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第23話
目が覚めると暗闇の中ベッドサイドのランプから柔らかな明かりがこぼれていた。
少し身体を起こすと、隣で佑真さんが静かな寝息を立てていた。
切れ長の一見冷たく見える目元も閉じているとどこかあどけない。
そっと触れた佑真さんの癖のない黒髪がさらっと流れる。
「眠っていてもかっこいいなんてずるいよなぁ」
「それはどうも」
小さく呟いた俺に答える佑真さんの茶色の瞳が俺を暖かく包み込んでくれる。
「お、おはようございます」
「おはようって時間ではなさそうだけどな」
ふっと笑った佑真さんがスマホの明るさに目を細めながら時間を見て起き上がった。
「何時です?」
俺も起き上がり佑真さんの手元のスマホを覗き込むと午後9時を過ぎた所だった。
「何か食うか」
そう言ってリビングに向かう佑真さんの後について行きソファに身体を沈めると、痛み止めが切れたのか傷口がずきずきと痛んだ。
痛みに顔をしかめながら、リビングに置き忘れていたスマホを開いた。
「うわぁ……」
永徳からの着信やメッセージの多さにうんざりする俺のスマホを佑真さんが覗き込んだ。
「着信32件ってすごいな」
驚く佑真さんにスマホの画面を見つめたまま頷いた。
確かに迷惑をかけておいて連絡しなかった俺が悪い、悪いけど、こんなにかけてくるか?
心配で何度か電話するのはわかる、だけど32件はやりすぎだろ。
「何か怖い」
溜息と共に素直な感想が漏れる。
そういえば過呼吸を起こした時も永徳を怖いと感じたんだっけ……。
コワイ
小さく“オレ”の声が聞こえた気がして眉をしかめた。
「翔?痛むのか?」
こめかみを押さえる俺の手に触れると佑真さんの手が触れるとびくっと身体が震えた。
「あ、いえ、永徳ってでかいから威圧感あるっていうか何か怖いなって」
笑顔を作る俺の手を握った佑真さんの力が強くなる。
「何かあったのか?」
真っ直ぐ俺を見つめる佑真さんの真剣な眼差しにはぐらかすことなんてできそうにない。
でも何て言えばいいんだろう。俺自身、過呼吸が起きた原因も永徳を怖いと思う理由もわからない。
「佑真さん、俺もしかしたらトラウマを克服できていないのかも……」
トラウマは消えることがないから、どこまでが克服できていると言えるのかわからない。
兄さんの事は今でも怖いと思うし、関わりたくない。
でも思い出したからって過呼吸は起こさなかったから克服できたんだと思っていた。
「あいつに何かされたのか!?」
俺の言葉を聞いた佑真さんの剣幕に驚きと同時に疑問を感じた。
俺はトラウマを克服できてないかもしれないと言っただけで、過呼吸の事も怖いと思ったことも何も話していない。
「何か知ってるんですか?」
静かに聞き返す俺の目に複雑な表情を浮かべる佑真さんが映る。
「怒鳴って悪かった。怖いって言うから何かあったのかと……電話かけなくていいのか?」
はぐらかそうとする佑真さんを見て何か知っているのだと確信した。
「何を知ってるんですか?」
思い悩むような顔をしている佑真さんにじっと視線を送る。
佑真さんと呼んでも返事がない。
この人がこうなるとなかなか本当の事は話してくれない。
俺のために言わない方がいいと考えているんだろうけど、俺は知りたい。
どうすれば話してくれるんだろう……。
「佑真さん、俺には言えない事ですか?」
佑真さんの腕を掴み、上目遣いで見つめながら首を傾げた。
「お前……それはずるいだろ」
抱き寄せた俺の肩に頭を乗せた佑真さんが溜息混じりに呟く。
おぉ……前に読んだ何かの雑誌に『彼にお願いを聞いて欲しい時は上目遣いが効果大』って書いていたのを思い出して実践してみただけなんだけど、成功したみたいだ。
暇潰しで読んだ雑誌がこんな所で役に立つなんて、どこで何が役に立つかわからないもんだな。
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