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第34話

紡はまた、例の成績上位の友人の家へ勉強会に招かれて電車に乗っていた。 霧原はそういう用事なら喜んで送り出してくれる――その友人は、血筋が良い、からだそうだ。確かに彼の家には立派なアンティーク家具や骨董品なんかが沢山あって、紡が訪問した時さんざん由来を聞かされた。興味はなかったし、別に羨ましいとも思わず、紡はただ感心したふりをして相槌を打っていた――あいつはそういう――家柄自慢みたいなことをやるのが好きなんだ。 普通の、対等の友達――そういう付き合いだったらただじっとおとなしく自慢話なんか聞く必要はないんだろう。だって実際あいつの先祖が偉かったかどうかなんてどうでもいいもん。ヨシヒロだったらきっとすぐ逃げ出す――だからあいつは、霧原を満足させるためにあいつの機嫌を損ねることのできない紡を呼ぶのだ。 紡に親がいなくて、霧原に引き取られていることをあいつも知っている。そのためか紡を子分のように思って侮ってるとこがあって、紡に対しては存分に威張れるから気持ちがいいのだろう。 駅について改札を出、友人宅方面へ向かうバスを待っていた時――ふとバカバカしくなって紡はバス停の列を離れた。友人には、風邪を引いたようで熱っぽいからうちへ帰ると電話を入れ、駅の周囲の、懐かしい感じのする路地へまた入り込んだ。 そこで紡は立ち止まり、財布の中から、話を聞いてくれたあの街金のおじさんの名刺を取り出して眺めた。 瀬島、(ごう)さん…… おじさん……瀬島さん、顔怖いけどすごく親切だったな、紡は温かい気持ちで彼を思い出した。あの時――突然具合が悪くなって、死んでしまうかと思うくらい苦しくて怖かったのを、おじさんが助けてくれた。それに、いつでも相談に来いって言ってくれて―― 困ったら、俺のとこに逃げてこい、とまで言ってくれた…… 会いに行っちゃおうか。 いつもの紡だったら、仕事中迷惑だろうと遠慮する。それにそもそもいつも通りだったら、友人との約束をドタキャンするなんて絶対しない――いいよね、いつも通りじゃなくたって。なんだか大胆な気分になった紡は、あの雑居ビルへと足を向けた。

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