2 / 59

序章 2

去年紡が初めて霧原に会った時――霧原は、優しかった……。本当に優しかったのだ。 事故でいきなり両親を亡くし、弟の守と途方に暮れていた紡を、霧原は支えて助けてくれた。 だから、霧原のところに弟とともに世話になると決まった時、紡はとても安心した――涙が出るほどに。 そうして紡は、自分にも何か霧原さんのためにできることがあればなんでもしよう、と心密かに決意したのだ。そのぐらい紡は霧原に感謝していたから―― しかし今、紡は霧原に、あの時の安堵の涙とは異なる種類の涙を流させられている。 紡は知らなかったのだ。霧原が本当は……何を紡に求めていたのか、という事を――霧原は紡の、純真な、彼に対する感謝の心など求めてはいなかった。 霧原はただ――完璧に自分の思い通りになる、生きた人形のような紡の肉体だけを欲していたのだった――

ともだちにシェアしよう!