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第55話

未成年者略取・誘拐、強制猥褻、暴行傷害――霧原が告発されたのはそう言った罪状だった。ホテルでベッドに縛り付けられていた少年――彼が、霧原に騙されて無理矢理部屋に連れ込まれ、薬物を投与された上で猥褻な行為をされたと訴えたのだった。 警察の捜査が自宅に入って、霧原のコレクション――紡に自慰を強要した時に見せた、少年に対する性行為が写された写真や絵、紡を責めたときに使用した性玩具や拘束具、媚薬――そんなものも全て証拠物件として押収された。 ただ、IT機器が全てウィルスにやられていて、そこからは何も取れなかったらしい。警察はそれを霧原が自ら仕掛け、証拠隠滅を図ったのではと考えている―― 霧原が身柄を拘束されたため、紡と守も霧原から遠ざけられ、保護された。やがて瀬島が現れ、警察で事情を聞かれる二人に付き添ってくれた。紡に、お前は何も話さなくていいからな、と言う。警察はもちろん紡と守への性的虐待を疑ったが、紡は、大丈夫でした、と答え、瀬島が言ってくれた通り何も話さなかった。話す必要はない。霧原は紡には告発されていないが、紡にしたのと同じ行為で罪を償わなければならないのだから。 その後、守とともに瀬島の事務所――紡の大好きなあの場所――そこへ瀬島に連れられて行くと、来栖が之彦とともに来ていたので驚いた。 やがて、守が事務所に顔を出した大川と外の通りでメンコを使って遊び始めたので、事情を知る者だけで、紡に、どういう事が起きたのかが明かされた。 あの少年は、以前一度之彦がうっかり遊び相手にしてしまい、之彦の手管に完全に惚れてしまって、また会ってくれとしつこくせまっていたのだという。之彦は、少年の体格が紡によく似ていたのを思い出して今回の作戦を考えた。 自分の好みだと言って、派手な金髪に脱色していた少年の髪をブラウンに染めさせ、さらに紡と同じスタイルにさせた。家から持ち出した紡の服を着せた彼をホテルへ連れて行き、軽い媚薬を与えてベッドに拘束し、目隠しと猿ぐつわで顔を隠した。それから瀬島と入れ替わったそこに、怒り狂った霧原が現れた―― 「あっさりとやられる手はずではあったけど、スタンガン食らわされるとは思わなかったよ……」 瀬島は首を撫でた。紡がそこにそうっと手を添えると、瀬島は微笑んでその手を握った。 之彦が言う。 「災難だったよねえ~。でも剛ちゃん頑丈だから」 「でも、あのう……大丈夫なんですか?その男の子……」 「大丈夫大丈夫」 心配で尋ねた紡に、之彦がニッコリして答える。 「あの子若いけどすげえ遊び人で、裏で色々とやらかしてんのよ。ちょっとやばめの薬とかも常用してたし。今回のホテルのことを表沙汰にして大騒ぎにしたのは、マスコミに今までのその子の悪い遊びがばれかけてたから、ってのもあったんだ。彼、代議士の息子でさ、週刊誌にそういうこと書かれたらお父さんの立場がまずいわけ。だから、霧原さんがあの子に無理やり色々やったってことにできれば都合がいいんだよ。可哀相な被害者になれば、事実が隠せる上にマスコミにも追求されなくなるでしょ?」 「そうだったんだ……」 紡はため息を付いた。 「スタンガンで襲われたのは僕、ってことにしてあるからあの子マジ怒ってるし、容赦しないと思うよ?楽しみにしてた僕とのデートを乱入してきた変態オヤジに台無しにされたと信じてるからね。被害者シャッフル状態ではあるけど、結局は全部霧原さんがやったことだし否定はしにくいでしょ。スタンガンだの手錠だのやばいもん持ち出したのは自分だし、念のためあの子に触ってるとこの映像も撮っといたし……なるべく重い罪になるといいよね」 「俺のために……そこまで考えて……ありがとうございます」 頭を下げた紡に之彦はきまり悪げに微笑んだ。 「いや、僕……紡ちゃんと剛ちゃんに酷いことしちゃったから……罪滅ぼし。これで……許してもらえるかな?」 紡は強く頷いた。 「社会的な評判は既にメタメタでしょうけど、ああいう人は……実刑になって欲しいです」 来栖が呟く。紡は彼を見た。 「……先生が……之彦さんの友達だったなんて思わなかった……」 だからずっと紡に優しかったのだ。あの時も全部知っていたから、紡が霧原に追い込まれないよう振る舞ってくれていたのだ。 「霧原さんが隠してた君の映像はみんな、僕がウィルスばらまいてめちゃくちゃにしておいたから。何も心配しなくていいからね」 家庭教師として家に入り込んだのはそのためだった、と来栖は言った。スマホのメッセージを細工したのも彼だった。そして、紡が霧原に命じられ、来栖に対しやらされるであろう内容も予測していた、と話して詫びた。 「すまなかったよね……辛かったよね」 紡は首を振った。 「そんなことなかったです……先生が俺を庇ってくれたの、わかってたから……」 瀬島が紡の肩を抱き寄せ、励ますように小さく揺すった。 之彦が来栖をからかう。 「お前はほんとは犯るより犯られる方が好きなんだよね~」 「そうそう。入れるより入れられる方が……って!何言わせんですかあなたはもう!」 「あれ?お前らヨリ戻ったの?」 瀬島が尋ねた。 「うん」 之彦が頷き、隣に立つ来栖の腰を抱く。 「いやいやそんな……今回手伝うことの条件に僕が之彦さんにデート要求しただけで……この人モテますから、こうでもしないと相手にしてもらえないんですよ、僕なんかじゃ」 紡くんのこと助けられるなら別に報酬なんかいらなかったですけどね、と来栖は照れくさそうに言って頭をかいた。 「卑下すんなよ。お前が優秀なのあらためてよくわかって惚れ直したんだから」 之彦が言い、音を立てて頬に接吻したので来栖は真っ赤になった。 「見せつけやがってえ~」 瀬島が笑って言ったそこへ、大川と守が戻ってきた。 「兄ちゃん!メンコ初めてやったけど面白いよ!一緒にやろうよ!」 「また古ぼけた遊びを教えたもんだな……」 瀬島が苦笑する。 「なんだと~?メンコ舐めんな!なんなら勝負するか!?泣かしてやるからよゥ!」 大川が腕まくりした。 「よおし受けて立とうじゃないの!けどお前ェ、負けて興奮しても脱いで物騒なモン見せんじゃねえぞ!?人の会社の前でンなもん出されたら評判落ちるわ!」 「お前にこれ以上落ちる評判なんかねーくせに!」 「ナニぃ~!?」 之彦が呆れたように肩をすくめた。 「ほんといつまでもガキだなあ、あんたらは……」 「ほっとけやい!おし大川、行くぞ!」 「あ!俺もメンコってやってみたい!」 紡も叫び、立ち上がった瀬島の後に続いた。

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