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〈番外編〉 訪問者 12【李玖と牧之原】

藤代さまがご学友を玄関まで見送られた後、リビングに戻ってこられた。私はリビングの柱の陰から姿を現し、彼の口から硬質な声で指示が出るのを待った。 「マキ、報告を」 「はっ。盗みをはたらく者、カメラや盗聴器、危険物を設置する等の不審な行動を取る者はおりませんでした。ただ一人、前から行動を危ぶんでいた例の者だけが人目を盗んで部屋の様子などを携帯カメラに収めております」 「では引き続きその者の監視を。その指示を出したであろう人物の洗い出しも早急に」 「は」 マンションのコンシェルジュをしている私、牧ノ原行利(ゆきみち)は稀少種 藤代李玖の隠密(おんみつ)である。今回は部屋の隅で気配を消して招き入れた訪問者達の動向を監視していた。 報告を終えた私は了承し頭を下げ一礼した​── 暫くその姿勢のままでいると彼から声が掛かった。 「もういいですよ、任務は終了です。どうぞ好きなだけ笑ってください」 「……っ、ふ、ふふっ。ふふふ、あーっはっはっは」 李玖くんは苦笑いをしていた。下を向いてても肩が震えていたのがバレたな。 「だって見たかい、涼平くんのあの顔!胡散臭いって顔にありありと書いてあったじゃないか。李玖くんかなり怪しい人だと思われたね。焦りすぎだよ」 私は彼の手足となる隠密であるが、同時に友人でもある。子供のいなかった私には子供のようなもの、年の差を考えると李玖くんには祖父みたいなものもしれない。 「でも絶好のチャンスだったんですよ。あの構造式が理解できて、発表してもおかしくないような人ってなかなか見つからなくて。すぐにでも公表できる人誰かいないかなって探していたら、涼平くんが分かってくれたもので渡りに船だと飛びついてしまった」 「そんな事情を彼は知らないから結局は胡散臭さを印象付けただけで逃げられちゃったね。ああ、おっかしいの」 今こうしている間にもこの難病で亡くなっていく者がいるのだ、()れる李玖くんの気持ちも分かる。一刻も早く新薬を作り犠牲者を止めたいところだが、この発見は出来れば稀少種からではない方がいいのだ。 天から与えられるのを待つのではなく、多少誘導しても世間の力で発見して欲しい。我々の力がなくてもやれた事実を残し、徐々に我々を必要としないように、存在を忘れるようになるといい。 「大学の生物工学科の小早川教授に話を振ってごらん。彼は免疫工学の博士号を持っているし、彼のラボには遺伝子工学の設備が整っているよ。もし李玖くんが上手くヒントを出すなら短い日数で答えに辿りつく筈だ」 「小早川教授…彼は確か僕のゼミの教授と親しかった筈です。分かりました、それとなく話題にしてみます」 「成功を祈ってるよ」 李玖くんが通っている大学は僕の隠密だった友人が設立した大学で、僕にも多少馴染みがあった。あの教授なら人柄を知っている。βだが努力家で知識も豊富だから彼ならどんなに苦労を重ねても答えに辿り着ける筈だ。

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