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〈番外編〉 訪問者 8 【淳也と李玖】

僕、天沼(あまぬま)淳也(じゅんや)は、化粧品と美容器具、健康食品等を全国に卸している天沼商会の一人息子だ。 商会の創業は地方の薬屋だった。そのうち外国から薬の輸入を始めて、さらに健康食品や化粧品事業にも手を広げていった。近頃はフィットネスクラブを始めボクシングジムやヨガ、リフレクソロジーサロンなどのスポーツ関連事業にも進出を始め、全国規模の一大企業へと成長中だ。 その僕のうちには秘薬がある。 嫡子にのみ代々受け継がれてきたその薬はαを虜にする惚れ薬で、天沼家の繁栄を約束する禁秘(きんぴ)の品だ。我が社の社長達が優秀なα‬だったのもこの惚れ薬のおかげだ。 天沼家は昔からΩばかりが生まれる家系でαはなかなか生まれず、嫡子が自分の(つがい)を婿養子にして一族に引き入れてきた。その時々の嫡子がどれだけ優秀なαを(つがい)にしたかで発展の規模は変わっている。愛などというくだらないものに溺れた嫡子の時は凡庸なαの社長のもと発展も衰退もない停滞した経営を展開していた。いかに優秀なαが必要かという証明だ。 秘薬がなくたって僕たちの美貌に掛かればαなんてすぐに手に入る。だけど確実に最高クラスのαが欲しいのだ。そして一族に引き入れる為には一生離れられない強い繋がりが必要だった。 その繋がりを築く為には相手を虜にし雁字搦めに絡めとる薬の存在が無くてはならない。 なのでうちが代々優秀なαを社長に据え置け繁栄してきたのはその薬のお陰だった。 優秀なαを手に入れた嫡子は、そのあと己の美貌でメディア界に進出しモデルやタレントとして社の広告塔になっていく。 それは天沼家に生まれた者の使命であると同時に美貌を武器にするΩの彼らの望みでもある。 天沼商会の事業内容である美容器具と化粧品の取り扱いは、優秀なαを掴まえるためと美のトップに登り詰めるために天沼家の嫡子に必要な事業であったのだ。

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