶりと湯から出ると、バスタオルを贅沢に使って、二階に駆け上がる。 こちらも、水野が仕度していたのか、暖かい。 互いの体の水滴を拭き合っていたはずが、すぐに口づけが深くなって、互いの尻をつかみあって、布団に転がるようにして倒れ込んだ。 「お休みだからって、破廉恥だね」 「可愛くて、どうにかなりそうです」 口づけの合間に、言葉を交わして、互いの熱を手で扱き合う。 「ああ、すごい。やっぱり政の、大きいよ」 「そんなこと。ひろさんのは、可愛い。しっかりしてるのに、すぐに泣いちゃうみたいで」 「莫迦」 水野は、二人分の熱を一緒に掴んで、廣沢の手も一緒に何度も擦る。 「あ、あ、それで、イっちゃう」 ぐぐっと腹に力が入って、背中が丸くなる。 「イけっ」 びくびくっと体が揺れて、水野の手の中にあふれる白。 廣沢は、はぁはぁと肩を揺らしながら、布団の上に伸びた。 その力をなくした足の付け根を、水野はちゅっちゅっと唇で撫でる。 「あ、ま、って、まだ」 「だめ」 「え?」 水野は、廣沢の足を大きく開くと、入り口をべろりと舐めた。 「あっ!!何っ!?」 「すぐ、やわらかくなります」 ぐっと腰を高く持ち上げて、水野は廣沢の入り口を両手でそっと開くと舌を差し込んだ。丹念に縁を舐めてしっかり濡らすと、指を入れた。 すぐに二本、三本と増えた指は、何度も何度も出入りを繰り返して、また廣沢の中心が熱くなる。 「あ、や、ね、もう、もう」 「どうします?」 「わかってる、くせに、もう、お願いだから」 「言ってください」 「政のを、入れて、もう!莫迦!」 闇雲に叫ぶと、べろりと中心を舐められた。それから腰をかかえなおされたと思うと、熱い塊が押し付けられる。 「あ、そ、れ」 手を伸ばせば、熱い塊が硬く硬く育っている。 もう、意地悪をしないでほしい。 中まで、奥まで、それを押し込んで、突いて。 廣沢は、恥ずかしくて泣きたいような気持で目をぎゅっとつむると、水野の塊を催促するように撫でた。 「可愛い」 今日、何度目か。 水野が小さく呟いて、廣沢の体に分け入った。 ゆっくりと先端を押し込んで、一番広いところが通り抜ければ、ぽんと栓が抜けたようなはまったような軽い衝撃がある。 そこからは、前後に小さく揺すりながら、奥までじっくりと攻め込まれるのだ。 廣沢は、じわじわと開かれる体を馴染ませようと、浅い呼吸を繰り返す。 時々、水野の手が、脇腹や腰や髪を撫でる。薄く目を開くと、赤い顔で困ったように眉間に皺を寄せている。なのに、口元はかすかに笑っている。 今、確かに好かれている。 これが欲しかったのだと、喜ばれている。 廣沢は、その確信を得た喜びに胸が震える。その思いが積み重なるほどに、更に大胆になっていく。 少し腹に力を入れて見たり、入り口に力をいれてみたり。廣沢の背中を足先でなぞってみたり。 段々とスピードを上げていく動きに合わせて、がくがくと腰をふってみたり。 苦しいけれど、自分の中にある水野がより硬くより大きくなるほどに、嬉しさが募る。 「ひろ、さん、ひろさん、もう、あ、きもち、いい、です」 「うん、うん、あ、ああ、あああ、そこ、いい、そのまま、イって」 「あ、あ、あ、もう……!」 がつんと腰を打ち付けて、水野は果てた。 廣沢も、その衝撃で、緊張が解けるように吐き出した。 何もかも遣りつくしたかのように力を失った二人は、暫く布団に倒れ込んでいた。 先にむくりと立ち上がったのは、水野だ。 階段を降りる音がした。 どうしたかと思うと、布巾と桶を持って戻ってきた。廣沢が薄目を開けて見上げると、優しい顔で見下ろしていた。 「ありがとう」 「いえ。あの、明日の昼までお休み、ですよね?」 「うん。そうだよ?」 「なら、時間、ありますね」 「え」 水野は、廣沢を抱きよせて、濡れ布巾で汚れをふき取った。しかし、そのまま寝かせてくれるわけではない。 翌日。 二人は、始めて朝寝坊をした。 クリスマスがどんなものかは、やっぱりわからずじまいだった。

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