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第2話
膝に舞い落ちる桜の花びらを拾い上げふっと笑みがこぼれた。
「慌ただしかったなぁ」
転学手続きをして、教育学部のあるここの試験や面接、そして入学が決まるまで佑真さんがいなければとても無理だった。
やりたいことが見つかり、その道に進めることに期待と少しの不安が胸をざわつかせた。
満開の桜からこぼれる柔らかな春の日差しに手首にあるエメラルドグリーンのブレスレットをかざすと俺の不安を吸い込んでくれるようだった。
「あの、すいません」
声のした方に顔を向けると大男が立っていた。日本人の顔はしているけど、体格が外国のレスラーみたいで威圧感が半端ない。
「あの……」
驚いて声がでない俺に大男がもう一度声をかけてくる。
平均より背が低い俺から見ればみんな高いのかもしれないけど、それにしたってでかい、でかすぎるだろ。
佑真さんも高いほうだけど、それ以上あるだろ。
何食ったらこんなにでかくなるんだ。
スッキリと刈り上げられた短髪に額がよく見え、爽やかな印象を受ける。
「えっと、あの、聞こえてます?」
見つめたまま答えない俺を耳が聞こえないとでも思ったのか、不安に揺れる少し垂れた大きな瞳は大型犬を連想させた。
「あぁ、すいません、何ですか?」
「よかったぁ」
俺が返事をすると大きな瞳を輝かせて喜ぶ姿に尻尾まで見えるようだ。
「俺に何か用ですか?」
「あ、あの、駅までの道を教えて欲しくて」
申し訳なさそうに話す大男にしゅんと垂れる犬耳まで見えるようで吹き出しそうになる。
「俺も帰ろうと思っていたので一緒に行きましょうか」
「本当ですか!助かります」
明るく笑う大男に親しみを覚えた。
歩き出してすぐ大男が福井永徳 だと自己紹介をはじめた。
「水沢翔 です。永徳 って珍しい名前ですね」
「よく言われます。水沢さんは2年ですか?」
にこにこ笑いながら俺に歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれているのがわかる。
「1年ですよ。教育学部で――」
「同じですね!俺も1年教育学部で、落ち着いているから先輩かと思ったぁ」
笑顔のまま敬語じゃなくてもいいねと俺を覗き込みながら言った。
いいやつだ!
年齢はきっと俺の方が上なんだろうけど、それでも落ち着いているなんて言われた事なかった。
慎吾に聞かせてやりたい。
「翔でいいよ。俺も永徳君って呼んでいい?」
「永徳でいいよ!」
俺の言葉にこれ以上ないくらいの笑顔を浮かべる永徳につられて笑顔になった。
スマホで駅までの道を調べなかったのか聞いた俺にスマホの使い方がよくわからないと永徳は恥ずかしそうに笑った。
LINEはできるという永徳と連絡先を交換して困ったことがあればいつでもどうぞと言うと喜ぶ姿が尻尾をちぎれんばかりに振る大型犬のようでつい笑ってしまった。
「あ、馬鹿にしてるでしょ」
「いや、何かかわいいなって」
でかい図体で拗ねた顔が子供っぽくてかわいく見える。
「かわいいって……翔の方がよっぽどかわいいよ」
大きな目をさらに大きくして俺を見下 す。
「おっ前、それ身長で言ってんだろ」
さっきの落ち着いて見える発言はどこいったんだよ。
永徳と俺じゃ大袈裟に言えば子供と大人くらいの差がありそうだ。
大袈裟に言えば、な。
むすっとした顔を向けながら何cmあんだよと聞くと195cmくらいかなぁと笑いながら答えた。
聞かなきゃよかったと溜息をつく俺に人混みでもすぐに見つかるよと永徳は明るく笑っていた。
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