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第38話

霧原は相変わらず紡に性的なことを様々要求した。そんな時紡は自身の心を切り離し、身体だけで、霧原の求め通りに機械のように反応を返した。それが上手くできさえすれば霧原は満足する。 瀬島と食事を共にしてから――紡は密かにもう一つの世界を手にしていた。霧原の知らない、紡が自分自身でいられて、自分の意志で行動できる世界。 霧原に身体を弄ばれている最中、紡は自分の心をその世界へ飛ばし、解き放つ。あそこが――本当の、紡がいる世界だ。 実際には、紡が瀬島に会える時間はほんの少しだった。長くなれば霧原に悟られてしまう。紡は瀬島のいる町に住む友人に誘われるのを理由にして出かけ、友人との勉強会を早めに切り上げて――英会話を習い始めたからと説明していた――帰りに瀬島の事務所に寄り、彼に会った。 瀬島は本当は忙しいのだろうに、紡が事務所に寄るといつも歓迎してくれた。そこは他にもあの入れ墨の大川が出入りしたり、一見チンピラみたいな使い走りや、真面目そうなごく普通の会社員に見える人々などが働いていて活気があった。 紡は、手が空いた時の彼らにトランプ遊び――カブというゲームだと大川は言っており、瀬島は紡がそれで遊ぶのをなぜかちょっと嫌がっていた――そのやり方を教わったり、出前をとってもらって一緒に食べたりして、皆に可愛がってもらった。そんな時間は本当に楽しくて――この世界さえあれば――辛いことを一切考えずにいられるその場所を時折訪れることができれば――弟が独り立ちできるその日まで、なんとか生きていられる、そう考えて自分を支えていた。 そうして紡はささやかな――本当にささやかな安息の地を得ていたのだが――しかし自分で気づかないうち、無理に分裂した心が蝕まれていたのだろう、ふとした拍子に自分がここに本当にはいないような感覚に襲われるようになり――それが度々起こって、勉強に集中するのを難しくさせ始めた。 まずい、と感じてはいたのに、どうにもならず、頭がうまく働かなくて紡の成績は徐々に下がり始めた――これじゃ駄目だ、気を引き締めないと。 霧原には絶対に知られないように守らねばならない、やっと得た大切な相手――おじさんとの、大切な世界を。

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