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第6話
「あなたは、その死と引き換えに私を生者に戻した……と?」
ナグロの苦渋に掠れた問い掛けに、イサイはそっと静かに頷いた。
「おまえは死をも恐れず、私を……」
今少し、時間が残されていると思い、逞しい胸に寄り掛かった。甲冑越しであっても、あの夜に求めた強い鼓動を聞き取り、ほっとしたと同時に、自らの最期が間近に迫っているのを知る。イサイは死神から僅かに与えられた別れの時を無駄には出来ないと、苦しい息に言葉を載せ、思いの丈をナグロに打ち明けた。
「おまえと……同じ……私も死を恐れはしない……」
息が詰まり、言葉を途切れさせるが、必死の思いで繋げて行く。
「なんとしても、伝えたかっ……た……」
イサイは顔を上げ、ナグロをもどかしげに見詰め、ナグロの唇に熱い息を吹き掛けた。
「愛して……いる」
それを最後に、微笑みながらナグロの腕の中で息絶えていた。
「イサイ?……イサイ!」
ナグロが何度呼び掛けても、イサイの瞳は閉じられたまま、命の輝きがそこに現れることはなかった。微笑みが残る唇に口づけても、熱い息を返されることはなかった。ナグロはイサイの瞳と同じ碧さを求めて、木々の隙間から覗き見える空を見上げた。
「何故だ、何故こんなことに……」
ナグロの思いを嘲るかのように、風が吹き、木々を揺らして碧空を隠す。森がナグロに空を望ませないことの意味が、ナグロにはわかっていた。それを理解した時、勇猛果敢な戦士の目に溢れる涙が頬を伝う。
「これが真の罰なのだな、我が身を焦がす思いを穢れしものと蔑み、イサイへの愛を死神に託したことへの……」
首を振り、イサイの美しい顔に滴り落ちる涙を払い、妖しく煌く死神の実へと視線をさ迷わせた。
「だが、次なる罰を恐れてなんとする」
ナグロはイサイの亡骸を胸に抱き、死神の実へと手を伸ばした。かつてイサイに語った伝説を、今また心の中で語り聞かせながら―――。
死神の実、それを食すると願いが叶う。
しかし、成就は死への扉を開くという……。
それでも人はその実を手にする。
死よりも欲する、ただ一つの願いの為に……。
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