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第3話 風変わり恋愛1

「なぁ、秋晴……俺たちのセックスっておかしいよな」  唐突に、しかも真顔のままそう口にした幸治の対面で珈琲を美味そうに啜っていた秋晴は、盛大に噴き出しそうになった。寸でのところで飲み込んで、しかし、口の端から僅かに零れてしまった珈琲を手の甲でごしごしと拭うと幸治を睨んだ。 「いきなり、こんな場所で何言い出すんだよ。びっくりして、危うく幸治の顔に珈琲飛ばすところだった」  秋晴が怒り気味に言うのも無理はない。ここは、秋晴と幸治が通う大学近くのカフェで。専攻も取っている講義もほぼほぼ同じの二人は、次の講義までの時間が中途半端に空いてしまっていたため、ここで珈琲でも一杯飲んでいようか、という話になったのだ。  秋晴は珈琲を、幸治はエスプレッソを頼み、それを口にしながら和やかに会話をしていたはずなのだが。幸治が不意に黙り込んでしまったため秋晴が心配して理由を尋ねたところ、先ほどの発言が幸治の口から飛び出してきたのだ。  秋晴は、軽く噎せながら辺りに視線を巡らせる。昼時になると、このカフェは軽食を摂りに来た大学生達で賑わいを見せるのだが、幸い朝も早い時間なこともあって店内には人が疎らにいるだけで。誰も彼も自身以外のことには興味がないのか、先ほどの幸治の発言を聞いていた者はいないようだった。  取り敢えず、聞かれていなかったことにホッとしつつ秋晴が対面の幸治に目を向ける。彼は真顔のままであったが、秋晴に怒られて少しばかり悄気(しょげ)ているようでもあった。 「悪い。でも、気になったんだ」 「何が?」  珈琲を啜りながら、秋晴は小さな声で尋ねる。と、幸治が真っ直ぐ秋晴を見つめたまま言った。 「俺は、Ωだ。秋晴はαだろ?」 「そうだね」  事実を確認するような幸治の言葉に、秋晴は頷きを返す。  秋晴がαで、幸治がΩであることは、二人が高校の頃から知っている事だ。それを、今更確認するなど、幸治は一体どうしたというのか。秋晴がそんなことを考えている時だった―― 「だったら、秋晴は俺に突っ込みたくないのか?」 「ぶッ!?」  本日二度目の幸治の爆弾発言に、秋晴は今度こそ盛大に噴き出した。

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