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第47話

瀬島はその日以降ずっと、紡について考え込んでいた。 可哀想に、あれから紡は一度も遊びにこない――霧原にばれて……ここに来るのはもうできなくなってしまったんだろう。事務所の連中も、紡くんどうしたんでしょうねえ?などと言って心配し始めている。 霧原からされている事を本人が告発できればいいのだが、それがやれる状況ならとっくにしていたはずだ――紡はおそらく、弟が全てを知ってショックを受けてしまうことをなんとしてでも避けたいのだろう。だから今も……あんな扱いに耐えているのだ。 弟を守ろうとしている紡の努力を踏みにじって、俺が余計なおせっかいで霧原の所業を暴露する訳には行かない……そんな事をしたらきっと紡を傷つける…… なんとかしてやりたいのに…… ――だったらいっそ……霧原を……自殺に見せかけて…… いやいや、だめだ。あれだけ成功してて、人生全て我が世の春、みたいな奴がいきなり自殺はどうみても不自然だ。 事故はどうだ?交通事故。車に細工して……いや、難しいか。確実ではないし、細工がバレれば身近な人間が疑われる可能性がある――紡だ。霧原に厳しくされているのを周囲の人間も知っているから、最初に調べられる羽目になるだろう――しかし紡が追求されるリスクを避けるとなると、そこらで手軽に手に入るものを使って襲うのは、駄目だな。 瀬島は実家に伝わっている日本刀のことをちらりと思い浮かべた。多分まだ――蔵にしまわれている。本身の日本刀を高校生が手に入れて扱うのは難しいから、それなら紡もまず疑われまい。まずあれを取りに行って――それからどこか人目につかない場所へ霧原を呼び出して―― 後処理は大川に事情を話して頼めば、あいつも紡を可愛がっていたから協力してくれるかもしれない。それに大川を引き込めば発覚せずにすませられるかも……?いやそもそも、奴に一枚噛ませるんだったらチャカ世話してもらえば手っ取り早いじゃないか?しかしそこまで大川に借りを作ると後々面倒に―― と、急に電話が鳴りだしたので瀬島はややぎくりとして考えを中断した。画面を見ると、之彦からだった。 「オッス剛ちゃん。あれから、紡ちゃん来た?」 「……いや」 「だろうと思った……可哀想な事したよ……」 之彦は大きなため息を付いている。 「……おせえよ」 瀬島は弱々しく言い返したが、之彦を責めてもどうにもならない。元凶は霧原だ。 「わかってる。反省してるよ……僕だって後味悪くてしょうがないんだ……だから罪滅ぼしに、紡ちゃんを助ける方法真面目に考えてみたよ。で、一つ思いついた。成功するかはまあ神のみぞ知る、だけど」 「一体……どうやんだよ……?」 瀬島は興味を引かれた。紡を助ける方法……俺が考えてるようなこと以外に、あるんだろうか? 「今はね、仕込みの最中……ちょっと時間かかるかもなあ……で、上手くいきそうなら剛ちゃんの協力も必要だよ。だからね?」 「ん?」 「剛ちゃんは絶対、早まったことしちゃダメだからね!?」 「は、早まったことって!?」 瀬島は焦ってしまい、声が上ずった。 「物騒なモン持ち出したりすんじゃないよってこと!それは僕の案が失敗したときに取っといて、くれぐれも、頭に血ぃ上らせんじゃないよ!?」 瀬島に釘を刺したあと、之彦は通話を切った。

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