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第3話 予兆

あの出会いのあと、運命の(つがい)、高村さんとは全く接点がなかった。登録された連絡先を見て名前を知ったくらいで、お互い名乗りもしなかったことに後で気付き、愕然とした。 <運命の番>に会えば、無条件で恋に落ちると思ってた。すぐに気付いて一目惚れして、その日のうちに恋人同士になれるって。 実際、動悸がしたし体も熱くなったし、微笑まれたら恋に落ちたかもしれない。 でも、目が合った直後の嫌そうな顔と、品定めされた目線に、全てが一瞬にして凍りついた。 運命の相手というのはこうなのか。 よく知りもしない相手の顔色ひとつで感情が乱高下して、思考も理性も追いつかない。まして、αに従う(さが)のΩなら、その存在感は尚更だ。 本当は、どんななの人か知りたくて遠くからでも見ようかと思ったが、視界に入れたらフラフラ近寄りそうだったし、近づくなと言われてた手前、どんな顔をされるかと想像するだけで恐怖で動けず、高村さんのことは未だに知らなかった。 同じゼミの田中くんが、サークル繋がりで高村さんを知っていたので、どんな人か聞いてみた。 「あまり評判よくないかな。ヒートのΩ見つけたらすぐヤッてるし、普段はそこらの女にも手を出してる。お前の相手って、本当?あんまりオススメしないよ」 でも、出会ってしまったのだ。 怖いけれど、お互い色々知っていけば、きっと上手くやっていける筈。 しばらくは何事もなく、以前と同じように学校生活を送っていたが、ある日の朝、風邪に似た怠さと発熱を感じた。 それは段々と酷くなり、1人で立ち上がれなくなってしまった。 ついに、初めての発情期(ヒート)が始まったのだ。 体中から力が抜け、腕さえ上がらない。熱いのに熱は外に出ず溜まる一方で、呼吸も浅く短くなっていた。抑制剤は…ああ、そうだ机の三番目の引き出し… 思考もふわふわしてきた。 高村さんに連絡しろと言われていた事を思い出し、ヒートが来た事をメールし、田中くんに1週間引きこもる事を大学に伝えてもらって、なんとか薬を飲んでベッドに倒れこんだ。

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