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第20話 激昂
高村さんとの《運命の番 》の鎖が切れたことを彼に報告に行かなければならない。彼女さんもいることだし、喜んでくれるにきまってる。早く教えてあげなくっちゃ。
先輩と二人で彼がいるだろう大学の構内のカフェテラスに足を運んだ。高村さんはそこで彼女さんらしき女性を含む数人とのんびり喋って寛いでいた。
「高村さん」
僕が声を掛けると彼はあちゃ、という顔をして捲し立てた。
「よう。お前、ヒート無事終わったみたいだな。行けなくて悪かったよ。いやあ、佳苗ちゃんが急にヒートに入っちゃって、俺も参ったよ。ま、お互い無事乗り切れてヨカッタヨカッタ」
早口で言って僕の背中をパンパン叩いた。
「ええ、本当です。お陰で僕達、李玖 先輩に鎖を切ってもらえましたよ。今日はその報告に来たんです」
そう言うと彼はポカンとした顔を見せた。
「は?何言ってんだ、お前。鎖がそんな簡単に切れるはずがないだろ。なんだよ、俺が相手しなかったから脅かしてんの?いいよ、そんな嘘つかなくても今度はちゃんと行くよ」
「いえ、そうではなくて本当に」
「なに、藤代さんに助けてもらったの? "李玖先輩" だなんて、随分仲良くなったな。おいまさか寝たんじゃないだろな。んな訳ねえか。運命のΩ は相手のα 以外は受け付けないもんな」
「え、ええと、その…」
"寝た" の言葉に顔が赤らむ。
「…は?何その反応。まるでホントにヤッてるみたいじゃん。藤代さんも何か言ってくださいよ。コイツ頭おかしくなったの?」
それまで僕の後ろで事の成り行きを静かに見守っていた先輩が口を開いた。
「高村くん、晶馬くんはもう僕の番なんだ。貶めるようなことは言わないでもらおうか」
「はあ!?藤代さんまで何言ってるんすか、こいつは俺のモノ。望もうと望むまいと運命でそう決まってんすよ。だから俺もしょうがなく抱いてるの。変なこと言わないでくださいよ」
「だったら良かったじゃないか。僕が君たちの鎖を断ち切ったから、もう君は自由だ。好きな彼女と添い遂げなよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。おい、お前も何とか言え!ちょっとこっち来い」
「わわっ」
パンッ
僕が引っ張られてよろけると、先輩は高村さんの手を叩き落とし、僕を引っ張り戻した。
戻った拍子に李玖先輩に抱き込まれる形になった。恥ずかしくて頬が熱くなった。
「お前…何だよその顔は!それに…何でお前の匂いがしてこないんだよ!俺以外を咥えこんだのか、この淫乱!いいからこっちに来いって言ってんだよ!!」
「え、え?ええ?」
鎖が切れた事を高村さんは喜ぶと思っていたから、彼の激昂ぶりに戸惑った。怖い。
「晶馬」
すると李玖先輩が後ろから耳元に甘い声を囁きかけてきてゾクリとした。振り仰ぐと光を反射してる目が僕を捉えていた。
「彼は突然の事で混乱してるみたいだから、私が彼に説明するよ。大丈夫、君は少し休んでなさい。ヒート明けで寝不足だろ?少しゆっくり寝てなさい。
いいね。後は 全部 私に 任せて 何も 考えなくて いい。…分かった?」
「……ハイ。お願いします。少し、休む よ」
リクサン 二 マカセテ。ユックリ スル
急に眠気が襲ってきて、体が重くなった。
「…ねえ、李玖さん。少し…凭れ掛かってもいい?」
「おや、可愛い。ふふ、いいよ。しばらくゆっくりしてなさい」
「うん。重いでしょ、ごめんね。…李玖さん。りくさん。へへ、好きぃ…」
「僕もだよ」
「!あんた!!今そいつに何をした!俺のモンを勝手に弄るな!来い!日野!」
「高村」
ビクッ
静かに名を呼ばれただけなのに、高村の背をツゥ…と冷たいものが走った。
「私は、お前が私の伴侶の名を呼ぶことを許さないよ」
すうっと眠りに落ちた晶馬を確認し、藤代は冷徹な声で高村の動きを封じ込めた。
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