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第30話
まだ少し弱い輝きを放つ夏の朝の太陽を眺め今日も暑くなりそうだと気が重くなる。
病院に向かって緩やかな坂を上って行くと午前中の診察に訪れる人達の中に周りより頭一つ分は高い人影は遠くからでも誰だかわかってしまう。
「本当にいる……」
病院の入口に立つ高すぎる身長の永徳はいやでも視界に入ってきて、中で待っていてもいいのに外でじっと待つ永徳の姿が忠犬ハチ公を連想させて笑ってしまいそうになる。
「翔!大丈夫?まだ痛む?」
俺を見つけた永徳が駆け寄り視線を合わせるように腰を屈めた。
「もう平気。心配かけて悪かった」
「五十嵐さんは一緒じゃないんだね」
「佑真さん?来てないけど何で?」
俺の後ろをきょろきょろと見渡す永徳に首を傾げた。
「すごく心配していたから一緒に来るのかなぁって」
「病院くらい一人で来るって。それに佑真さんだってそんなに暇じゃないだろ」
残念そうな表情の永徳にもやっとした気持ちが湧いてくる。
「五十嵐さんってかっこいいよね」
「だから何?」
もやっとした気持ちが苛立ちに変わり、つい口調が強くなってしまう。
佑真さんを見た俺の知り合いは皆揃ってイケメンだとかかっこいいとか言う。
事実だし俺もそう思う。
永徳にしたって何気なく言ったんだろうけど、それがすごく苛立つ。
「何ってことはないけど……翔、怒ってる?」
苛立つ俺におろおろと困ったような顔をする永徳に大きく息を吐いた。
「悪い何でもない。行こう」
「でも顔色もよさそうだし安心したよ」
歩き出した俺の後を嬉しそうについて来る永徳はやっぱり犬みたいで懐かれているのは悪い気
がしなかった。
傷口を消毒して経過を見るだけの診察は思ったよりも早く終わり、会計を待ちながら2限目には余裕で間に合いそうな時間に安心して一息ついた。
「どうだった?」
「来週には抜糸できるってさ」
心配そうな表情を浮かべた永徳は俺の言葉に安心したように微笑んだ。
「あの……あのさ……今日って学校休めない?」
スマホで授業の確認をする俺に永徳が言いにくそうに弱々しい声で言った。
「無理。必須科目あるから」
「そっか……」
即答した俺にわかりやすくしょんぼりとする永徳がなんだか可哀想に見える。
面倒臭いと思いながらも永徳のこういう所に俺は弱くて放っておけなくなる。
「何で?」
隣に座る永徳を覗き込むと気まずそうに俺から目を逸らした。
「えっと……その、話したいことがあるんだけど」
「話ってお前――」
「違う、違うよ」
俺の事を知りたがる永徳にうんざりした顔を向けた俺に慌てて永徳が首を横に振る。
「じゃあ何?」
「俺の話を聞いてもらいたくて……」
不安そうな表情で俺の返事を待つ永徳に軽く聞き流せるような話じゃないような気がして断りたくなる。
だけど永徳のお願いと訴えかけるような目に俺の罪悪感が全力で稼働を始めてしまった。
「3限終わってからでもいいなら」
スマホを確認しながら溜息混じりに答えると永徳はありがとうと満面の笑みを浮かべた。
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