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〈番外編〉 訪問者 7 【綾音と涼平】
「楽しかったね」
俺が思考に沈んでいると、綾音がニコニコして言った。
「別荘のボートで魚釣ったり散歩しながら木苺摘んだり。夜の星は凄かったね。落ちてきそうでビックリした!カシオペアもオリオンも北斗七星も、一人で全部見つけられたよ。天の川は星がいっぱいあってチカチカしてて、本当に星の川みたいで」
「確かにあれは凄かったな。周りが暗いとあそこまでくっきり見えるんだな」
「ねー。今日の藤代さまのお住まいはオシャレだったね。でもさすが藤代さま、急に訪れてもちっとも散らかってなかった。パソコンのお部屋にはいっぱいお勉強の本があって、頭がいい人のお部屋、って感じ」
「そう、だな」
「でもなんだか生活感があって、藤代さま本当にここにお住まいなんだ〜って感動しちゃった!うふふ、頂いたキャンディ宝物にしちゃおう」
口数の多い方ではない綾音の終始はしゃいだ様子から相当楽しかったことが窺える。
綾音は藤代さんを怖いと感じたことはないのだろうか。
「綾音、怖くはなかったか?」
「怖い?何が?藤代さまのお部屋?あそこは安全な気がしてた。きっと管理人さんが見張ってくれてるからだね。だから藤代さまも安心して暮らしてるんだよ。優しくていい人がいてくれてよかったね」
藤代さんの事を聞いたつもりだったが、違う反応が返ってきた。
「牧之原さん?管理人さんは警備員じゃないぞ」
「うーん、でもきっと見ててくれてるよ。だって吉本さんや棚木さんたちと同じ目をしてたもん」
吉本さんと棚木さんは綾音んちのSPだ。平泉家お抱えの超一流のボディガードであり、俺の体術と剣術の師匠だ。彼らと管理人さんが同じ目をしてたって?まさか。
しかし綾音は危険に対して人一倍敏感だ。名門平泉家の嫡男として財産を狙われ、優秀なαを産むΩとして体を狙われ続けてきた経験が、危険の匂いを敏感に嗅ぎとる能力を育ててきてる。
ならば本当に彼は管理人ではないのかもしれない。
ではマンションの警備員?
いや、綾音にボディガードが必要なように、数少ない稀少種の藤代さん専用のボディガードなのかもしれないな。
そして危険に敏感な綾音がここまで懐いているんだ、藤代さんも悪い人じゃないのかもしれない。
頭が混乱してきた。どこまでが本当なんだ。
俺はあの人を信用していいのか?綾音の伴侶として認めてしまってもいいのか?
「藤代さま、子供たくさん欲しいって」
「ん?ああ、言ってたな」
「……」
「綾音?」
「子供、僕が産むのかな」
「番 になるならそうだろ」
「そう、だね」
「藤代さんがいいんだろ?」
「……うん。藤代さまがいい。藤代さまじゃなきゃ駄目」
「だろ。綾音の子供か。可愛いだろうな」
「そんな事ない。僕に似ない子がいい。藤代さまにそっくりのお子様だったら、カッコイイし頭いいしきっと優秀なαだから」
「αだろうとΩだろうと、どんな子だってお前が産むなら可愛いさ」
「付いてきてくれるんだよね」
「もちろんだ。どこに嫁ごうが付いていく。安心しろ、似てようが似てなかろうが俺はおまえも子供も守る」
「うん。でもやっぱり子供は似てない方がいい。藤代さまにそっくりで、見た目も能力も性格も、全く僕に似てない子がいい……」
横に座っていた綾音は、トン と俺に体をもたれ掛からせてきた。
「……はしゃぎ疲れちゃった」
綾音が俺の手を握った。幼稚園の頃から変わらず柔らかくて俺より小さな手。
俺は綾音の頭を引き寄せ、そのままじっと撫で続ける。
「このまま駅に着かないといいな……」
「……ああ」
綾音と二人、このまま。
ずっとずっと旅が続けばいい。
どこにも着かず、永遠に二人で。
俺と綾音は身を寄せ合い、黙って電車に揺られていた。
【綾音と涼平・了】
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