せめてもの救いは、秋晴が珈琲を口に含んでいなかったことだろう。しかし、今ので周囲の注目を集めてしまったのはいうまでもない。 　秋晴は、背や顔に突き刺さる視線に居た堪れなさを感じ、顔を俯かせる。そうして、一時の間向けられる周囲の視線をやり過ごし、改めてそろそろと顔を上げ幸治を見た。 「あのね、幸治……、君どこでそんなこと聞いてきたのさ」 　声を潜めながら秋晴は尋ねた。 　いいも、悪くも幸治は無頓着で。だからこそ、今まで何の疑問も持っていなかった二人の風変わりな関係性について急に幸治が秋晴に尋ねてくるなど、誰かに何かしらを吹き込まれたとしか思えない。 　恐らく、秋晴が目を離してた隙に同じゼミの先輩辺りに言われたのだろう。 　しかし、秋晴の予想とは裏腹に幸治は二、三度頭を横に振った。 「前々から思ってたんだ。αのお前が俺に突っ込むのが一般的なαとΩでのセックスだろ？」 　明け透けな幸治の言葉に秋晴は頬を赤らめながら、ぎこちなく頷く。 「まぁ、……そう、かもしれないね」 「でも、俺とお前の場合は違う。いつも、俺が秋晴の中に突っ込んでばかりだから、もし秋晴が突っ込みたいのを我慢して俺に突っ込ませてくれてるんなら、悪い気がしたんだ」 「そ、そう何度も突っ込むとか、突っ込まれる、とか言わないでくれよ。人目があるんだからさ……まぁ、気にしてくれてるのは嬉しいけど……」 「……嬉しいってことは、やっぱり突っ込みたいんだな？」 　何時になく真剣に、前のめり気味に尋ねてくる幸治に秋晴はたじろいだ。秋晴は、今の幸治との関係性に満足してるのだが、それを周囲に他の人間の目がある状態で幸治に告げることは勇気が必要で。αであるのに引っ込み思案で注視されるのが苦手な秋晴には、とてもではないが無理だった。 「いや、別にそういうわけじゃ……。そ、それより、そろそろ講義の時間だから、大学に戻ろう」 　そう誤魔化して、秋晴は納得のいっていない様子の幸治を急かし、慌しく席を立つ。後々、幸治の質問にしっかりした答えを返さなかったことを秋晴が後悔するとも知らずに――――。