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第25話
優しく俺を抱きしめる佑真さんの腕の中でこのまま時間が止まればいいのにと願わずにはいられない。
俺も佑真さんも忙しく、またこんなにゆっくりとした時間を過ごせるのはいつになるんだろう。
現実に引き戻すかのようにテーブルに置かれたスマホの振動が着信を告げた。
名残惜しく感じながら佑真さんから離れスマホの画面に目を落とすと、永徳からの着信を知らせていた。
佑真さんといると時間があっという間に過ぎてゆく。他の事など些細な事に思えて佑真さんだけを見ていたくなってしまう。
そんな自分に重症だなと苦笑しながらスマホの通話ボタンを押した。
「はい」
『翔!?やっと出てくれたぁ!』
永徳の大きすぎる声に思わずスマホから耳を離した。
「ごめん、病院から帰って寝ちゃってて……」
『ううん、傷はどう?まだ痛い?』
心配そうな永徳の声に早めに連絡をしなかった事を申し訳なく感じた。
「まだ少し痛むけど、大丈夫だよ。ごめんな」
『翔は悪くないよ!明日は学校来れそう?』
「明日は病院に寄ってから行くよ」
『そっか病院か、俺も行くよ病院!』
「え!?何で?」
思いついたような一際大きい永徳の声に眉をひそめた。
『心配だから……だめかな?』
しょんぼりした声に電話の向こうの永徳の捨てられた仔犬のような顔が容易に想像できてしま
う。
「だめっていうか、ガーゼ交換してもらうだけだから……へぁっ!?」
隣に座る佑真さんに肩を引き寄せられ優しく耳を噛まれると突然の事に思わず変な声が出てしまった。
『翔!?どうしたの?』
「い、いや、何でもない」
驚く永徳になんとか答え、まだ感触の残る熱を持った耳を抑えながら佑真さんを軽く睨むと不満そうな顔で目を逸らした。
『じゃあ明日病院で待ってるよ』
「えっ、だから来なくていいって」
『俺が行きたいだけだから』
そう言った永徳はそれ以上俺に断る隙を与えずにまた明日と電話を切った。
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