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第33話

良かった、思ったほど腫れてない。 霧原が部屋から出ていった後、紡は洗面所へ行って顔を洗い、蹴られた箇所を確認した。霧原は相当激昂していたと思ったが、半分は紡を怯えさせるための演技だったのかもしれない。加減する余裕は残していたんだ…… 冷やしておけば弟が帰るまでにはましになるだろう。そう思って氷を取りに行った。 ビニールに入れてタオルで包んだ氷をまだ痛む顎に当て、紡は部屋へ戻りベッドに横たわった。 なぜあの人は、紡と守がこの部屋で話した内容を知っているんだろう――そう言えば、以前ヨシヒロが借してくれた雑誌をここで見た時もすぐに気づかれた。じゃあ――監視カメラやマイクがこの部屋には仕掛けられているのかも―― そのくらいの事はするだろう、あの霧原さんなら。紡は天井を眺めながらぼんやりとそう思った。でも、監視に気付いたところでそれを拒否することは自分にはできないんだから――勝手に見張りたいだけ見張ったらいい。 守、ごめん。せっかくお前がああ言ってくれたけど――やっぱ兄ちゃん、ここを出るのは無理そうだよ…… ――でも、それは別に構わないんだ……あんな映像を撮られて――撮られてなくても、霧原さんに好きに扱われて、俺の身体はとっくに――俺自身のものじゃなくなっちゃってるんだから。 守と二人だけで仲良く暮らしていきたいなんてもう思わない。あとは、せめて守が高校へ入って、卒業すれば――そのくらいの年になれば守はきっと独り立ちできるから――そしたら、俺がいなくなっても大丈夫だろう?兄ちゃん、その時まではここで頑張るからさ。 その時――その時まで耐えればいいんだ。 その時が来さえすれば ……安心して、死ねるから……

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