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第32話

紡の部屋に霧原が入ってきた。 「今日は守くん、友達と映画だって?」 霧原が言う。 「二人きりだから、今日はここでも声が出せるね」 紡は何も言わず、俯いてデスクチェアに腰掛けていた。 「これから映像を撮ろう」 霧原は言い、紡に自分のスマートフォンを出すように言いつけた。 紡が霧原に買い与えてもらった電話を持ってくると 「それで――君がオナニーしている所を撮影するんだ。自撮りでね……」 了解した紡は頷いてベッドに横たわると、履いていた部屋着を押し下げて局部を露出させ、そこに片手を添え、もう一方の手でスマホを握った。 「している最中――今から僕が言う通りのことを繰り返すんだ。いいね?」 そうして紡に、台詞を教え込んだ―― 言いつけ通りにし終わってデスクチェアに戻った紡に、霧原がスマホの映像を再生してみせた。紡が自身を激しく(しご)き上げ、喘いでいる(さま)が記録されている ――ああ、霧原さん ――霧原さんにこういう風にしてほしい ――霧原さん、好き、俺を犯して 紡が言わされたのはそれらの言葉だった。紡は無表情で映像の中の自分の痴態を眺めていたが――突然、霧原の意図を悟って顔色を変え、隣で愉しげにスマホの画面を見せつけている彼の横顔を、目を見開いて凝視した。 「やっと気付いたね?」 霧原が微笑む。 「そう、この映像、今僕のスマホにも送信したよ――もし僕がこれを守くんに見せて――お兄さんが(よこしま)な気持ちを僕に抱いてこんな映像を送りつけてきた。そう伝えたら彼はどう思うかな?可哀想に、相当なショックを受けるに違いないだろうね」 血の気が引いて唇を震わせた紡に、霧原は刺すように言った。 「弟とこの家を出ようだなどと勝手な計画を立てるからだ。もしまだそんな大それた事を考えているのなら、これを守くんに見せなければならない。そうすればきっと守くんは、もう君を守りたいなどとは――考えなくなるだろうね」 何も言えないでいる紡に、霧原は命じた。 「椅子から降りて僕の足に接吻し――許しを乞いなさい」 言われた通り床に這いつくばって足に顔を近づけた紡の顎を、霧原は突然蹴り上げた。倒れた紡の頭を霧原は裸足の足でさらに踏みつけ、ぐいぐいと絨毯に押し付ける。彼がこんなに激昂したのを見るのが初めてだった紡は、怯えきって声も出せなかった。 「お前には失望した。これからはもっと厳しく躾けさせてもらう」 紡は動くこともできず、床に踏みつけられたままでいた――

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