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第7話 彼を好きになれるだろうか
構内で何度か高村さんを見かけた。会うたびに綺麗な女の人といたけど、同じ人だったり違う人だったり。田中くんの言うとおり、恋多き男の噂は本当だったらしい。
僕自身は大したことではないと思っているのに、体は何故か胃の辺りから熱いものが込み上げてくる。
見るなと言われてたのに凝視して、自覚はないが眉間に皺が寄っているらしい。
まるで〈好き〉みたいな状態だ。
高村さんもこっちが見てる事に気付くと、向こうも目が離せないのか見てくるけど、その目は邪魔だ、あっちにいけ、と語っている。一緒にいる女の人が
「あら、いいの?あなたの大事な人が睨んでるじゃないの」
と言ってフフン、と笑うと、
「いいのいいの。俺はチカちゃんみたいなグラマーで美人が好み」
と頰にチュッとキスをした。
しかし、一旦僕の発情期 が始まると高村さんは必ずやってきた。あの快楽が忘れられないらしい。僕の体も高村さんだけしか受け付けず、そしてまたもや、僕の理性は快楽で溶けてしまった。
前回と同じように、噛んでと懇願して首をすりつけると、前回で懲りた高村さんは、幅の広い丈夫な皮の首輪を僕に取り付けた。
「首噛み防止の首輪だ。ちょっとやそっとじゃ外れないぜ。これで気にせずヤレるな」
「嫌だぁ。外して、いやぁ、あぁ、いや、いや」
僕は狂ったように首を振り、首輪を外そうと喉を掻きむしった。でも専用の首輪とあって、丈夫で全く取れる気配がない。
ヒートのあいだ、何度も爪を立てたせいだろう。終わって正気に戻ると、僕の手は血だらけで何ヶ所も爪が剥がれていた。
「酷い。あんまりだ」
「いくらαだからって、運命の相手なんだ。もっと大事にしろよ」
友達の安永くんと田中くんは、僕の包帯だらけの指を見て憤慨した。実は、首にも、首輪の跡と爪の引っ掻き傷があったらしい。
「出逢えるのは奇跡なんだよ、その有り難みがなんであいつには分かんないんだ」
「αは他にいっぱいいるじゃねーか。何で、よりにもよってあんなゲスが相手なんだ」
「ゲスって。二人とも言い過ぎだよ。でも、心配してくれてありがと。最中は僕も頭が飛んでて言う事聞けなくなってるからしょうがないんだ」
「またそうやってかばう!」
「お前が優し過ぎるから相手がつけあがるんだ」
Ωとβの二人が、ヒエラルキーの頂点であるαに向かって酷い言葉を吐く。それだけ僕を心配してくれてるんだと思うと嬉しい。藤代先輩といい友達といい、僕の周りはみな優しくていい人ばっかりだ。
しかし実際のところ、僕は〈運命の番 〉を望んでいたが、高村さんは望んでいなかったのだ。急に現れた全く好みじゃない男なんかを、好きになれ、大事にしろという方がおかしい。彼は自分のペースを崩していないだけなんだ。
じゃあ僕はどうなんだろう。僕は、彼を好きになれるだろうか…
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