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第9話
「なぁ永徳。飲み会ってサークルだっけ同好会だっけ、それの飲み会だと思ってたんだけど、3人だけってどういうこと」
酒は飲まないと宣言した俺はウーロン茶を半分ほど流し込んではぁっと息を吐いた。
「あ~……秋穂さんが酒好きで付き合わされる事が多いんだよね」
隣に座る永徳が声を潜めながら苦笑した。
店員に楽しそうにいろいろ注文している秋穂さんを見て、佑真さんのいない家に帰っても寂しいだけだしまぁいいかと思い直した。
「ね、ね、翔君って彼女いるの?」
すでに2杯目のレモンサワーを飲み始めている秋穂さんが正面の席から身を乗り出してくる。
「いませんよ」
女の子って好きだよなぁ。こういう話。
「じゃあ私がなってあげるよ~」
「は!?」
秋穂さんの言葉にウーロン茶を持つ手が止まる。
え?何この人もう酔ってんの?
冗談だとしたら否定するのも空気壊す気がするし、どう答えるのが正解なんだ。
返事に困って助けを求めるように永徳に視線を向けると永徳まで驚いた顔をしていた。
何でお前まで驚いてるんだよ。
「何か翔君ってさ~母性本能くすぐられちゃうんだよねぇ~」
明るく笑う秋穂さんに冗談だったのかとほっとする。
でも母性本能って……要は俺が子供だって言いたいんだろう。
「わかります、わかります」
永徳まで大きく頷きながらにこにこ笑っている。
「何でお前が頷いてんだよ」
眉間に皺を寄せ睨む俺を気にも止めず、だよね~と秋穂さんと笑い合っていた。
何だろう疲れる、疲れるんだけど、楽しそうな人といると楽しい気分になってくるから不思議だ。
「だから私を彼女にしちゃいなよ~」
「ははっ……」
サラダを取り分けた皿を俺に渡しながら笑う秋穂さんに乾いた笑いしか出ない。
その冗談いつまで続くんですか。
「翔はあげませんよ!」
驚いて永徳を見ると真剣な顔はほんのりと赤くなっていた。
もうやだ、この酔っ払い達。
「俺、好きな人いますから」
佑真さんの顔を思い浮かべると寂しい気持ちになる。佑真さんに好きだと言える日がまたくるんだろうか。
「そうなんだぁ」
「え!!」
さほど気にした様子のない秋穂さんとは対照的に永徳が驚いた顔で俺を見てくる。
「何でそんなに驚くんだよ」
「あ、ごめん」
苛立ちながら頭を掻く俺に永徳が申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。
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