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第50話
オーディオルームに連れてこられた来栖は感心してあちこち見回している。
「すごいコレクションだねえ!名盤ばかりだ」
本当に音楽が好きなのだろう。うわ、とか、おお、とか言いながら夢中でレコードを見ている。その来栖の後ろ姿を紡は寂しい思いで眺めた。
やがて来栖は自分を見ている紡に気づき、思い出したように慌てて言った。
「ああ!いかんいかん。ごめんね、つい夢中になっちゃったよ。遊びに来たんじゃないんだった……じゃ、勉強やろう。まず宿題からね」
宿題を終え、次の予定のカリキュラムに取りかかったとき、来栖が尋ねた。
「紡ちゃん……?どしたの?調子悪そうだね……具合悪いんじゃないの?今日はこのぐらいにしとこうか?」
紡は黙ったまま俯いて頭を振った。来栖がはっと思い当たったように尋ねる。
「そういえば……さっき、聞いて欲しいって。もしかして、レコードじゃなく相談事?」
「はい……」
紡は顔を上げず小さな声で答えた。
「先生に……」
「うん?」
二人は斜め向かい合わせに置かれた一人がけのソファにそれぞれ腰掛けていたのだが、声をかけられて来栖は紡の方へ心配げに身を乗り出した。紡はいきなり椅子から立ち上がり、来栖の前に進むとぎゅっと目を瞑り、一気に言った。
「俺……先生の、ことが……好きなんです!俺のこと、だ、抱いてください!」
「え……」
目を開けると、来栖は唖然とした表情で紡の顔を見上げている。
こんなこと……ほんとは先生にしたくない。でも……
紡はその来栖の脚の間にしゃがみ込むと、彼の両腿に手をかけ、顔を見上げて泣きそうになりながら頼んだ。
「先生……先生の、俺にしゃぶらせて……」
来栖が息を呑んで顔色を変えたのがわかり、更に悲しくなったが紡はそのまま来栖の履いているスラックスのファスナーに手をかけ、下ろした。
「……先生のここ、出して……お願いします」
さっきの来栖の表情から、そんな事は止せと言って逃げてしまうのでは、と紡は予測したが、そうはせず、来栖は少し腰を浮かせるとスラックスと下着を下ろし、紡の前に自身を晒した。紡は目を閉じ、それに唇を付けた。
「う……、ふ……」
頭の上で来栖が微かに呻いている。
先生……紡は閉じた目に涙を滲ませながら彼のものを口に含み、しゃぶった。
先生、俺のこと、なんだこんな子だったんだ、と呆れたんでしょう……だからこういう、いやらしい事をさせてもかまわないと思ったんだよね……でも良かった、やらせてくれて。もし断られて失敗したら、霧原さんに後できっと、ひどく罰せられてしまうから。
しゃぶっているそれが硬くなると、紡は身体をずらして床に身を投げ出し、下半身裸になって来栖の前で脚を開いた。
霧原に、うんといやらしくおねだりしなさいと命じられている……言いつけ通り、紡は後ろから回した両手で自分の尻たぶを両側から開け、奥を見せつけながら震える声で言った。
「先生のそれ……俺の、ココに入れて欲しい……俺のこと、抱いて……」
来栖は強張った顔で紡を見たが、椅子から離れると紡に覆い被さってきた。両肘を床につき、紡の頭を腕に抱えるようにして顔を近づけ、唇を合わせた。
その顔を紡の耳元へ移し、囁く。やっと聞こえるほどの微かな声だった。
君がどうしてこんな事しなきゃならないのかわかってるよ……
ごめんよ、頼まれた通りに君を抱くけど、できるだけ辛くないようにする……
紡は目を見開いた。どういうことだろう?来栖はまるで、紡が霧原に命じられてこうしているのを知っているかのようだ。
来栖が紡の中に分け入って来る。
できるだけ辛くないように。その言葉通り、来栖は自身を紡の中に収めると、腰をぴったり合わせ、緩やかに、捏ねるように動かしだした。それはまるで、紡のそこを、柔らかく擦 るような動きだった。
突き立てた性器で全身を揺さぶるような、強引で乱暴なやり方しか知らなかった紡は驚いた。こんな風に――穏やかに優しく紡を抱く人もいるのだ。紡は目を閉じ、頭を反らせて来栖の体をぎゅっと抱きしめ、彼のリズムに息を合わせた。
先生――俺の勝手な勘違いかもしれないけど……先生は俺を――庇おうとしてくれてるような気がする――
来栖が帰って行ったあと霧原が、自室に引っ込んでいた紡の所に来た。
「ちゃんと言いつけ通りにしたね……いい子だ。嘘をついたことは許してあげよう」
紡は椅子に座ったまま俯いて聞いていた。やっぱり……見ていたんだ。
「しかし、来栖くんは下手ではないようだが見かけ通りのおとなしいやり方だったね。僕の紡にはあれではきっと――つまらなかったのではないのかな?殆ど声も立てなかったし。お前は泣き叫ぶほど追い詰められるのが好きだから」
そんなことない。紡は思った。あなたの――俺をただ、自分が楽しむ為の道具のように使うやり方なんか大嫌いだ。先生の方がずっと、ずっと良かった。
しかし、そんな風に考えている事を悟られれば……霧原が怒り狂うことは承知している。
紡は前に立つ霧原の顔を見上げ、淀まず彼の望む言葉を口にした。
「はい。霧原さん……あなたのでなくちゃもう俺には……物足りないです」
霧原は紡を見下ろし、満足気に微笑んだ。
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