2 / 6

「後ろに振り返るのもたまにはいいものだな」

   中高大一貫で全寮制男子校。  一言で表すなら、当たり前にバカでかい学校だ。  中学、高校、大学とまずは建物があり、そこで寮も中等部、高等部、大学部とドカーンと建っており、もう――バカかと。  高校から外部入学した俺は初っ端校内で迷子になりつつ今でもそれをネタにされるほど迷路入りしている。  入学して二年目の今でも知らない教室やらなんやらがあるんじゃないか?ってほど。  だが、それも諦めている。全部覚えなくてもなんとかなるとわかったたんだ。  天国にいる、父さん母さん。  高校二年生、ちなみに3組、中沢(なかざわ) 智志(さとし)は元気に過ごしています。  両親がドライブデートという名の事故で他界し、祖父母もすでに亡くなっていた俺に、ほぼ身寄りなどいなかった。それで葬儀の時に行われた“誰が息子の智志君を預かるか”という話し合いをがっつり目の前で見ていた俺。  小学高学年という年齢のせいかその空気や、親戚とも呼ぶによべない人達の雰囲気をなんとなく見て、なんとなく察してしまった気まずい場。  ようやく預かる家が決まったじいさんとばあさんの表情で――あぁこの二人、嫌そうに俺を引き取るなぁ――と感じた。  あの家で露骨なイジメにあった、とかではない。  俺に接する態度などを見ていて感じたことだが、やっぱり俺自身も息苦しく思っていたらしい。  だからこんなバカでかい全寮制なんて学校に受験して、あの家から出て行ったんだろう。  まるで他人様のような視点に笑えるが、否定はしないし、そう言われたら素直に俺は頷ける。  しかし金銭的な問題については少し難な道かなぁ、と勇気を出して進路の話を持ち出してみた。  じいさんから前に、ちゃんと大学まで行かす、なんて言っていたのを思い出した俺は――いざ話してみると、トントン拍子で了承を得たのだ。  ばあさんにもその報告をしてみれば心なしか嬉しそうな表情で『そうかい』と言われたなぁ。  呆気ないものに少し驚くところはあったが、それを気にしていたら目指す学校も受からない気がして猛勉強したさ。  だってそこの偏差値、俺からすると無理レベルの学校だったから。  中学ではもう浮いた存在で目立たず静かに終わった三年間に悔いはない。息苦しかった家に、いらない気遣いなどをされてきた中学の教師生徒達とはこれでおさらば出来る。  唯一、笑みが浮いた瞬間だった。  ――人生に色付くものはない。  ほとんど一人で過ごしてきたせいで最初の寮生活には頭を抱えたものだ。  なんといっても寮部屋の同室者が、常にいるという悩み。もちろん自室はある。  そこにずっといてもいいんだろうが、俺も人間だからテレビは見たいし共有するトイレと風呂は入りたいから必ず通るリビングは避けきれない。  同室者相手は松村(まつむら) 平三(へいぞう)という男で名前とは裏腹にイケメンで良い気遣いをしてくる奴だ。  俺に一生懸命話しかけて場を盛り上げようとしてくる男。  しかし俺の性格が性格なもので、それほど人と話すような環境じゃなかったことが引き金になり、ほとんど無視する形で終わっていた。  同じクラスだったのに。  で、――ここは吹っ切れようと。  適当に、一つの返事を与えればまた話し返してくる同室者に、おはようの一言はかけとこうと。  それがキッカケで仲が良くなり、二年生になっても同室者として過ごしていたわけだが――問題はそこじゃない。  この学校は問題だらけで、問題のない学校だ。 「んっ、さとしくん、ふぅ……」 「……恥ずかしくないのか、お前」  平三とは声を大にして言えるほどの仲良し具合までいったと思う。  俺の趣味の菓子作りにオーブンレンジをくれたり、好きなゲームソフトを貸してくれたりと、すごい良い奴で気が合う男なんだと気が付いた。……が、そんな松村 平三には“彼氏”という恋人がいる。  いいか、ここは男子校だ。全寮制の、男しかいない、学校。  そこに、男である平三の“恋人”が、いる――彼氏。  つまりは男同士。  平三自身、最初からソッチの世界の人ではなかったらしい。ただ好きになったのが男だった、と。  相手は、生徒会役委員の会長様。この学校を仕切れる、お偉いさんといっとこう。  そんな男と平三は付き合ってる。  付き合ってるせいか、ある日突然、平三から――この部屋を出て、付き合ってるあいつの部屋に入ることにした――と引っ越し宣言。  頭はついて行かずとも、平三はこの部屋から出て行く。イコール、一人になれるなぁ……!という思考に達して簡単なお別れ会をしたあと、平三は出て行ったんだ。  まぁクラスは同じだし、明日もその次の日も普通に会えるから大袈裟にしなくともいいんだが……。 「はぁ、ンっ……ね、なに考えてるの……俺のこと?」 「……」  お別れ会とか、そんな大袈裟なことをしなくてもよかったんだが――俺の一人になれる思考はどこかにいったみたいで、大変な奴と同室者になることになったんだ。  王司(おうじ) 雅也(まさや)。同じ二学年で、7組の有名人な男。  有名人だからといって、別に芸能人とかではない。ただ単純に人気者なだけだ。  校内で親衛隊だかファンクラブだかがあるみたいで、その中でも王司 雅也を“王子様”なんて呼ぶ者もいるらしい。  親衛隊とか見た事ないんだけどな。  確かに顔は平三より良いし、笑えば爽やかで癒し効果もあるかもしれない。性格も良く、運動神経は抜群の成績は化け物級で優秀。  生徒会役委員の副会長まで勤めている抜け目のない男だ。――まあ、こいつホモだけど。  今まで何人の相手をしてきたかわからない“バリタチ”らしい男だ。  カッコよさに魅了されて自分の穴をさし出すとかもうその時点で問題だろ。……と思っていても、男子校なんてそんなものだ、ともう一人の友人、木下(きのした) (あゆむ)が言ってたっけ。  あいつは腐男子というものらしく、とにかくなんでもそこら中にいる男と男をくっつけては一人で興奮している奴。  これがたまに頼りになるからなにも言えない所詮イケメン男子なんだけど。  話を戻そう。  とにかく。バッと、グッと、フッと転がして言うと、そんな王子様と呼ばれている王司 雅也は平凡で、なんの取り柄という取り柄が全くない俺、中沢 智志に好意を持っていたらしく、いろいろあってのなんだかんだ――付き合っていたりする。……俺自身、ホモだとは思いたくなくても結果、そうなってるからな。 「んっんっ、智志く、んっ」 「……雅也、本当にお前は強者だと思うぞ?」  俺の部屋でベッドの背に上体を預けて座る王司の、勃起したチンコに足を乗せればビクつく体。  そんでもって高い声を上げている。 「ぁッ、さと、しくんッ、んぅ……!」 「いっつもこうなるのは、なんでだろうなあ……」  ――王司 雅也の正体は、ドM。  少しの痛みでも喜ぶ、ドM野郎で、突っ込む立場なのだ。 「はっ、はあ……さとしくん、も、挿入たい、です……」 「……っ、耐久ねぇなー」  

ともだちにシェアしよう!