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第2話

 イサイはあの時、ナグロの問い掛けに答えようとしていた。しかし、自分が何を言おうとしていたのかは覚えていない。声が言葉になる前に、ナグロの熱く硬い唇がイサイの思いを拭い去っていた。ナグロは唇を重ね合わせたまま、イサイの口の中に悲しげな声を響かせていた。 「私は生れ落ちた時より穢れている」  生きる為に剣を取り、血反吐を吐く程に酷使した手のひらは、大きく分厚い。そこにイサイの喜びの露を受け、自らの喜びにこすりつけながら、囁き続けていた。 「その穢れによりて、あなたをも穢した。憎まれて当然。だが、やめることは出来ない」 「な……なにを……っ」  屈する痛みは余りに甘美で、辱めの枷(かせ)に甘んじようとする体の渇望に喘ぎ声が漏れた。イサイを愛撫するナグロの動きは滑らかで悩ましく、淫らさを緩やかな動きに押し隠し、得も言われぬ喜びをイサイにもたらした。  ナグロは剣の使い手、下級の出でありながらもその腕を見込まれ、異例の待遇でイサイの指南役に選ばれた男だった。肩まで伸ばした漆黒の髪と同じ色の瞳に見詰められると、誰もが身を竦ませた。聳えるような巨体にも、脅威を感じさせていた。しかし、ひとたび剣を振るうと、隆々とした筋肉には神々しいまでの輝きが煌めいた。荒らぶる神を彷彿とさせ、畏敬の念を抱かせた。  天に向かって光が突き抜けるように、逞しい肉体が描き出す技の美しさにイサイは魅了されたが、イサイを凌辱する動きにも同じような美技を描くナグロに、イサイは烈々と乱れ、指先まで艶やかに色付いた。 「あと少し、あと少しで至福の時へと到達する、さすればこの身に罰が下されよう……」  そう囁くナグロの声は興奮に掠れていたが、どこかしら穏やかでもあった。 「あっ……あぁっ」  イサイはナグロの優雅な動きに煽られ、立ち上る汗の匂いに刺激された。欲求の痙攣が体を犯し、求めるものが唇を震わせ時、しなやかだったナグロの動きが一変し、野に放たれた獣さながらの荒々しさへと瞬時に変わった。  イサイは自らの泣き叫ぶ声を遠くに聞きながら、ナグロが手にする剣の如くに、天に向かって突き上げられた。白濁する意識がナグロの熱に満たされ、溢れ、それに濡れながらナグロと共に喜悦の深淵へと落ちて行った。

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