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第32話

 うるさい蝉の声を聞きながら数分歩くだけで額から汗が流れる真夏の(ゆだ)るような暑さの中、永徳の家にしなくてよかったと心の底から思っていた。 こんな暑さの中、あの距離を歩いたら俺は確実に干からびる気がする。 「お、お邪魔します」 「佑真さんならいないから」 緊張した様子で靴を脱ぐ永徳に伝えると、一瞬驚いて曖昧な返事をする永徳の声を背中で聞きながらリビングに向かった。 エアコンのスイッチを入れ、きょろきょろとあたりを見回す永徳に座れよとソファを指した。 「話したいことって?」 行儀よく座る永徳に麦茶を渡して隣に座り冷えた麦茶を喉に流し込むと汗がひいていくようだった。 「う……ん、俺、翔のこと知りたがって、それで嫌な思いしただろ……」 「嫌っていうか……言いたくないことってあるだろ」 ごめんと寂しそうに言いながらそれでも笑顔を作る永徳が自分と重なり苛立ちを覚える。 「無理して笑うな永徳。言いたい事は言えばいい、お前が何を言ったって俺はお前の事を嫌いにはならないから」 俺の言葉に驚いたように見開いた永徳の目から零れ落ちる涙に俺の方が驚いてしまう。 「……して……どうして翔はそんなに俺の事わかってくれるんだよ……」 絞り出すような永徳の声と涙に理由がわからず戸惑ってしまう。 俺はただ、怒らせたくなくて、嫌われたくなくて、人の顔色を窺ってしまう自分と永徳が同じような気がして気にせず言いたいことを言えばいいと思っただけだ。 「俺もそうゆうとこあるからだよ」 「翔も?」 鼻をずずっと啜り、俺を見つめる永徳に苦笑しながらティッシュを渡してやる。 「あぁ。よく注意されるけどもう癖みたいなもんだからなぁ。永徳の気持ちはわかるけど、俺には言いたいこと言えばいい」 「俺……結構うざいし、重いよ?」 その言葉に思わず笑ってしまった俺に永徳の不安そうな目から涙が溢れた。 「ごめんごめん、俺と似てるなって思って。心配しなくてもそんなことで嫌いにならないし、永徳いい奴だから好きだよ」 まだ少し笑いながら永徳の肩をぽんぽんと叩いた。 俺には佑真さんがいてくれる。面倒臭い俺でもそれでもいいとそばにいてくれる。 佑真さんがいなかったら寂しくて不安で今の俺はきっといなかった。 永徳は佑真さんに出会う前の俺のようで、放っておけない気持ちになる。 「ありがとう、翔も俺に何でも言ってよ、ねっ」 「俺の事よりお前の話だろ」 満面の笑みを浮かべ頼って欲しそうな永徳には申し訳ないが、俺が頼りたいのも話を聞いてほしいのも佑真さんだけだ。

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