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憎くて愛しい俺のエネミー 22

 道を逆走して門をくぐり、庭を走り、開けっ放しになっていた窓に手をかけて寮長室へ飛びこんだ。 「てめえ、よくも人を騙してくれたな!」  机の上で仁王立ちになって怒鳴った。が、しかし、寮長室は無人だった。どうやら俺がもどってくることを見越して逃げ出したらしい。  誰が逃がすか。地の果てまでも追いかけてぶん殴ってやる。  俺は寮長室を飛び出した。廊下をきょろきょろと見まわしたが、森正の姿はどこにも見あたらない。寮長室にいないのならいったいどこにいるのか。入寮したばかりの俺には見当もつかない。 「あれえ、シロちゃん、まだごはん食べにいってなかったのー?」  俺がうろうろしていると、手前にある階段からチョコレートに砂糖をまぶしたような声が降りそそいだ。  見て確かめるまでもない。モモンガ干城だ。階段をちょこちょこと下りて、俺の前まで歩いてくる。 「干城、森正がどこにいったか知らないか」 「もー、干城じゃなくってハルちゃんだってば」  ぷうと頬をふくらませる。 「あとでいくらでもハルちゃんって呼んでやる! だから森正の居場所を知ってるなら教えてくれ!」 「シロちゃん、髪やお洋服に葉っぱがいっぱいついてるよ。あ、ひょっとしてお庭で青姦してたとか? もー、どうしてぼくも呼んでくれないの? 参加したかったのにー」 「あおか……ってするか、そんなこと! いいから俺の質問に答えろ!」  相手がちびっこじゃなければ胸倉をつかんで揺さぶっているところだ。 「克くん、寮長室にいないの? だったら、娯楽室で誰かと遊んでるか、食堂でごはんを食べてるかじゃない?」  サンキュ、とだけ告げて、とりあえず娯楽室に向かう。 「森正! いるなら出てこい!」  ドアが開けっ放しの部屋へ飛びこみながら怒鳴ると、娯楽室にいた奴ら全員がぎょっとした顔で俺を見つめてきた。  娯楽室をぐるっと見まわしてみたが、森正らしき姿はどこにもない。 「すまない。騒がせたな」  俺は中にいた奴らに謝ってから、次なる目的地の食堂に向かった。 「ちょっと木村くん」  背後からかかった声に振り返ると、途惑った表情の清田が小走りで俺に近寄ってきた。 「……清田か。悪いけどいま忙しいんだ。用ならあとにしてくれ」 「いや、そうじゃなくって。森正となんかあったの?」  どうやら清田は娯楽室にいたらしい。俺のようすが気がかりで追いかけてきたようだ。 「ああ、ちょっとな」 「ねえ、まず少し落ちつこうよ。いまの状態で森正に会ったら喧嘩になりかねないよ。どうやら木村くんってあんまり気が長いタイプじゃないみたいだし。さっきも言ったよね。森正は喧嘩が大好きなんだって。木村くんがその態度で現れようものなら、尻尾をぶんぶん振って喧嘩を買っちゃうからさ。せっかく滅多なことじゃ喧嘩をしなくなったんだ。頼むから挑発しないでおいてやってよ」  俺はその喧嘩をするために森正を探しているのだ。  清田を無視して食堂に向かう。清田は俺の横をついて歩きながらごちゃごちゃと言ってきたが、いまの俺に相手をする余裕はない。  食堂に入ると、すぐに森正は見つかった。日本人としては規格外にでかいので、探すときは実に便利だ。とにかく目立つし、図体がでかいので隠れたところでどこかがはみ出す。そういえば森正は、かくれんぼだけは他の子供たちよりも下手だった。 「やっと見つけたぞ! おい、森正……!」  呑気に夕食を食べていた森正は、箸を片手に俺を振り返った。森正だけじゃなく、食堂にいる奴ら全員が俺を見てくる。  俺は視線の束を振り切るように、大股で食堂を横切った。 「よお、もう帰ってきたのか」  森正のいるテーブルの横で立ち止まると、森正は少しも悪びれない表情で俺を見上げてきた。  これ以上はないというほど頭にきていたつもりだったのに、その顔、その態度を見ていたら余計に腹が立ってきた。

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