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第52話
邸宅へ戻った霧原は、玄関に二人の靴がないのに気がついた。僕に黙って外へ行ったのか?
紡の部屋を確認する――クローゼットが開けっ放しになり、中の服が数点消えている。そして紡が越してきた時持ってきていたはずのスポーツバッグがない。
――逃げたのか?来栖と?
まさかそんなはずはない。紡にそんな事ができるはずがないのだ。自分は紡の弱みを握っている。紡は死んでも弟にあの映像を見られたくないのだし――
気付いて霧原は守の部屋を確認した。守もいない。それでは――?
いや、と霧原は首を振った。まだ部活が終わる時間ではないから守は帰宅していない。では紡は、弟を捨てたのだろうか?あの紡が?
落ち着け、霧原は自分に言い聞かせた。紡が弟を置き去りにして出奔するなど有り得ない。
上着の内ポケットからスマホを取り出した。紡には霧原が買い与えたスマホを持たせているが、彼がそれをどう使ったかは霧原が監視できるようにしてある。メッセージやメール、通話も把握している。
来栖との会話が記録されたメッセージアプリを開いて確認した。しかし、ごく普通のやり取りだが……
「ん?」
霧原は思わず声を出して片眉を上げた。二人の直近のメッセージ……紡が来栖にテキストの難解な箇所について質問し、来栖がそれに答えている内容だが、それが――不自然な所で改行されている。
「……縦読みか」
霧原は苦笑した。監視に気付いていたか――単純なやり方だ。しかしそのせいで逆に、直ぐにはわからなかった。馬鹿にしているじゃないか、この僕を。
霧原はメッセージに目を走らせた。1、8、に、ち……18日、今日だ。新町プラザホテル505号室、5時。
そこまで読んだ所でスマホの画面がフッと暗くなった。バッテリー切れか?しかし場所と時間は把握した。霧原は踵を返して紡の部屋から出、必要そうなものを見繕ってバッグへおさめてから、プラザホテルへ向かった。
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