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第16話 〈 side.藤代 〉運命の鎖~私の番
〈 side.藤代 運命の鎖~私の番 〉
仰向けに寝かせた彼をギュッと抱きしめ、顔中にキスをした。体を抱き込み、後頭部を撫でる。熱が高く朦朧としているようだが、熱い体で嬉しそうにクスクス笑っている。忍び笑いが可愛らしい。
「ふふふ。せんぱい、くすぐったい」
「ふふ。くすぐったいの?晶馬、可愛い」
「ぼくかわいくないよ。ぶさいくだよ。できそこないなんだって」
出来損ない。
彼の兄姉は美しいαとΩだと聞く。恐らく幼少時代に彼らの取り巻きに言われた言葉だろう。彼らは、家族といえど自分より格下と思う者が大切にされていることに嫉妬したのだ。
ただのやっかみに傷ついた幼少の彼を思って心が痛くなった。
「せんぱいもきれいなひとがいい?ぼくいや?」
「晶馬は不細工じゃないよ。凄く可愛い。ああ、どうしてこんなに可愛いんだろう。僕の晶馬が一番可愛い。晶馬、僕の晶馬、可愛い。大好き。愛してる」
そう言った時の彼の顔といったら!
ビックリした顔をしてキラキラと目を輝かせて勢いこんで聞いてきた。
「せんぱいぼくのことすきなの?ほんと?ほんとにほんと?どのくらいすき?ちょびっとすき?いっぱいすき?」
「ふふふ。ビックリし過ぎてお目目が落ちそうだよ?好きだから番 にしたいんだ。そうだね、晶馬が僕のこと好きなのよりいっぱい好き」
「!!ぼくのすきはすごくいっぱいだよ?それよりもいっぱいってすごくすごくいっぱいだよ」
「そんなにいっぱい僕のこと好きなの?ふふ、嬉しい。でも絶対晶馬の好きよりいっぱいだよ。僕は頑固なんだ、これだけは譲れないな」
思いもかけず彼からの告白を受ける。好意は持ってくれてると思っていたが、かなり慕われていたようだ。
こんなことなら成長を見守らず、高村くんに会う前に番 にしとけば良かった。
苦い後悔が胸に広がった。
さて、彼の体はどこまで僕を受け入れてくれるだろうか。
頭を支えていた指をうなじから肩甲骨を辿って背中に下ろすと、彼は軽くのけぞった。唇であごを食みながら下り、舌先で乳首をペロリとひと舐めした。
ゾワリ
「?」
違和感を感じたらしい。ブルリと彼が身震いした。快感だといいのだが多分違う。
彼の熱く張り詰めた陰茎をそっと握ってみる。
「きゃっ」
驚いて手を払いのけられてしまった。やはり羞恥からではない、体が拒絶している。
「??」
「……。晶馬、この軟膏を使うね。鎮痛作用と筋弛緩作用の成分が入ってる。だから切れないとは思うけど、それでも体は拒絶反応で激痛がする。ごめん」
予め持ってきた薬のふたを開けて、中身を彼に見せた。それを人差し指と中指にたっぷりすくい、彼の分身と後ろの穴にたっぷりと塗り込めようとした。でもさっきまで欲しい欲しいと収縮を繰り返していた後ろはしっかりと閉じていて、まるで“おまえじゃない”と言わんばかりに緩まない。
「どうして?なんで?ぼくのからだへん。せんぱいぃ。」
「泣かないで。君が悪いんじゃないよ。できるだけそっとするからね」
そう言って襞の周りに優しく薬を塗っていた中指をツプリと差し入れた。
「うわあぁぁ」
軟膏を塗ったにも拘らず、強い締め付けを感じる。彼は体中に鳥肌を立て、ガタガタ震えてのけ反った。思ったよりも拒絶反応が酷い。手早く行ったほうがよさそうだ。
そのままぐりぐりと中をかき回し、抜き差しを繰り返して中指も揃えて入れた。
その頃には僕の胸を手で押し返し、違うと首を振るようになり、三本目が入るころにはパニックになっていて、違う、駄目、嫌を繰り返していた。
三本をバラバラに動かして広げ、ある程度ほぐしてそっと抜くと、彼はホッとして力を抜いた。その瞬間を見計らって一気に剛直を突き入れた。
「っぎ、いああぁぁぁあ!!!」
激痛から上に逃げようとしたが、体をがっちりと抑え逃がさない。そのままめりめりと侵入させる。
「いた、いたいぃぃ。だめ、ちがう、だめなの、たすけて、だれかぁ」
腕を突っ張り、かかとを蹴り、足をばたつかせて抵抗されるけど、さらに深く押し入った。彼は泣きじゃくって抵抗している。体を捻り、逃げの体勢をとって必死に助けを求めている。
「いや、いや!だめ!いたい!だれか、だれかぁ!たすけて、たすけて!!」
「――誰を呼んでいる?」
すべての階級を支配する圧倒的支配者、上位種のαの声で問う。
「晶馬、誰に助けて欲しい?お前が求める者は誰だ」
さあ答えよ、お前が真に求める者は誰だ、お前自身がお前の番 と認める者は一体誰だ!
「……んぱい、せんぱい、せんぱい!たすけてせんぱい!せんぱい!!」
「晶馬、こっちを見なさい」
あごを掴んで背けていた顔を振り向かせた。
「あ…」
「君を抱いてるのは私だよ」
「あ…せんぱい…せんぱい」
彼はパニックになっていて、誰に何をされているのか分からなくなっていた。抱いているのが私だと分かると安心して、それから泣き笑いの顔になった。
この顔が答えだ。
晶馬は私を求めた。そして私を番と認めたのだ。私と彼の間は番 の鎖で繋がれた!
「もうお前は私のものだよ。誰にも渡さない。たとえそれが運命だろうとね」
私はそのまま数度揺さぶり最後にグッと腰を推し進め、深いところで吐精した。それと同時に首筋に血が出るほど深く噛みついた。
その瞬間、彼は大きく痙攣し、そのまま糸の切れた人形のように脱力した。
――そのまま、彼の心臓は停止した。
やはりな。
彼の体は番 でない者の精子を異物としてとらえ、アナフィラキシーショックを起こしたのだ。運命はどうしてもこの子を手放したくないらしい。
だがこれは私の番 だ。お前の獲物ではない。
中から自身を取り出し、すぐに心臓マッサージを始めた。
「晶馬、戻ってこい。お前の番 が呼んでいるぞ」
αの中でもトップ、上位種の命令だ。聞かないわけにはいくまい?
「晶馬、番 の私をおいて逝くことは許さない」
お前の胎内にあるソレは異物ではない、番 の子種だ。お前が産む私の子供の種、愛された証だ。
今、彼の中では、奈落の底に引き込もうとする運命の鎖と、上に引き上げようとする番 の鎖で綱引きになっている。
しかし上位種の私との番 の鎖は、運命よりも硬くて強い!
「さあ、戻ってこい!!」
パキーン…
晶馬の口に何度目かの人工呼吸を行った時、ふいに脳裏に鎖が切れたイメージが広がった。
晶馬のまぶたがピクリと動き、大きく息を吐きだした。文字通り、息を吹き返したのだ。
「あ…先輩…」
おかえり、晶馬。
私の番 。
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