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〈番外編〉 訪問者 9 【淳也と李玖】
玄関で綾音さん達を見送った藤代さまが部屋に戻ってきた。
「天沼くん、みんなのいる所にお菓子と飲み物を用意したんだ、行こう」
そう言ってパソコンの電源を切ろうとマウスに手を掛けたので、その手を上から握った。
「ねえ、藤代さま、とても沢山のお友達がいらっしゃるんですね」
「あれ、見えちゃった?」
「ええ。ご年配で大変なお仕事の方達ばかり」
「……よく彼らだと分かったね」
「商売は繋がりが命ですから」
「皆には内緒だよ」
藤代さまはゆっくりと目を細めて静かに笑い、自分の唇に人差し指を立てた。
パソコンに入っていたのは大臣や経済界の重鎮達の電話番号だった。表向きの連絡先ではなく、私設秘書が管理するプライベーなナンバー。これを知っていると言うことは政治と経済の面々と私的に繋がっているという事だ。
思った通り、藤代李玖には天沼商会の欲しい太いパイプが何本もあるようだ。
この繋がりを商会に取り込めば、うちが輸入している様々な品目をこの国で独占販売する事が可能だろう。
欲しい。
政財界と経済界への太いパイプ。
優秀な頭脳と、人を惹きつけるカリスマ性。
稀少種という人類で最高位に位置する、神の如き存在。
番に出来たらきっと何でも手に入る。
藤代李玖の持つ全てが欲しい。
手に入れるさ。
僕も静かに笑った。
僕には薬がある。
狙った獲物を仕留める薬。
天沼家に代々伝わる、次期当主のみに与えられる惚れ薬が──
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