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第4話

そのあと、守に小銭を渡してバスに乗せ、見送ってから、紡は世話になっている家へ戻り大事にしまっておいた霧原の名刺を取り出した――家を出て公衆電話を探し、そこから霧原の番号へかけた。 うちへ来るかいと言った霧原の言葉――彼はまだ覚えてくれているだろうか。 呼び出し音を聞いている間に紡はひどく不安になった――電話なんかしたら迷惑がられるのではないだろうか?霧原さんがああ言ってくれたあれは……ただの一時的な同情心からだったかも?あの時自分は小さい子供のように霧原に頼りきりだったから――気の毒に思って慰めてくれただけだったのかもしれない。 「もしもし」 霧原の声だ――ひどく懐かしく感じ、鼻の奥がつんとした。 「あ……霧原さん、ですか。あの、俺、以前お世話になった本弭(もとはず)の……」 息子です、と言う前に霧原は 「紡君かい!?」 と言った。覚えててくれた……紡はホッとしながら答えた。 「はい……そうです。あの……」 「心配してたんだよ」 霧原が言う。 「様子を見に行こうかと思っていた所なんだ……就職、上手く行ったかい?弟さんは?元気?」 「はい……元気、です……今俺、工()で……働いてます……あの……」 心配してくれていた?自分たちを?紡は胸が一杯になった。 「あの……霧原さ……俺……」 霧原さんの言ったとおりだった、仕事はしてるが忙しいだけでろくに稼げない。弟は引き離された先で辛い目に遭って泣きながら会いに来た。一緒にいてやりたいのに……そう話そうと思うが声が出てこない。 「何かあったんだね?」 霧原は察したようでそう言った。 「今どこにいる?これから行くから――そこで待てるかい?」 「え、でも……」 「大丈夫。今も同じ町にいるんだよね?車だからそう時間はかからないよ」 居場所を伝えて受話器を置き、言われた通りに紡がその場で待っていると、やがてボディが鏡のように美しく磨き上げられた車が現れ、紡の前で停まった。霧原が運転席から降りてきて突っ立っていた紡に駆け寄り、肩を抱くようにして助手席に乗せた。

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