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第45話
「休むんじゃない。まだ終わっていないよ」
霧原が鋭く言った。
「今度は瀬島くんのお相手をしなさい」
紡は、横たわっていたベッドに両手をついてのろのろと上体を起こした。俯いて唇を噛む――こんなに――みじめな気持ちにさせられたのは初めてだった。せめて大声を上げて泣きわめければと思ったが、そんな事したって――おじさんは、紡がこういう事が好きな子だと――いつかマンションの一室で引き合わされた、あの見世物にされるのが好きな子と――同じなのだと考えているだろう。
「さて、瀬島くんはどういう風にするのが好みかな?この子には充分教えを施してあるのでね、かなりきつくても大丈夫だ。悦んで受け入れるよ」
「……そうですね……しゃぶってもらえればそれでいいかな」
暫く黙っていた瀬島が低い声で答えた。死刑宣告を受けたような思いがして――紡は一瞬、目を閉じた。
瀬島は座っていた椅子の脇の床に手にしていたコートを置くと、ベルトのバックルを外してスーツのスラックスの前を開けた。それから、紡に向かって猫の仔を呼ぶ時のように小さく下から手招きした。
紡は絶望感を覚えつつベッドから這い下り、瀬島の脚の間に跪いた。そうしてためらいながら――瀬島の男性器の先端を、口に含んだ。
おじさん……瀬島さん。
紡は心の中で彼に詫びた。
瀬島さん。俺が――こんな人間でごめんなさい。こんな事させて、ほんとにごめんなさい。嘘ついて、普通の子と思わせてて――ごめんなさい。
「もっとしっかり咥えなさい。やり方はよく知っているはずだよね?」
紡の心を見透かしたように霧原に言われ、思わずびくりとする。霧原は、紡がいかにこういう行為――男と寝るのに慣れているかを――瀬島に思い知らせようとしているのだ。そんな必要ない、紡は考えた。だって瀬島さんは――とっくに俺なんか見捨ててる。霧原さんが俺を追い詰める必要なんかない。もう瀬島さんに――心の中でだけでも――頼ることなんてできなくなっちゃったんだから。
消沈して霧原の言う通りに瀬島のモノを咥え直した紡の頭を、いきなり瀬島が両側からぐいと掴んだ。そうして――紡の頭を乱暴に前後に動かして、自身をしゃぶらせはじめた――
一瞬紡は、瀬島の性器で喉奥を容赦なく突かれ、息が詰まるのではという恐怖心を抱いて身を固くしたのだが――そんなことにはならなかった。瀬島は――腿の筋を使ってわずかに腰を浮かせて角度を調節し、紡の喉を塞がないようにしてくれている。乱暴に髪を掴んで紡の口を犯しているように見せかけながら、霧原にはわからないよう、紡の頭を支え、髪を優しく、愛おしげに撫でてくれている。
瀬島さん
紡は目を見開いた。この人は――きっと全て理解して、この場では霧原の思惑――紡が淫乱な事を好んで行うただの性処理の道具に成り果てていて、瀬島に紡をそういうモノとして扱わせること――それが上手く行ったのだと霧原に思い込ませ、紡をこれ以上辛い立場に追い込まないよう振る舞ってくれているのだ。
見捨てていないの?俺を?
突き落とされた崖の上から差し伸べられた彼の逞しい腕に、引き上げられ、救いあげられたような気持ちになって、紡は瀬島の股間に自ら夢中でむしゃぶりついた。これは――やらされてるんじゃない。やってあげたくてしているんだ。こんなに優しい人の――大切な肉体に、こうして触れていられるんだもの。
「ん……」
瀬島が小さく呻いた。紡は――わざと苦しげな表情をつくり、瀬島に強引にやられていると見せかけながら、自ら頭を動かして激しく口を使い、瀬島を追い詰めた。彼の――愛しい人のものが口の中で体積を増す――張り詰めた精が放たれた時、紡はためらわずそれを受け止め、飲み干した。終わっても暫く紡は、まだ瀬島に頭を押さえつけられているふりをして、彼のものを口に含んだまま舌でそっと愛撫し続けた。瀬島さん――ありがとう、愛してる――すごく。
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