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第12話

之彦と瀬島は、資産と権力、裏では政界との繋がりも持つ、ある古い家柄の一族の出身だ。 之彦は本家の人間だが、瀬島はいわゆる妾腹の子なので一族の中では浮いた立場だった。だが之彦は、瀬島の生まれがどうとかそういった事を気にする性質ではなく、同い年で住居が近かったせいもあり、幼い頃から二人は兄弟のように育って悪いことも含めなんでもつるんでやってきた。 之彦が一緒だと、問題を起こしても家が握りつぶしてしまって表沙汰にはならなかったので、二人の行為はエスカレートし、喧嘩で相手に怪我をさせる程度の事は日常茶飯事だった。今思えば――自分と之彦が起こした厄介ごとの尻拭いを、妾である母親とその子供の自分を蔑んでいた一族の中の人間らに押し付ける事で――復讐したかったのかもしれない。 しかし四十も間近になる今の瀬島には、裕福な一族の後ろ盾を邪魔に思うような青臭い気持ちはもう無く――利用できるものは利用すべきという考え方に変わっていた。 現在は、一族が出資する商売のひとつである金貸し業の経営を任されている。その仕事が性に合い、面白くもあったため、瀬島の、自身の出自を恨む感情は解消されていた。 ――之彦のヤツは両刀だが、初心な同性をいたぶるのを一番の趣味にしてて、俺をそれにつきあわすのが好きだ。あいつに比べて面構えが悪くてガタイの良い俺が参加すると、相手が本気で怯えるから面白いのだそうだ――勝手なことを。まあ付き合ってやってた俺も俺だけど…… 昔の俺は、周囲の色んな事が気に入らなくてかなり荒れてた上に、好奇心も強かったし、之彦が連れてくる男は大概美形だったから、そういういかにも女にモテて、ちやほやされるのが当たり前と思い込んでるタイプを手荒く扱って、自分に屈服させるのが楽しくなかったと言ったら嘘になる。しかしああいうのはどうも……後味が悪くていけねえ。 之彦も――サドっ気の強いところを除けば面白いやつなんだがなあ。瀬島は短くなった煙草を灰皿で揉み消しながら思った。霧原の所にいるという少年――あまりひどい目にあわされなきゃいいのだが――

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