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第10話 自己評価
「前から思ってたけど、日野はさ、自己評価が低いよな」
同じゼミで、友達の田中くんがそう言った。
「そりゃあ、少し痩せててモブ感があるからΩには見えないけど、あの藤代さんと仲良くしてるんだぜ、もっと自信持てよ」
「それは先輩が僕を後輩だと思ってるからだよ」
「先輩、ねえ。言っとくけど俺だってお前と同じ酒井ゼミだからな。でも呼ばせてもらえない。他の酒井ゼミ生も、だ。多分、藤代さんのゼミでも呼んでる人は居ないと思うぜ。お前だけが許されてるんだ」
「そう、かな…」
「そうだよ。それにここ酒井ゼミは人気があるから倍率が高かった。選考されるだけの論文を書いたんだから俺たち頭良いんだよ」
「田中くんと一緒で?」
「そう、俺と一緒で」
ドヤ顔でおどける田中くんと笑う。
「顔はΩとして見れば地味だけど、Ωと考えなければ可愛らしい部類だぞ。それなのに僕なんかがっていつも一歩引くんだよな。なんでそんなに自分に自信がないのさ。もっと先輩に甘えに行けば?」
「あのキラキラ集団の中に?無理無理。はあ?って顔されてポイされちゃう」
「うっ、確かにあそこは俺も無理」
「先輩の周りにはαとΩのあんなに綺麗な人達がいるんだ、少し可愛がってもらってるからって、真に受けて調子に乗りたくない。近くに行って笑われたくないんだ」
「そっか。日野が甘えたら先輩も嬉しいと思うんだけどな」
そんなことないよ、迷惑だよ。もしそうだったら、そうだったならば僕も凄く嬉しい。
僕には兄さんと姉さんがいる。二人ともαとΩの個性がよく出てて、αの兄さんは成績優秀でスポーツ万能、Ωの姉さんはロングのウェーブがよく似合う艶やかな美人だ。
小さい頃、僕は体が平均よりひとまわり小さく、家族みんなが成長を心配していた。おかげで兄さんと姉さんは僕に過保護で、友達と遊ぶ時も僕を一緒に連れ回した。二人の小さい時は天使のように可愛らしく、友達も多かった。友達は僕にも優しかったから、僕も懐いて小さな我が儘なども言って甘えてた。
ある日、小学生の時に、部屋でみんなで遊んでる最中に僕がうたた寝をした事があった。しばらくすると、兄さんと姉さんは母さんに呼ばれて部屋を出て行き、残った兄さん姉さんの友達は対戦ゲームで遊んでいた。彼らのおしゃべりを、僕はうつらうつらと聞いていた。
「……でさ、…で、……。…日野くん達いないのに何で俺たちがこいつの面倒見なきゃいけないんだよ」
(あれ?僕の事言ってる?)
意識が浮上してきた。
「いつもいつも付いて来てさ、邪魔ばっか。いい加減気付いてどっか行けよな」
「こいつも日野くん達みたいに綺麗なら喜んで世話するけどな。Ωのくせにブサイク。家族の中でこいつだけがハズレ」
「足遅いしガリガリだし。βでこいつより可愛い奴いっぱいいるし」
「ははは。本当。でもうっかり洩らすなよ。日野くん達怒ったら怖いからな」
「言わねーよ。こいつの面倒みれば日野くん機嫌がいいもん」
バタン
「みんなー。母さんがケーキを作ってくれたんだ。分けて食べよう。晶馬はまだ寝てる?」
「あ、日野くんおかえりなさーい。晶馬くん可愛い顔で熟睡してますよ。うわー、美味しそう!日野くんのお母さんってケーキ作れるんだ。凄いねー!」
「晶馬くん起きて。お母さんがケーキ作ってくれたってよ。美味しそうだよ」
子供心に衝撃だった。僕に優しく接してくれてたのは嘘だった。僕は兄さんと姉さんのおまけとして構ってもらっていたのだ。その時、自分が他人からどう見られているかを知った。家族はみんな僕に甘くて、僕は自分を普通だと思っていたが、本当はβにも劣る粗悪品だったのだ。それなのに図々しく居て、当たり前みたいにわがまま言ってた。煙たがられてることも知らないで。
それ以降、兄さん達の友達が遊びに来ている時は部屋で一人で遊ぶようになった。
αとΩの集団は僕とはかけ離れた存在となった。
彼らと先輩は違う、優しさが本物だって分かってる。純粋に僕を可愛がってくれて、心配してくれてる。
でも勘違いしてはいけない。後輩だから優しくしてもらってるんだ。僕は出来損ないΩだから、立場を弁えなきゃ。自惚れちゃ、駄目だ。
先輩をこれ以上好きになっちゃ、駄目だ。
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