5 / 10

第5話

 種が家に男を連れ込んだのはそれからすぐのことだった。  実に見せつけるようにリビングでイチャイチャする種とその相手に苛立ちと気持ちの悪さが湧いた。 「自分の部屋があるだろう!?」  思わず種に怒鳴ると、男の肩越しからチラリと実を見た種はわざとらしくため息を漏らした。 「邪魔しないで」 「邪魔って……」  変な男に引っかかったらと心配しているのに、邪魔だなんてあんまりだ。相手の男の見た目はだらしなくこの男を番にすると言われたら全力で反対する。  そもそもαなのかもわからない。どうしていきなり種はこんなことをするのか理解出来ない。番になることを断った腹いせだとしたらすぐにやめさせるべきだ――兄として。 「その男を番にするのか?」 「兄さんに関係ないでしょ」 「関係あるだろ、兄として見極めなきゃ……」 「自分のことは自分で決めるよ」  冷たく言い放って実から視線を外した種は無言で成り行きを見ていた男の唇に自分の唇を重ねた。  その姿に実はドキリとした。誰かのそんなシーンを生で見たのは初めてだった。それも弟のそんなシーン。正直、見たくはなかった。  今日もまた誰かを部屋に呼んでいるのかと思うと帰宅する足が重い。  弟の淫らな姿や声はヘッドホンをして大音量で音楽を流していても完全に塞ぐことは出来なかった。  ソファーが軋む音や肌と肌がぶつかり合う音が振動して実の部屋まで揺らすと、堪らない気持ちになる。あんなに仲が良かったのにどこで間違えてしまったのだろう。あの頃のあどけない弟はどこに消えてしまったのか。  Ωというのは素直だった弟の性格をそんなにも変化させる程、生きづらい性なのか。  α性で生きている実には分からない。きっとαである限り、弟の考えは一生理解できない。  それでもたった一人の弟だ。幸せになってほしい。番がほしいのならもっと将来有望で優しく、弟に苦労をさせたりしないαを選んで欲しい。なんなら自分が相手を探しても構わない。同じ高校に通う生徒の中には優秀なαが何人もいる。その中から種を大切にしてくれそうな相手を探して弟に紹介することもできる。  だいたい、種が連れてくる男は皆、βではないだろうか。αならば何となくだが実にはわかる。それにαとΩの性行為では、発情していなくても少なからず特有のフェロモンが出る。今まで種が連れてきた男たちの中でそんなフェロモンを出していた者はいない。種もΩ特有のフェロモンを出してはいない。

ともだちにシェアしよう!