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第5話
咲き誇っていた桜も葉桜に変わり夏の訪れが近いことを知らせている。それでもまだ日が暮れると肌寒い。
佑真さんと初めて出会ってから1年になるのか……。
沈みゆく太陽に気持ちまで沈んでいくようだ。
俺の好きな夕日と夕闇の混じる赤紫の夕焼けを眺めても今日は何だか気持ちが晴れない。
「翔、悪い遅くなった」
慎吾のアパートの前で待っていた俺に気付き足早に近寄って声をかけ、そんなに待ってないと笑う俺にもう一度悪いと言いながらカギを開けた。
「お前、顔色悪いな」
慎吾の後について部屋に入り明かりの眩しさに目を細めた俺の顔をじっと見つめた。
「そうか?疲れてる自覚はあるけど」
床に座りベッドにもたれかかりながら笑う俺に慎吾が眉をひそめる。
「無理してバイトしてんの?」
「学校も忙しい。必修科目が意外と多くて」
久しぶりに会う相変わらず心配性な慎吾は俺を気遣ってくれる。
「どうだ大学、友達できたか?」
「あー……うん、多分?」
慎吾の問いに大型犬のような永徳が思い浮かぶ。
懐かれているだけな気もするけど俺も永徳といるのは嫌じゃない。多分友達だろう。
「多分って。翔は意外と人付き合い苦手だからな」
頬杖を突きながらふっと笑う慎吾を見てやっぱり保護者と呼ばれるのも納得だと思う。
「慎吾はさぁ、彼女いんの?」
「いないけど……」
俺が何を言おうとしているのか察したのか、あからさまに面倒臭そうな表情をしている慎吾が見えた。
「何でそんな顔すんだよ!」
「五十嵐さんの事だろ」
むっとして抗議の目を向ける俺に面倒臭そうな表情のまま慎吾が溜息をついた。
そこは気付かないフリしてろよな気遣いのできる男だろっ。
「慎吾って彼女いたことあんの?」
「あるけど」
「え!?いつだよ!俺知らない!」
慎吾の言葉に驚いて思わず身を乗り出した。
高校からずっと慎吾とは一緒だったけどそんなの知らない、聞いてない。
「何で俺の恋愛事情をお前に把握されなきゃいけないんだよ」
慎吾の素っ気ない態度に今更落ち込んだりはしない。
しないけど教えてくれたっていいだろう。
そりゃ少しは羨ましいとか、どうやって知り合ったんだとか、どっちから告白したんだとか聞いたかもしれないけど。
だからって隠す事ないだろ……。
「別に隠していたわけじゃないぞ、聞かれなかったから言わなかった」
顔にでも出ていたのか俺の考えを先読みして答える慎吾にまた腹が立つ。
「おっ前!そんな毎日、彼女いる?とか聞くやついねぇだろ!」
大きな声を出したせいか、ふらついた頭をベッドに投げ出した。
「はいはい。俺の事よりお前だろ」
「俺は……さ、誰かを好きになったのが初めてで、よくわからないんだよ」
眩しいほどの白い天井に目を伏せながらゆっくり言葉を紡いだ。
「何が?」
「何だろうな……」
慎吾の視線を感じながら小さく呟いた。
「五十嵐さんと何かあったのか?」
起き上がろうとしない俺に慎吾の心配そうな声が聞こえた。
「何もない」
何もないからわからない。
好きだと伝え両想いになれたと思ったのに佑真さんとの距離は遠くなった気がする。
佑真さんに触れたくて近付こうとしても困った顔をされるばかりで。
佑真さんは変わらず優しいけど……どこか拒絶されている気がする。
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