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第33話
「俺には3つ下の弟がいたんだよ」
視線を落とし静かに話し出した永徳に黙って耳を傾けた。
「俺に懐いていてどこ行くにもついて来たがってさ……高校生の俺にはそれが鬱陶しくて、避けるようにしてた。寂しそうな弟に気付いていたのに……!」
後悔するように辛そうな表情で唇を噛み締める永徳になんて言えばいいのかもわからず、ただきつく握りしめられた永徳の手にそっと触れる俺に大丈夫だよと永徳が微笑んだ。
話しを聞く事しかできないどころか気まで遣わせてしまった……どう考えたって話す相手間違えたんじゃないのか永徳。
「その、今は仲良くしてんのか弟と」
「死んだよ」
「え?」
聞き間違いならいいのにと永徳を見る俺と視線がぶつかると永徳は寂しそうに笑い頷いた。
「イジメられていたらしいんだ。俺がちゃんと話を聞いてやっていれば弟は自殺なんてしなかったのかもしれない」
苦しそうな永徳の顔をただ見つめることしかできない自分が情けない。
今まで永徳はどれだけ自分を責めてきたんだろう。弟の死を自分のせいだとずっと苦しんできた永徳に俺は何をしてやれるんだろう。
「ごめん、お前が苦しんできたのも辛かったのもわかるのに、何も言えない」
言いたいことを言えばいいなんて偉そうに言っておきながら言われたって何もできない。
「こんな話聞いてもらえるだけで嬉しいから、だからそんな辛そうな顔しないでよ……」
困ったような永徳の声にまた気を遣わせてしまっていると頭を振って大きく息を吐いた。
「ごめん、俺、何もできないけど話してくれたことは嬉しかった」
「弟の事は辛いけど、俺の中で整理はついているんだ。ただ……何も知らずにあんな思いするのはもう嫌なんだ」
笑みを浮かべた俺を見る永徳の真剣な表情を少し怖いと感じた俺の鼓動が早まる。
永徳は兄さんとは全然違うだろ。なのに怖いと感じてしまう理由がわからない。
額に手を当て浅い呼吸を繰り返す俺を永徳が心配そうに呼ぶ声が聞こえた。
「お前……だから俺の事、知りたがったのか」
「うん……翔が何か悩んでそうだったから心配で、何も知らずにいるのはもう嫌なんだ……」
深く息を吸い込んで顔を上げると永徳が心配そうな顔をしていた。
俺と永徳は似ているけど根本が違う。
永徳は自分がいたのに何もできなかったと思い、俺は自分さえいなければと思っている。
そんな俺に気付いて心配する永徳の気持ちはわからなくはないけど……困ったな。俺の話をしたところで永徳の心配は変わらないだろうし、話したいとも思わない。
「永徳、俺はさ……俺さえいなければって思うことはあっても死にたいと思ったことはないんだよ。だからそんなに心配するなって」
「それでも知りたくなるよ」
立ち上がり永徳の頭をぽんぽんと撫でる俺に甘えるように腰に回した手を引き寄せると額を俺の胸へ預けた。
「……何してんだ」
「翔の心臓の音、落ち着くなぁって」
普段は見えない永徳のつむじを眺めながらやっぱり似てるなと笑ってしまう。
「あともうひとつ話しておきたいことがあって……」
「なんだよ」
まだあるのか、永徳の話の重さにキャパオーバーしそうだと小さく溜息をついた。
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