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第48話

霧原は、紡が瀬島に乱暴に扱われ、打ちひしがれているのを見て満足していた。これでもう紡の心があの男へ向かうことはないはずだ。 しかし、紡は相変わらずどこか上の空でいる。 気に入らない――まだ思い知らせ方が足りないのか? 紡は――あの時の瀬島とのただ一度の行為で自分をかろうじて支えていた。 あの時紡には瀬島の思いやりがはっきりと伝わってきたし、瀬島も紡が察したのに気付いてくれた――だから黙って帰ってくれた。 之彦に犯されている紡の、あんな醜態を見たにもかかわらず、瀬島の優しさは同じだった。紡を軽蔑して見捨てるようなことは彼はしなかった……それを感じることで紡は、なんとかその日――紡が生きるのを止められる日――それが来るまで耐えられると考えた。 霧原に性行為を強要される時、紡の肉体は彼の期待通りの反応を返す。しかし霧原には、もう紡の心を完璧に支配し、管理することは不可能だ。本当の瀬島には二度と会うことはかなわないとしても、彼が紡の心の最奥に、しっかりと深く、くさびを打ち込み繋ぎ止めてくれたから―― しかし実際は……紡の精神状態はぎりぎりで、レベルの高い学校でとても今までのように成績上位を維持することなどできなくなった。成績が下がれば霧原に罰されることはわかっている――だけど前のように勉強に集中することがどうしてもできない―― ある時霧原が、試験結果が振るわなかった紡に家庭教師を雇うと言い出した。 「いい人がいると紹介されたものでね。紡もどうやらもう、自分だけでこなすことは難しくなってきたようだからプロに頼もう」 そう言って、細身にメガネを掛けた、来栖(くるす)という真面目そうで品の良い青年を家へ連れてきた。 来栖は物腰柔らかく、教え方も上手く親身で、躓いていた紡の勉強を随分手助けしてくれた。紡は彼の落ち着いた雰囲気や話し方に慰められ、どうにか遅れを取り戻し始めた。 教える合間に、来栖は紡の気を引き立てるような話をそれとなくしてくれる。部屋の様子を霧原に監視されていると気付いている紡は堂々と雑談に興じることはできないのだが、来栖はそれを悟っているかのように、教える内容に絡めて紡の気分がほぐれることを話してくれるので、紡はそんな来栖の話に耳を傾け、朗らかな笑い声を立てることもあった。 そうして紡が、来栖が訪れる日を心密かに楽しみにするようになった頃――霧原が恐ろしい提案をした。 霧原はある晩、紡を抱きながら、以前紡が友人宅から早めに帰る際に使った言い訳――英会話を習っている、と嘘を付いたことを持ち出して、罰さなければならない、と言い出した。 霧原に後ろから性器で残虐に穿(うが)たれながら、紡は、そんなことまで知っていたんだ、とぼんやり考えた。また……ムチを当てられるのだろうか? 背後で霧原が命じる。 「来栖先生を……誘惑してみなさい」 紡は息を呑んだ。そんな――そんな事をしてしまったら――来栖は紡の指導者だが、今では仲の良い唯一の友人でもあるのだ。なのに――紡は必死になって頼んだ。 「そっ、そんな……無理です!許してください!お願いします、そんなことさせないでください!」 「やるんだ」 霧原は紡の耳に顔を寄せて言う。 「先生にも、君の本当の姿を見てもらうといい。君もそれを望んでいる。先生に――抱いてもらいたい、とね、こんな風に」 霧原が腰を打ち付ける。 「あ……ッ!う、嘘です!そんなこと、な……!」 紡は首を激しく横に振った。 「そうかな?興味のありそうな目で来栖くんを見ているくせに……正直になりなさい。来栖くんも……きっと同じように思っている。だって紡はこんなに……」 霧原は紡に突き入れて腰を揺すりながら、片手を前へまわし、紡の中心を握って扱き上げ、喘ぎを激しくさせた。 「……いやらしい子なのだから。今度来栖くんが来たら、オーディオルームに連れていき、彼のをしゃぶらせてください、とお願いするんだ。あの真面目な青年が、僕の紡にしゃぶられて昂ぶるさまが見たいんだよ。それから彼がどんな風に紡の中に()れるのかも知りたい……紡もそう思っているだろう……?」 言いながら指にぐ……っと力を込めてゆく。紡は痛みで身悶えた。 「いたい……霧原さん、痛いです……!許して、放してください……!」 「約束したら放してあげる。できるね?」 性器を握る霧原の指が敏感な箇所にぎりぎりと食い込む――その酷い痛みに紡は泣きむせびながら、はい、約束します、とか細く答えた。

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