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第17話 私の番
夢を見ていた。
暗く深い水の底に沈んでいく夢だ。浮き上がりたいのに足に鎖が絡まって重い。取ろうとしても取れず、それどころか引っ張られて沈んでいく。
「だれか…」
ゴポポポ…
助けを呼ぶ声は気泡となり遥か上方へと昇っていった。焦ってもがいても水面 は穏やかに揺れるばかりだった。
「だれか助けて…先輩…先輩…」
ゴポポ…ゴポポポ…
――戻ってこい……が…呼んでいるぞ…
ふいに何か聞こえた。あれは…先輩の声だ…
――晶馬、番 の私を……逝くことは許さない…
先輩が僕を呼んでる。
帰らなくては。
先輩が。僕の番 が、呼んでいる…
パキーン…
急に鎖が取れ、体が軽くなり、急浮上していった。水面 は光り輝いて眩しい。その向こうに夜の獣のように瞳が光っている先輩が見えた。
水面から顔を出し、大きく呼吸したところで、
意識が戻った。
「あ…先輩…」
最初に見えたのは上から覗き込む、すこし汗をかいた先輩の顔だった。
「ふふ。おはよう」
「?おはようございます?」
あれ?
僕何してたっけ?
え?
何で僕裸?
え?何で先輩も裸?
え?え?ちょっと待って、何?
どうなってんのこれ?
僕が訳が分からずアワアワしていたら、先輩がドサッと隣に寝転んだ。
「疲れた。慣れないことはするもんじゃないね」
「え?」
「命令なんて柄じゃないんだ」
「?」
「ふふふ。日野くんが番 になってくれて良かったなって話」
「えっ!?」
番?先輩の番 !?それどういうこと!?
「覚えてないの?僕、日野くんに番 になってってお願いしたよ。大事にするから首噛ませてって」
先輩が悲しそうな顔で言った。
え!?何?
待って、思い出すからちょっと待ってー!!
えっと、僕ヒートが始まってしまって苦しくて先輩を呼んで、…そうだ呼んでしまったんだ…で、出せない苦しいって言ったら先輩が抱いてくれるって言っ、だ、だいっ、
わー!!
なんてことを!!!
思い出して恥ずかしくなり、僕は両手で顔を覆い、横を向いて先輩から顔を隠した。
そ、それからどうしたんだっけ、えっと、
先輩じゃなきゃ嫌だと言って、先輩だけの僕って言って、首噛んでって言って、先輩の番 になりたいって、番 にしてって、
番 にしてって…
言ってるー!!!
僕なに言ってくれちゃってんのー!!!
いや違う、あれって夢でしょ、先輩がそんな都合の良いこと言う訳ないじゃん。
ふわふわなってて夢を見てたんだよ。そうだ、夢と現実がごっちゃになってるだけだよ。そうだよそうだよ
「ねえ、晶馬」
!
先輩が僕を 晶馬 って呼んだ…
「腰、大丈夫?無理やりこじ開けたから痛くない?」
ギギギ…
油の切れたロボットの動きで先輩を振り返る。
イマ、ナント オッシャイマシタ?
アレハ ユメデショ、ソウデショ?
先輩は更ににっこり笑って、
「あ、子種も勿体ないけど出しとこうか。まだするけどお腹タプタプになったら大変だものね」
いやあぁぁぁぁ夢じゃないー!!
しかも何か怖いこと言ったー!!!
「プーッ、あーっはっはっは。可愛い、日野くん。ほんっと可愛いー!」
先輩はいきなり僕をぎゅうぅっと抱きしめてきた。僕は涙目で先輩を見上げた。
「良かった。憶えてるみたいだね。痛かっただろう?ごめんね」
「そんな、とんでもない。僕なんかの相手をしてくれてありがとうございます」
「こら、僕なんかって言っちゃ駄目。いくら君自身でも、僕の大事な人を貶める言い方は許さないよ。君は僕の宝物なんだから」
「僕が先輩の宝…」
「そうだよ。僕の大事な番 。My sweet honey」
うわー、気障 だー!
僕は真っ赤になって先輩の懐に飛び込み顔を隠した。心臓がバクバク言ってる。
何なのこの人何なのー!
先輩は抱きしめたまま、頭にチュッとキスをしてくれた。
「あ…先輩、でも…」
「高村くんのこと?彼との鎖は切れたよ。君も自由になれたけど、彼ももう運命に振り回されなくていいんだ。好きな女の子を選べるんだよ。彼も良かったね」
「そうか…そうなんだ。僕、高村さんに僕が相手で悪かったなって思ってたんです。そっか、良かった。先輩、鎖を切ってくださってありがとうございました」
「ううん、頑張ったのは日野くんだよ。よく耐えたね。そして僕を呼んでくれてありがとう」
「先輩…。先輩、先輩、僕、…」
ぐわっと思いが溢れて言葉にならなかった。
先輩が助けてくれなかったら僕はまだ苦しんでいた。凄く感謝している。そして先輩の与えてくれる大きな愛に包まれていることも知った。こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。僕は、僕は、僕は…。思いが溢れて、
「ぼく、好きです、先輩。あなたが大好きです。好きなんです。…僕を番 にして下さい」
また告白をしてしまった。
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