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第9話 魔法使い

近頃よく藤代先輩と遭遇する。その度に 「やあ、奇遇だね」 って言われるけど、いつも人に囲まれてる先輩が一人なんてありえない。本当はわざわざ抜けて来てくれてるんだと思う。心配して、様子を見に来てくれてるんだ。 「日野くんはまだ小さいねえ」 そう言って毎回お菓子をくれる。子供扱いされてる。 「僕、成長期過ぎました。これ以上大きくなりませんよ」 「そうなの?諦めたらそこで止まっちゃうよ?僕的には頭なでやすくて良いけどね」 「イタダキマス」 毎回だいたいそんな軽い話をしていた。 でも今日は本当に偶然だったらしい。構内で角を曲がったら、先輩のいる集団と出会(でくわ)した。 「あっ、日野くん」 「先輩。こんにちは」 挨拶をして通り過ぎようとしたら、先輩は集団から抜けて、追いかけてきてくれた。 「よかったんですか?」 「うん。僕も息抜きしたかったから」 先輩でも集団が息苦しい時があるのか。そういえば、会うときは大抵二人だ。僕が集団が苦手なのを分かってるのだろう。優秀なαだから分かるのかな?先輩には何でも見透かされていそうで、たまに怖いことがある。 その先輩は今日は少しそわそわしていた。さりげにカバンを覗いたりポケットに手を入れたりしている。偶然会ったからお菓子の仕込みがないのかな。右の尻ポケット、左の尻ポケットと順に叩いていき、左胸ポケットを叩いた時、 パキッ と小さな音がした。先輩は軽く目を見開いて中を覗き込み、 「しまった。魔法のポケットを叩いたからクッキーが2枚に増えたよ」 と、どこかの童謡のようなことを言った。 「だから一枚ずつね」 そう言って半月型になったクッキーを僕に渡し、もう一つの半月型を自分の口に放り込んだ。 「僕は魔法使いだからね。魔法のポケットを持ってるんだ」 「先輩が魔法使い?」 僕はくすくす笑った。 「そう。優秀なんだよ。何でも望みをかなえてあげる。君は魔法の鏡に向かってただ呪文を唱えるだけ」 そう言って携帯を取り出した。 「これが魔法の鏡?」 「白雪姫のまま母もコレでしゃべってた」 小さい!先輩、まま母は顔が見れないですよ? 「じゃあ呪文の言葉は」 「「ビビディ・バビディ・ブゥ」」 二人で声を揃えた。 ぷーっ、あはははは。 先輩なら本当に魔法を使えそうだ。

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