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第5話 ヒートの翌日

1週間後、頭に霞がかかって熱に浮かされたような状態から意識がはっきりしてきた時には、高村さんはもういなかった。 体は軽く拭いてあったのか、使ったティッシュが山となっていたけど、雑だったのだろう、いたる所がガピガピする。 特にお尻の穴から内股にかけては酷く、一面がゴワゴワしていた。 部屋は、吐瀉物で汚れたタオルや、ドロドロになったのをクシャクシャに丸められたシーツ、いつ食べたのか知らない食べ物の容器なんかで散らかっていた。 ヒート中はむせる程の甘い匂いでいっぱいだった鼻も、通常に戻った今はもう、吐瀉物のすえた臭いしかしない。 (こんなもんなのかな…) 運命の番と出会えば無条件で幸せになれると思っていた。 (ううん、運命なんだ、良かったんだよ。普通だったらこんな貧相な男、誰も相手にしないだろ?αの人達はΩを選び放題なんだ、綺麗な人に行くに決まってる。相手が見つかったのは、幸運なことだ) いくらΩとはいえ、初めてで、慣らしもせずいきなり貫かれても僕の入り口は切れなかった。 高村さんは切れたと勘違いしたけど、実際は血濡れしたように体液がいっぺんに溢れ出ただけだ。僕の体は初めての異物だというのにすぐになじみ、感じまくって善がり狂った。ここまで体の相性が良いのは普通ならあり得ない。 (縛られはしたけど、吐いたのに怒鳴られたり殴られたりはしてない。体も拭いてくれたみたいだし、悪い人じゃないんだよ) なにより、〈運命の番〉を望んだのは自分じゃないか。 好きでもなく、よく知りもしない人に狂態を晒してしまった自分自身に、そう納得させた。 急に始まった発情期( ヒート)のせいで、ゼミのレポートが提出日を過ぎてしまっていた。 大学には連絡していたし、レポート自体は書き上げていたから今日中に持って行けば受け付けてくれるそうだ。体は怠かったけど仕方がない。出掛ける支度をしようと洗面所に立った僕は、鏡を見てギョッとした。 「うわっ、何これ、目がぱんぱん。腕もやばい。どうしよう、どうしたらいいの」 どうやら、泣きすぎて目が腫れてしまったらしい。そして手首には縛られた痣がくっきりと赤黒く残っていた。 ちょっとでも隠れるように、と眼鏡と帽子を着用して、袖が長いTシャツを着て家を出た。

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