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第8話
「具合でも悪いの?」
講義が終わり机に突っ伏したままの俺に永徳が心配そうに声をかけてくる。
数日前の佑真さんの言葉が気になってよく眠れていない。
聞きたくてもゆっくり話す時間もない。
ベッドに運んでくれたのはやっぱり佑真さんでソファで寝るなよと優しく笑ってはいたけどそれ以上何も言わなかった。
話がしたいと言う俺に忙しくてごめんなと困ったように微笑む佑真さんに何も聞けないままでいた。
強引に聞いてしまえば済むんだろうけど、俺の好きとは違うと言われるのが怖い。
そうだったとしても、好きだと言ってくれた佑真さんの言葉をまだ信じていたいんだ。
「大丈夫?」
何も答えない俺に永徳がもう一度声をかける。
「寝不足なだけだから」
「でも顔色も悪いよ」
永徳が心配してくれているのはわかっているけど、放っておいてほしい。
心配かけてごめんと笑顔を作る余裕が今の俺にはない。
「翔、翔って」
それでも永徳は心配なのか俺の肩を揺すってくる。
「うるっさ――」
「永君~、あ、翔君もいるじゃん」
苛立ちながら永徳の手を払いのけた時、笑顔で手を振りながら秋穂さんが駆け寄って来るのが見えた。
しょんぼりしている永徳にどうしたのと訊ねる秋穂さんを見て俺は机に顔を伏せた。
こんなのただの八つ当たりだ。永徳に申し訳ない気持ちになりながら溜息をついた。
「翔~君っ」
のしかかる秋穂さんの胸が背中にあたる感触に身動きが出来なくなる。
胸が……胸があたってます、秋穂さん。
秋穂さんのスキンシップが多いのか、女の子ってみんなそうなのかはわからないけど、胸が当たるのでやめてほしい。
すごく柔らかくて壊してしまいそうな気がして振り払う事もできず戸惑ってしまう。
そういえば佑真さんもよく抱きつかれたり、腕組まれたりしていたけど何とも思わなかったのかな。
慣れなのか?胸の感触に慣れるって……それもそれで何かすげぇ嫌だ。
「翔君、寝てるの?」
俺の上から訊ねる秋穂さんに溜息が漏れてしまう。
この状況で寝れるやついんのかよ。寝ていても起きるだろ。
「ちょっと寝不足で……」
胸について考えてましたとは言えるはずもなく。
「今から飲み会に行くんだけど翔君も行こうよ!」
俺、寝不足だっていったよな、話聞かないタイプか秋穂さん!
「わかりました、わかりましたからどいて下さい」
秋穂さんが俺の上で揺れるたびに胸も揺れて本当どうしていいかわからなくなって思わず返事してしまった。
「え、大丈夫なの?」
顔を上げると永徳が心配そうに俺を見ていた。
「今日はバイトもないから」
笑って答える俺にそうじゃなくてと永徳が言いかけたけど、そのまま二人とも秋穂さんに引きずられるように教室から連れ出された。
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