15 / 92

第15話 〈 side.藤代 〉ビビディ バビディ ブゥ~僕でいい?

〈 side. 藤代 〉 時は少し遡る―― 日野くんは日に日に傷が増えていった。 我慢をしてしまう子だから、今まで幾重にも幾重にも、助けを求めやすいよう細工をしてきた。助けを求めろとも言ったし、魔法の鏡も魔法の子馬も用意した。君が笑うならピエロにもなったし、助けられるなら魔法使いにもなれる。 だから晶馬、早く、早く僕を呼んで! 僕は君を助けたいんだ。でも君が求めてくれないと助けに行けない。僕が行ってその場限りで助けても何の解決も出来ない。運命の鎖はそんなことじゃ切れやしない。鎖を切るには君の強い意志が必要なんだ。君が自分の意志で僕を呼んで、自分の意志で決断した、強い意志が欲しい! 僕は君の鎖を断ち切って、君の番になりたい。 運命なんかには、渡さない。 やっと日野くんから携帯が掛かってきた。 大変な事態になってないといいのだが。僕は緊張した気持ちを隠して通話ボタンを押した。 「はい、日野くん、どうしたの、何があった」 「………っ、」 何かを耐えるような無言が続く。ただならぬ事態が起こっているのか! 急に焦りが生まれた。日野くん、何とか言ってくれ! 「日野くん、日野くん!」 「………ううっ、うーっ、ひっく、ひっく。うっ、うっ」 「!」 「ひっく、ひっく」 「……晶馬」 押し殺せなかった嗚咽が止まらないようだ。彼の我慢は限界なのだ… なのに優しいこの子は僕を(おもんばか)って助けを呼べない。 僕の胸は彼を思って甘く、苦しく、切なくなった。 ――ああ、晶馬、もういいだろ?君は十分頑張ったよ。運命の相手との相性が悪いのは君のせいじゃない。もう、鎖を断ち切ろう。僕にはそれが出来る。君は僕に助けを求めて、僕を番と認めてくれるだけでいい。 「ねえ、呪文を覚えているかい?何でも望みが叶う呪文。君は唱えるだけでいい。ほら、唱えてごらん」  呪文。望みが叶う魔法の言葉。きみの魔法使いがやってきて願いを全て叶えるよ。   「晶馬。ほら」 「……ひっく、……ひっく、…………ビビディ…バビディ…ブゥ」 「いい子だ、晶馬。すぐに助けるよ!」 僕が急いで彼のもとへ行くと、彼は部屋の隅の隙間に小さく蹲っていた。部屋の惨状から彼がヒート状態を独りで耐えていたことを知る。タオルケットを被り、泣きながらガタガタ震える姿が可哀想でたまらない。なのにまだ我慢をする。 「せ、ん輩。ご、ごめんなさい。だいじょうぶ、僕だいじょうぶだから」 「どこが!出ておいで」 僕が手を伸ばしたのを壁側に後ずさってよける。 「駄目!汚れる!ぼく汚い」 彼は、タオルケットでベタついた手とお腹を風呂で体を洗うように拭いた。 それから首と胸を拭いた。それから今度はバスタオルではなく、直接手で二の腕と腿を。脇と手先を。それから引っ搔くようにまた首筋と腹を。 ――まずい!これは危険だ! そしてまた引っ掻くように… 「駄目だ、日野くん、止めろ、日野くん、晶馬!…晶馬!!」  ハッ! 「あ…」 彼は自分が何をしていたのか分かっていなかった。かなり危険な精神状態だったらしい。 もういい。堕そう。これ以上は待てない。 彼を上手く導いて、運命の番を否定して、僕を番だと認めさせる。 僕は彼を包み込むように、上からギュッと強く抱きしめた。そして彼の手を取ると、彼の顔の前で指をペロペロと舐め始めた。彼はそれを熱が上がってぼーっとした頭で眺めていた。 「先輩、汚い、汚れる」 「汚くないよ」  指が終わると手の平、それが終わると手の甲を。俯いた僕のまつげや蠢く舌に彼の視線を感じる。 「まだ汚い?」 「ううん、キレイになった」 僕が聞くと、どこか夢見た瞳で手にうっとりと頬ずりをした。本当に可愛らしい。 「さあ、出ておいで。全部綺麗にしてあげる。中も外も、頭のてっぺんからつま先まで。他は?何がしてほしい?」 僕は抱き抱えるようにベッドに誘った。そして頭のてっぺんと頬にキスをして涙の跡を舌でぬぐい、さっきと反対の手を舐め始めた。 「痛い?苦しい?何をしてほしい?ほら、言ってごらん」 さあ。ほら。 「熱い。出したい。でない。触ってもでない。苦しい。せんぱい、せんぱいぃ」 ふぇ。また涙が盛り上がってきた。 「いきたい。出したいよぅ、ううっ、ヒック。うぅ。」 「分かった。イきたいんだね。でも中に出されないとイけないでしょ。どうする?高村さん呼ぶ?」 呼ぶ気は更々ないが否定させるために敢えて口にする。 「やだあ。高むらさんとするのやだ。こわい。やだ。やだぁ」 ふぇえ。えっ、えっ。ヒック。 本当はいつも怖かった。平気、平気って思ってきたけどもうしたくない。こわい。 小さな声が呟いていたので そう。と小さく頷いた。 良かった。ずっと思っていたのだろう。彼はすぐに自分から彼を否定した。 「泣かないで、晶馬。じゃあどうする?僕が抱くかい?僕でいい?」 「せんぱいが?ぼくを?いいの?汚いよ、いいの?」 「汚くなんかない。でも僕は運命の番じゃないよ。君の体は受け付けないからこじ開けなきゃいけない。痛いよ。それでも僕がいいの?」 「痛くてもいい。せんぱいがいい。せんぱいじゃなきゃダメ。誰もダメ。せん輩じゃなきゃやだぁ」 「あぁ。可愛い。僕の晶馬。君は僕だけの晶馬?」 「うん。先ぱいだけのぼく。」 「じゃあ、高村さんやめて、僕の番になってくれる?首、噛んでもいい?大事にするから、お願い、噛ませて」 「うん。うん、うん。なる。せんぱいのつがいになる。かんでぇ。くび、かんで。」 「痛くても我慢出来る?」 「せんぱいがしてくれるならいたくてもぼくがまんできるよ。」 「痛くても途中で止めないよ。いい?」 「いい。せんぱいのになるならぼくいたくてもいい。つがいにして。せんぱい。ぼく、つがいになりたい。おねがい」 なんていい子なんだ。誘導したとはいえ、こんなに一途でかわいらしい子は見たことがない。よく出来ました、って言って唇にちょんとキスをしたら、ちょっとビックリして初めてチュウしたって笑った。 あんなに奴に犯され続けてたというのに、全く擦れてない。全く清らかな体とこころ。 「分かった。晶馬、君を私の(つがい)にする。君の鎖を断ち切るよ」

ともだちにシェアしよう!