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第6話 風変わり恋愛4
「まだ駄目だ。出すなら、俺の中で出してくれ」
艶のある、幸治の低い声が聞えた次の瞬間、秋晴は自分の目を疑った。何故か、秋晴の性器を戒めていない方の手で器用に自身のズボンや下着を脱いだ幸治が、秋晴の上に腰を下ろそうとしていた。
「ちょ、……ゆ、きはるっ!! 何やって――」
「見たままだ。俺の中に、お前のを入れようとしてる」
ケロリとした表情のまま、幸治は後ろの窄まりに秋晴の性器を宛がいながらそう答えた。しかし、秋晴は現状を訊いたのではない、幸治がそうしようとしている理由を訊いたのだ。
「いや、それは分かってるけど、って……ストップッ!!」
慣らしもしていない部分を押し広げ、入り込んでいこうとする感覚が恐ろしく、秋晴は幸治突き飛ばすようにして彼の下から這い出した。
突き飛ばされた幸治はというと、ベッドの上で不思議そうな表情を浮かべている。まるで、そうされた理由が分からないといった表情だ。
「? なんでだ? 秋晴も、突っ込みたかったんだろう?」
「何でそうなるんだよ。きちんと答えてなかった俺も悪いけど、幸治も一人で突っ走りすぎだって」
「どういうことだ? 俺にも分かるように言ってくれ」
まだ理解の出来ていない幸治に詰め寄られ、秋晴は観念したように口を開く。
「あ゛ー……、その……つまり、俺は今までの幸治とのセックスで十分満足してるってことだよ……。そもそも、俺幸治にされてる方が好きだし……」
ごにょごにょと、聞き取れるか聞き取れないかギリギリの声量で秋晴が言う。と、それでもまだ信じられない、といった様子で幸治が恐る恐る訊ねてくる。
「……本当か?」
幸治は秋晴よりも体格がよく、どこからどうみても“可愛らしい”といった形容とはかけ離れているのだが、秋晴には彼が可愛らしく見えてしまうのだから、恋や愛といったものは恐ろしいものである。
秋晴の口元に笑みが浮かぶ。気がつけば、幸治の端正な顔を両掌で包み込んでいた。
「こんなことで嘘ついてどうするんだよ」
「秋晴は、あまり気持ちを口にしてくれないから、たまに不安になるんだ」
確かに、幸治の言う通りだった。秋晴は自身の想いを口にするのが苦手であったし、番であり、恋人であるから幸治を想う気持ちは言葉にせずとも伝わっているはず、と関係性の上に胡坐をかいて、自身の口で告げることを随分としないでいた。そんな状態では、幸治が不安がるのも無理はない。
「……ごめん」
「いや、いいんだ。俺の我侭だし。俺がΩらしくないから、秋晴がαとしての本能殺してまで付き合ってくれているんだとしたら悪いな、って思った。それに、秋晴はモテるから……俺の体で繋ぎとめておきたかった。取られたくないんだ、お前のこと」
「……幸治」
真っ直ぐな幸治の視線と、言葉に秋晴の胸の真ん中が甘く疼く。
いつだって、幸治は秋晴のほしい言葉を真っ直ぐに与えてくれる。それに、秋晴にαとしての役割を求めず、いつだって秋晴の気持ちの方を優先させてくれた。それが、どれだけ秋晴の安らぎになっていたか、幸治はきっと知らないだろう。
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