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おとぎ話の結末 第8話 大切だからだよ | 咲房の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
おとぎ話の結末
第8話 大切だからだよ
作者:
咲房
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第8話 大切だからだよ
発情期
(
ヒート
)
は、恋人や伴侶がいれば、誰にも邪魔をされない幸せな蜜月期間だ。相手がまだいないのであれば抑制剤で衝動を抑えてやり過ごせばいい。 でも高村さんから避妊薬を飲まされる僕は、抑制剤が飲めなかった。薬の過剰摂取になるからだ。初めての時に嘔吐したのは、抑制剤と避妊薬を両方飲んだ過剰摂取だったのだ。 抑制剤を飲まないヒートは、高村さんと体の相性が良過ぎることもありずっと頭も体もドロドロの状態のままだった。最中ならどんな痴態も取るし、痛いのも構わなくなる。 だがそれも正気に戻ったあとは辛かった。血だらけの爪は痛いし、ひっきりなしの嬌声もアクロバットな体位も、懇願する自分の声も思い出したら死にたくなる。 中でもそれを見て嘲笑する高村さんの目が何よりも心をえぐった。 好きになりたい。優しくして欲しい。
番
(
つがい
)
である本能がそう願っているのに、情けない姿を見られて嗤われて、心が暗い深淵に沈んでいく。 痛みと行動がコントロール出来なくなる恐怖、そして高村さんの蔑む視線が辛く、僕はすっかりヒートがくるのが怖くなっていた。 ヒートの最中に皮の首輪を外そうとノドを掻き毟るから、毎回僕の手は血だらけになった。 高村さんに「俺が虐めてるみたいだからやめろ」と言われるけど、無意識でやっているので止まらない。だから高村さんが悪いわけじゃないのだが、周りのみんなは傷がついた僕の指と首を見て高村さんを非難するが、面と向かっては 口に出来ない。こちらがβとΩだからという訳じゃなく、αは一般的に、
番
(
つがい
)
に対する執着心と独占欲が凄まじいからだ。ましてや、ヒート中は本能がむき出しになるのでやり過ぎることもある。へたに口を挟むと拗れることが多く、滅多なことでなければ他人は干渉しない。 でも藤代先輩は高村さんに怒鳴りに行こうとしてくれた。 見たこともない怖い顔をして、怒りのオーラで周りを圧倒し、クルリと背を向け高村さんの所へ向かおうとした。僕も威圧されていたけど、ハッと我に返って慌てて先輩の腕を掴んだ。 「ダメ、駄目です!」 「どうして!」 両手で腕を掴み、必死で首を振った。 文句を言いに行ったら、先輩が悪者になる。優しい先輩を巻き込むのだけは絶対に嫌だった。怒った顔の先輩を泣きそうな顔で見つめていたら、彼は何かを耐える顔をした。 「君は…」 何かを言いかけたけど、そのまま目を閉じ、フーッ、とゆっくり大きく息を吐いた。短い沈黙が、まるで時が止まったみたいだった。 静かに目を開けた時には、威圧するオーラは霧散して、いつもの優しい先輩だった。 「分かった。でも我慢強いことは必ずしも美徳ではないよ。周りの皆んなも心配する。何かあったら必ず言って、助けを求めなさい」 「…はい。ありがとうございます」 「じゃあ携帯を出して。僕の番号も登録しておくから」 「えっ、いえ、それは」 僕がまごまごしていると、先輩は僕のカバンからサッと携帯を取り出し、ササッと登録をしてしまった。早技。Ωの僕なんかが殿上人の先輩の番号を知ってしまっていいのだろうか。 「僕でも友達でも誰でもいい。迷惑なんて考えなくていい、助けられない方がつらい。いいね、困ったらすぐに連絡をするんだよ」 「どうして…」 どうしてそこまでしてくれるんですか。僕はあなたに何も返せないのに。 「大切だからだよ。君に痛かったりつらかったりしてほしくない」 「
――
」 運命の相手にさえ蔑ろにされているみすぼらしいΩなのに。後輩というだけで、ここまで言ってくれるなんて。 心配をかけてごめんなさい。そして、僕なんかのために、あんなに怒ってくれてありがとうございます。
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咲房
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